第6話・家々の間を通って神殿へ
素朴な土の道を私は飛翔について歩く。
畑や家畜の世話をする小屋を過ぎ、石垣に突き当たり、左に折れる。
家々が建ち並ぶ中に入った。
レンガや石や木や土で出来た二階建ての家が両側に続く。
家と家の間は二階部分で紐を渡し、洗濯物が乾かされ、軒先には野菜が吊るされ干されている。
家の前ではテーブルを出し、年寄りの男が数人コーヒーを飲みながら語り合ったり、老女は編み物をして日向ぼっこをする。
犬が吠えて過ぎ、香辛料が袋ごと店先に並べられ、豆腐が沈んでいる桶まであった。
炊きたての白米と味噌の香り、ギョーザを焼くジュージューという音、煮込まれたカレーの匂いもした。
地域が異なるはずの家が連なる細く緩やかな道をかなり長く歩いた。
家並みの間を通り抜けるための近道にしている細い通路もところどころにあった。
食材のみならず、銅葺きの屋根やガラス窓、漆器なども確認した。
ここにある全てのものがドームの自給でまかなえるはずもなく、かなりの協力者が外にいることを知った。
協力者側はこのドームで生産されるものを神から下された特別なものと考えており、ここで生産することのできない物資や貴重品と交換しているのだと容易に測れた。
進むうちに、家々は神殿を中心にして全体が渦巻きの形に並んでいると分かった。
「神殿はドームの中心にある。魔法陣のように円形から内側に向かって魔力を集中させるのではなく、逆に、神殿からイシュリンを通じて神のチカラを放つ作りになっているんだ」
飛翔が教えてきた。
「イシュリンは食事や人々と触れ合ったり、魔力を使う者を指導する時以外は、昼も夜も神殿の中央で瞑想してドームの維持に集中している。あまり眠らないけど子供の頃からそんな生活をしていたから慣れていると言っていた」
私は連れられ、急勾配の坂を上っていく。
やがて、二百軒以上つづいた家々を抜け、神殿にたどり着いた。
神殿の前はテニスコートを二面分、横にした広さがある。地区の代表者が集まるための場所に思われた。
立ちはだかる神殿を見上げる。
神社と寺とローマの神殿が合体したような外観をした木造の建物だった。
山形になった立派な屋根の前面には読めない文字が刻まれており、それを直径一メートルはある太い柱がぐるりと等間隔に並んで支えている。ネイチュの森を表しているのだと分かった。
前面から見て奥は壁になっており、そのさらに奥には部屋があるようだったが、それ以外の三方は柱以外にさえぎるものはない。
その代わり、床から二メートルの高さの梁(はり)に、長く軽いすだれがかけられている。
木の皮を細く裂いて編まれたもので、静かに揺れながら光と風を穏やかなものにしていた。
そのすだれ越しに、誰かが板の間の中心で座禅を組んでいるのが見えた。
彼がそうだとわかり、急に足が震えた。
そして、神殿の正面に連れられた。
〈続く〉
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