第43話 いきなりの公認。

もともと、時絵のお気に入りだった学だったが、先日の振袖選びでいきなりの“公認の彼氏”になってしまった。おかげで瑠奈は門限も泊まりもいきなりのフリーになってしまった。雄一郎には、時絵からうまく言ってあるらしく、静かな日常を過ごしている。


「瑠奈?」

「何?」

学のマンションで並んでDVDを観ていた時のこと。おずおずと、学が切り出す。

「俺ってさ、朝倉家では公認じゃん?」

「だね。それで?」

「まだ、…ダメ?」

実は驚いたことにまだ“おあずけ”なのだ。泊まりでも、キスまででそれ以上のことは、起こってないのだ。

「う…。あらためてきかれても…。」


そう。あらためてきかれても困るのだ。この場合、いきなり押し倒す方がマシなのかもしれないが、相手は瑠奈である。最近おとなしくなったとはいえ、鉄拳が飛んでくる可能性は否めない。

「じゃあ。今、押し倒してもいい?」

言い終わると同時にクッションが飛んだ。

「無神経!バカ!嫌い!」

瑠奈は赤い顔をして怒鳴る。怒られたことで学は涙目だ。鉄拳ほど痛くないが、心は痛い。

学としては、瑠奈が怯えるくらいならと、待つことにしていたが、元気なお年頃なので、蛇の生殺し状態は、正直つらい。


と、瑠奈は荒々しい音を立てて出ていってしまった。


「あんなに怒らなくても…。」

怒って飛び出して数分後。やっと口を開いた学が発した一言だ。瑠奈に免疫がないのは承知の上だし、まだどこか怯えていることもわかっている。


「もう、イヤって言ってばかりじゃ、ダメなのかな。」

行き慣れたミスドでコーヒーを前に頬杖をつく。コーヒーは減らないまま、目の前で冷めている。ドーナツも手つかずのままだ。瑠奈としても、我慢させていることをわからないわけじゃない。だが、体を預ける踏ん切りがつかないのだ。


お互いに大好きなのは同じだが、この温度差は、もどかしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る