第4話・手錠をかけられても構わない
オーヤと呼ばれた男は黒い目をしており、同じ色の短い髪を天に向かって立たせている。
手首を内側であわせると私に向け、攻撃体勢を取った。
声を低くする。
「飛翔、どけ。その女を殺す」
「憂理は、アルマに利用されただけだ」
飛翔は私を背にしてオーヤから守る。
オーヤは私から目をそらさない。
「その女は町の大小を問わず破壊を繰り返してきたんだぞ。一万人以上が住む町と家財を失った。家族や土地と引き離されてアルマのための労働に連れていかれた者も多い。これ以上、見過ごすことはできない。その女を許す訳にはいかない」
飛翔は強く首を振り、反論する。
「おれだって落ちた場所がアルマ側だったらアルマの手先になっていたはずだ。従わなかったら殺されていたかもしれない。憂理はアルマの道具にされた被害者なんだ。おれは憂理をイシュリンのところへ連れていく。イシュリンなら、わかってくれるはずだ」
「イシュリンのところへだと?」
オーヤの声がひときわ大きくなった。
「何をやっている?」
もうひとり、男が来てオーヤの横の空中に立った。
目は、はっきりした青で、肩より長い金髪を先だけ束にして編んでおり、オーヤよりも年上に見えた。
「ワイク」
「その娘は“破壊の妃”だな? 飛翔がこの町の破壊をやめさせたのか?」
「そうだ。ワイク、おれは憂理を助けたい。おれたちが住むドーム・リバティーへ連れていきたい」
「飛翔!」
オーヤは反対したが、ワイクは片手を口にあて少し考えた。
「飛翔が破壊をやめさせたことで今回はその娘を見逃すとしても、いずれ破壊を再開し、今度こそ殺すことになる。確かに、このままここに置いておく訳にはいかないな」
腰につけていた手錠をはずして持つ。
ふたつの輪が短い鎖でつながっている。
「鉄の手錠をつけさせよう。魔力が使えなくなる。娘がそれを受け入れるのならリバティーへ連れていく」
重たい金属のこすれる音が私の背筋を凍らせた。
ここへ来てから魔力が使えなかったことはない。
私にとって、それは息をするのと同じだった。
「怖い」
飛翔の背中にしがみつく。
飛翔も私に手錠をかけさせることに耐えているようだった。
顎をあげ、深く息をはき、仲間に時間をもらう。
「憂理、ほんの少しの間、我慢してくれ……。イシュリンは憂理に危害を加えるようなことは絶対にしない。必ず救ってくれる。手錠もすぐに外してもらえるはずだ。おれを信じてほしい」
私はまだ恐れている。
「おれが憂理を守るから」
飛翔は私を振り返り、目を見て約束する。
私は一緒に育ってきて、飛翔が約束をたがえる人ではないと知っている。
ずっと、特別な思いを抱いてきたのもそのせいだ。
飛翔を信じる。
自分のその気持ちを信じた。
左胸につけていたアルマの紋章は金で直径が五センチもあり、皇太子の妃をしめす特別なものだったが、外してその場に捨てた。
アルマが巻く薄いショールも、背中から巻いて胸を覆うのではなくではなく、前から首にかけ垂らした。
そして、飛翔の後ろから出ると、両手を前に差し出す。
冷たい鉄のそれが手首にカチリとはめられた。
飛翔は私の左手の薬指に光る金の指輪から目をそらした。
〈続く〉
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