第11話 バカモン!

…思い出した。あれは姉貴が中学生の時。幼なじみの梨乃とケンカしたときのことだ。ある日、姉貴が怒って帰って来て、すぐに梨乃が追いかけるようにやってきて、謝り続けたんだ。梨乃の話だと、梨乃の誤解で姉貴を傷つけてしまったと言っていて、俺が姉貴をたしなめて、梨乃と話をさせたんだった。


「姉貴、相手と話をするべきだよ。あの時だって…。」

「バカモン!」

「そんなこと言うなよ。話し合えよ。」

「バカモン!!」

瑠奈の声がさらに大きくなった。


「このバカモン!高校生がビール飲んで寝坊とは何事だ!」


…エ?


反射的に起き上がると、目の前に父親の雄一郎がスーツ姿で立っていた。

二人して飲みながら眠ってしまったらしい。雄一郎の背後ではのろのろと起き上がる瑠奈の姿があった。

「親父~。朝からでけー声出さないでくれる?…頭痛い…。」

「お前もお前だ!高校生に飲ませて!だいたいお前だって未成年だろうが!」

「飲んだの、ほとんど私。浩司は一口だけだから、怒んないで。」

「お前は~!」

「ハイハイ。あんまり怒ると、そのバーコード、もっと薄くなるよ。」


言いながら瑠奈は浩司に目配せする。

“今のうちに部屋から出て!”

「何~!」

唖然としている浩司に瑠奈はまた目配せする。

“早く!”


瑠奈は、わざと怒らせて時間をかせいでいるのだ。浩司が瑠奈に手を合わせてそそくさと部屋に行き、制服に着替えると、朝食を食べずに家を出る。


「あんた達、元気いいわね。弁当くらい持って行きな!」

玄関で母親の時絵が慌てることなく、しかし瑠奈と雄一郎とのバトルの音に耳を傾けながら弁当を手渡す。やんちゃ坊主のような瑠奈と、その後ろをついてまわるようにやんちゃしていた浩司の母親だけあって、多少のバトルは見守ってきたので、この程度で慌てるような女性ひとではない。


「あ。ありがと。」

「ホラ、瑠奈が時間かせいでいるうちに行きな!」

「行ってきまーす!」


浩司を見送ると、時絵は悠然と階段の下にに向かう。

「さてと…。」

大きく息を吸い込む。


「お父さーん!遅刻するわよー!」


雄一郎が時絵の声にハッとして、時計を見る。

「まったく。やっとおとなしくなったと思ったら…!」

捨てゼリフを残して出社していく雄一郎であった。




「瑠奈。今日、学校は?支度しなくていいの?」


時絵は、雄一郎を見送ってから、瑠奈に声をかける。





「朝イチじゃないから平気。…うー。頭、いてー!」

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