第42話 振袖選び。
早速、週末には3人で貸し衣裳店に行くことにした。学の申し出に、時絵は大喜びだ。
「和装では、似合う色がお洋服の時とは違うのよね。」
時絵が言うには、だからこそ、どんな色が似合うかわからないから楽しいんだそうだ。
店に着くと、色とりどりの振袖に目移りする。一番喜んでいるのは時絵だ。
「なんだか、結婚式の衣装選びみたいね。」
ありがちな能天気な言葉が時絵の口から飛び出す。
「お母さん、学が引いちゃうでしょ!…ごめんね。聞き流して。」
母をたしなめ、学に気遣うが、学は気を悪くすることもなく。
「そうですね。予行演習ってことで。」
などと調子を合わせて楽しそうだ。
「せっかくだから、色を合わせるとか、お揃いの感じにしたら?」
「いいですね〜。」
時絵と学の息の合う様子に、瑠奈が引いてしまう。
「じゃあ、振袖を決定しないと。」
「そうだぞ。早く選べよ。」
「〜〜〜‼︎‼︎‼︎」
すでに何のための衣装選びだがわからなくなっている。
さて、と見てもたくさんあり過ぎてピンとこない。出遅れたとはいえ、種類が豊富に揃っている。しかし瑠菜は見ているだけで、手を伸ばすことすらしていない。どうしたら良いかわからないのだ。
担当者に見繕ってもらい、数枚を羽織ってみた。意外なことに、赤はよく似合っていた。黄色もなかなかだ。
「普段はこういう色は着ないから…。」と言っていた色が意外に合うのだ。時絵が言っていたことに納得だ。なじみのある紫も悪くない。
そこでふと思い出したのが、家にある時絵の振袖。似た色のものを探して羽織る。
「お。いいじゃん!」
学が声を上げる。と同時に店員が微笑む。
「…実は家に、母のなんですけどよく似たものがあるんです。」
申し訳なさそうに瑠奈が言う。
「そうでしたか。では帯や小物だけこちらでご用意することもできますよ。帯や小物の合わせ方でお母様の時と少し違う雰囲気で着られるのも楽しいですね。」
店員は、気を悪くする風でもなく、小物を見立ててくれる。
「お母様としてはいかがですか?」
「本当?瑠奈、いいの?ちょっと…すみません。」
瑠奈がうなずくと時絵は急いで出ていった。
「どこ行っちゃったんだか…。」
唖然としていたら、時絵が息を切らし戻ってきた。腕にはたとう紙の包みが載っている。
「良かった、車に積んでおいて。これと実際に合わせてみてください。」
時絵の“大正浪漫”を見ると、店員は笑顔になった。本当に和服が好きなのだろう。そっと瑠奈の肩に羽織らせると先ほどまでの柔らかい微笑みとは打って変わり、目が真剣になった。
「保存状態も良いし、お召しになられた中で一番お似合いです。こちらに決めましょう!お嬢さんの小物と、こちらのお客様の紋付袴を合わせていきましょう。」
今度は時絵の頰を涙が伝った。
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