第15話・私に鉄の手錠は効かない

 ーーーーー


 神殿の前の広場に集まっていた人々が去る。

 私は残ってしゃがんでいる。


 空が光った後を追う、ガン!という音と振動を心地よく思った。


 思わず笑みがこぼれた。


「何が可笑(おか)しいんだ」


 ななめ後方からオーヤが怪しむ。


「別に。いい天気だなって」


 天井を見上げた。


 笑みを消して見上げた。

 目をそらさずに見つめた。


 つられてオーヤも見た。


 ドームの天井に点がついた。

 

 点は円になった。


「貴様、今、何をした!」


 我々はドームを外側から攻撃しても壊すことができなかった。

 ならばと、内側からやってみることにした。


 私はアキの攻撃を受けることでイシュリンが疲労し、ドームの結界が弱まるのを待って、内側から穴を開けた。


「謀(はか)ったな!」


 オーヤは、手首を合わせて攻撃してきたが、片膝をつき手錠の鎖を引きちぎると右手で盾を作って弾く。


 そのまま払ってオーヤを神殿の柱に高く叩きつけた。


 オーヤはアバラ骨を数本折り、口の端から血を流した。


 地に落ちたところで顔を向けて睨んでくる。


 立ち上がり説明してやった。


「私のように異世界から来た者には、鉄の手錠が通用しない」


 オーヤを見下す。


「飛翔で試してみればよかったのに」


「……試すわけがない!」


 笑いがこみあげた。

 つくづく、甘い。


 穴から侵入したラセンが、私の側に来て浮かんだ。


 ラセンはアキの側近で一番の忠臣だ。


「憂理さま、ご無事で」


「この通りよ、上手くいった。サジンは?」


「アキさまの攻撃の巻き添えになってしまい、転移しました」


「私も手伝おうか、ラセン」


「ひとりで十分です。退避してください」


 ラセンは神殿の前で立とうとするオーヤをちらりと見ると、準備のためすぐに去ったので、視線をそちらに戻す。


「お前は、今ここで殺す」


 手首を合わせ両腕を上げたところで、神殿の脇で立ちすくむ少年が視野に入り、それに気を取られた。


 背中を神殿の段差に預けたオーヤがすかさず反撃してくる。


 とっさに盾を作ったが、飛ばされて地面にこすりつけられた。


 神殿の柱が陰になっており、オーヤはそれに気がつかなかった。


「おれは女であっても容赦はしない!」


 腕を伸ばして私に狙いを定めると、手のひらを開く。


「オーヤ、来たばかりのお姉さんをいじめるな」


 カヤが飛び出して前に立ちふさがった。


「カヤ!」


 オーヤは攻撃を止めることができなかった。


 無責任な者たちの戦いに巻き込まれたカヤは血を流して倒れた。


 オーヤは勿論、私も動けなくなった。





 〈続く〉

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