第9話・飛翔に処女を捧げたい
「飛翔、離して」
飛翔は私のつながれた両手首をつかみ頭上に置く。
私の左手の薬指には金の指輪が光っている。
「おれと憂理の間には、誰も入れないはずだ」
「やめて」
「やめない」
視線を外さずにいる。
「こんな指輪ひとつで憂理を奪われるなんて、おれは認めない……!」
私の服装はもちろん以前と変わっている。
桜色のシルクのワンピースは首の下で少し切り込みが入り、ネックレスのひと粒のダイヤが虹色に輝いている。同じシルクの若葉色したベルトが胸の下からウエストにかけて交差して下ろされ、ほっそりとしたラインを見せつける。
こちらの慣習で、下着は身につけていない。
「魔力がなくなったら、アルマに利用されることもなくなる!」
「でも、こんなの、いや。こんなの、飛翔じゃない」
私の瞳に涙がにじむ。
飛翔は動揺し、視線をさまよわせた。
「……悪かった」
手を離し、体勢を戻した。
私は体を起こし、距離をとる。
「今夜のことは忘れてほしい」
つぶやく飛翔に首を振る。
飛翔は長く目を閉じたあと、腰を上げ去った。
私は小さく唇をかむ。
本当は引き止めたかった。
手錠で繋がれ抵抗できなかったことにしたかった。
飛翔は私を愛している。
私も飛翔を愛してきた。
愛琉にそれを見抜かれていた。
それゆえ、愛琉は引き裂こうとした。
魔力が失われてもよかった。
飛翔に処女を捧げたかった。
だが、私は愛琉に“女として誰にも愛されることがないもの”を押しつけられていた。
それが私の心を冷えたものにした。
私は必ず愛琉に復讐する――。
〈続く〉
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