第5話・ドームに潜入する
私は飛翔たちに連れられ無人の町から離される。空を浮遊して移動した。
深い森が足の下になり、さらに進むとうっすらと光る巨大なドームが見えてきた。
そのすぐ手前で地上に降ろされた。
間近で見ると、頼りなさげに薄く張った膜がドームの正体だった。
我々が破壊しようと何度も激しい攻撃を加えたにもかかわらず、どうしても壊せずにいたものがこれだ。
私は飛翔に手をとられ、前後をワイクとオーヤに挟まれている。
先頭のワイクが半透明の膜を歩いてすり抜けると、ドームは飛翔に続いた私もあっさりと受け入れた。
膜をくぐる瞬間、まぶしい光の帯を感じた。
体の全てがドームの内部に入ると、そこは青葉が美しい落葉樹の林だった。
近くの木にとまっていた白い鳥が美しい声で歌って飛び、私はそれを目で追った。
鳥は高く舞い上がり、薄い膜は、そのはるか上で透明度を増している。
ドームは天井まで、およそ百メートルの高さがあるとわかった。
そのまま連れられ林の中の道を行く。
目の前が開けた。
思わず立ち止まった。
大きな木製の神殿が目に飛び込んだ。
高さは十メートル以上あるように見えた。
いくつかの太い柱に支えられ、屋根に三角形を後ろに伸ばしたものを載せている。
小高い場所にあり、ここから一キロメートルは離れている。
その神殿を数十軒の家が囲んでおり、ドームの中でひとつの小さな町を作っていた。
そこへ向かう道の両側にはよく耕された畑の畝(うね)や青い麦畑があり、囲われた柵の中で放牧された牛がのんびりと草を食んでいる。
見渡すほどの広さがあり、ドームの全体の奥行は見えなかった。
我々は攻撃のためにドームを上空から何度も観察しており、卵を横にして半切りにした形だと知っていた。
長い部分で千メートルと予想していたが、それはまやかしであり、実際は想像していたよりもはるかに大きなものだった。
「イシュリンは、あの神殿でリバティーのドーム状の結界を保つための瞑想をして、おれたちを守っているんだ」
飛翔が説明した。
建物へ近づくにつれ辺りがにぎやかになる。
広い道の脇には小川があり水車が回って小麦をついている。
下流では女たちが洗濯をしながらおしゃべりをして笑う。
ニワトリの世話をする少年は逃げたニワトリを追って卵を落としそうになっている。
はしゃいで遊ぶ子供たち。
カンナをかける者。鍛冶屋が鉄を打つ音。
人が息づく普通の暮らしがそこにあった。
我々に反抗するための男女を養成する軍隊のような場所を想像していたので気がふさいだ。
私は誰もいない廃墟のような町をひとりで歩いていただけだった。
「オーヤ、積んだ石が重すぎて荷車が動かせなくなっている、手伝ってくれ」
道の端で男たちが助けを求める。
「あとでな」
オーヤが答える。
「この中では魔力を使わないことになっている。基本的にはな」
後ろから私に言ってきた。
かけられている手錠が見えないように私の手首は目立たぬ色の布で隠されていた。
ニワトリを捕まえた十二歳ぐらいの少年が後戻りしながら聞いてきた。
「飛翔、新しく保護した人?」
「そうだよ」
少年は私に笑いかける。
「早くリバティーに馴染んでね。みんな優しいし、平和でいいところだよ」
抱えたニワトリをまた逃しそうになって抱きなおす。
「おれは、カヤ。あんたは?」
私は名前が言えずにいる。
飛翔が助け舟を出す。
「彼女、ちょっと疲れてるんだ」
「ごめん」
カヤははにかみ、そこで足を止めると私たちを見送った。
「神殿に新しい人を連れて行ってイシュリンに紹介するんでしょ? また母ちゃんのオムレツを持って行くって伝えて」
大きく手を振る。
「母ちゃん、美味しかったって言われて大喜びしてさ、もっと美味いのを作るって張り切っているんだ」
〈続く〉
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