第3話・飛翔との再会
敵というのは、我々、アルマ帝国の統治に従わない者たちのことをさす。
もっとも厄介なのが、イシュリンという人物だ。
年齢は、アキと同じで二十歳(ハタチ)。
五年前、皇帝が自らを信仰の対象とするために神殿を廃止した際、逃れた最後の神官だった。
以来、“抵抗する者たち”――レジスタンス――を集めて指導者となり、ネイチュの大部分をしめる深い森の中に拠点を置いていた。
神官は神と対話する立場にあり、特別なチカラをあやつることができた。
魔力ではないが似た技を使った。
そしていまいましいことに、イシュリンは盾よりも強力で大きな結界を作ることができた。
しかも面ではなくそれを半球にすることで、強大な魔力による攻撃を受け止めることなく受け流して無効にしていた。
そうやって自らの拠点を半球の巨大な結界――通称ド-ム――で護っており、我々はそれを破壊できずにいることでレジスタンスの根絶やしに手こずっていた。
だが、方法はある。
イシュリンをド-ムの外におびき出し疲れさせることだ。
特別なチカラは精神力と体力を必要とする。
疲労すればチカラが弱まる。
イシュリンも人間である以上、例外ではない。
我々の策はこうだ。
レジスタンスではない一般の者たちの町を攻撃する。
そして、その攻撃は“町がレジスタンスに協力しているからだ”と話す。
それが本当かどうかはどうでもいい。
イシュリンをド-ムからおびき出すためのエサにしているだけだ。
それに、私には目的がある。
元の世界へ戻って、私をこんな目にあわせた愛流(あいる)に復讐する。
こんな目――。
夫が私を抱かないことで守られる秘密を持たされたのだ。
私の心はとても冷えており、一番安易な方法、――ただ町をぐるりと歩き回る方法――で、“レジスタンスに加担する”町の全部を破壊した。
とはいえ、人々はあらかじめ“避難”させてある。
殺しはしない。
それには、いろんな理由がある。
町を再興させたところで高い税金をかける。
あるいは、何度も破壊し、憎しみの矛先をレジスタンスに向けさせる。
別の土地へ連れて行き、直接我々のための労働をさせる……。
そうやって、破壊と連行を阻止しようとレジスタンスが出てくるのを待っている。
麦でも踏むようにそれを行う私は、“破壊の妃”と呼ばれ恐れられたが、“処女の妃”とささやかれるよりはるかに上等だと思っている。
ドームは我々の攻撃を嫌って、ときに見渡す限りに思える深い森の中を頻繁に転移していた。
そして、チャンスが到来した。
今回、タ-ゲットにした町の近くにド-ムが現れたのだ。
イシュリンは鼻先で行われる“嫌がらせ”を阻止するために必ず出てくるはずだった。
私はいつものように人々を追い出すと、目ざわりなレジスタンスを倒せる喜びに少し浮かれながら、町を守る壁のすぐ内側の道をひとりで歩いていた。
町を取り巻く壁が石の町、レンガの町、木の町、土壁の町、そもそも壁がない町など、いろいろな町があったとコレクションのように思い出したりもする。
今回は、石の壁に囲まれた石づくりの町だ。
頑丈な分、破壊する魔力も強いものになる。
私はひとりぼっちであり、誰かに後をつけられていたことに気づかなかった。
突然、背中に手を当てられた。
「歩みをとめなければ、殺す」
懐かしい声に体中のちからが抜けた。
「飛翔」
振り返って彼を見た。
涙が止まらなかった。
飛翔が、はっとする。
「憂理、なんで……?」
飛翔も言葉が続かない。
「飛翔、会いたかった、会いたかった!」
私は今まで我慢していた辛い思いがあふれて止まらなくなった。
この世界に味方などいないと思っていた。
なにもかも忘れて飛翔に抱きついた。
飛翔の方では、“なにもかも忘れて”、という訳にはいかない私の“悪行”の数々が頭をよぎっていた。
それでも私を受け止めた。
抱きしめた。
「飛翔、やられる!」
仲間らしき男の声が後方から聞こえた。
私は目を見開く。
「オ-ヤ、誤解だ」
飛翔は私を抱いたままで男に肩を向けかばった。
私がそちらを見上げると、二十代半ばと思われる体格のいい大男がニメートル離れて空(くう)に立っている。
魔力がみなぎっている。
相当、強いとわかった。
私は、ここでこの男を倒しておけば我々の有利になると考えた。
〈続く〉
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