第7話・イシュリンとの対面

 

 ワイクが裸足になり、神殿の前にある長い木でできた五段の階段を上がり、木の床に立つ。

 すだれを両手で分けた。


「イシュリン、“破壊の妃”を連れてきた」


 呼びかけられ、その人物が立ち上がった。


 こちらへ来る。

 私は口の中が乾く。


 その人物は、すだれを開け待っているワイクに、


「ありがとう」


 と、まず礼を言う。


 飛翔がそっと私を押し出す。


 前に立たされた。

 頭が押さえつけられたように顔が上げられなくなった。


 私は人々を抑圧してきた。


 今ここで殺されるかもしれない。


 だが、


「大丈夫」


 と、優しい声がかけられた。


 恐る恐る彼を見た。


 イシュリンは、物腰の柔らかい、ごく普通の若者だった。


 草色の細かな髪を顎の長さで切ったレジスタンスの指導者は、青空のように澄んだ穏やかな目を私に向けてきた。


 神から下された特別なチカラを使う神官、という“気”はなにも感じない。

 ただ、静かで心地よい風をまとっているだけだった。


 想像と、まるで違っており、私はたじろいだ。


 我々はいくら激しい攻撃をしかけたところでこのドームを傷つけることはできなかった。

 それほどのチカラを持つからには、もっと屈強で恐ろしい男なのだと思っていた。


 イシュリンは素足で階段を降りて、私の前に来る。


 手を取り、


「こんな手錠をかけさせてすまない」


 と、目を見て謝られた。


 私はなじられると思っていたにも関わらずいたわられ、唇を噛み、こらえたが、どうしても涙があふれた。


 飛翔がそれを見て彼に踏み出す。


「イシュリン、憂理のしたことは……。許せないかもしれない。けれど、憂理には憂理の事情があったはずなんだ。どうかここに置いてやって欲しい。おれでつぐなえることがあるのならなんでもするから」


 身振りを交え、必死に訴えた。


「この少女は飛翔の幼なじみだと聞いた」


 イシュリンは飛翔に気持ちをそわせる。


「私たちで保護しよう。魔力の使い方も、それに頼った生き方も、間違いだったとわかるはずだ」


 私にまた目を戻した。

 安心させようと肩に左手を置く。


「私がきみに危害を加えることは決してない。誰にも危害を加えさせない。きみを守り、ここで静かに暮らせるよう援助する。アルマの道具にされ、町の破壊のために利用されることももうない」


 私はうつむいて目を閉じる。


 飛翔は安堵し、彼の右手を両手で握った。


「ありがとう、イシュリン。ありがとう」


 私に向き直り、抱きすくめた。


「憂理、よかった。また一緒にいられる。一緒に育った子供の頃に戻れる。同じ世界にいるのに、ひとりぼっちだなんてことはなくなる」


 飛翔は声をつまらせたが、私は、ふたりでいられるのは今日の一夜しかないことを寂しく思った。





 〈続く〉

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