第12話 瑠奈とオカン。

「コーヒー、飲む?」

「うん。ありがと…。」


瑠奈の前にコーヒーを置くと、時絵はクスクス笑いながらテーブルを挟んで向かい合う。

「久々にやったわね。何かあったの?」

「別に…。アチッ!」

「今日は何時から学校?今に“お迎え”が来るんじゃない?」

「来ねーよ!」


ピン・ポーン…。

インターホンが鳴る。

「来たじゃない。」

学がモニターの向こうで頭を下げている。

「いないって言って!」

「“いないって言って!”って言ってるんだけど。」

呑気に応対する時絵に瑠奈が慌てる。


「何やってんだよ!」

乱暴にインターホンを切ると、次はスマホが鳴る。きっと学だろう。

「ケンカ?彼氏なんでしょ?」

「彼氏じゃない!」

「違うの〜?けっこう気に入ってるんだけどなー。」

「アンタが気に入ってもしょうがないでしょう!」

「若いっていいわね。そうそう。浩司にどのくらい飲ませたの?一応、高校生なんだからね。」

少しだけ怖い顔をして釘を刺す。

…良かった。意外。こんな一言で済んだ。

瑠奈はホッとする。時絵が怒った時は、雄一郎よりもタチが悪いのだ。


「はーい…。」

「電話くらい出なさいよ。失礼よ。」

「ったく!どいつもこいつも!…もしもしッ!朝からうるせーんだよ!」

部屋に向かいながら通話ボタンを押す。


「昨日は本当にすまなかった。」

「何に対して?騙したこと?」

「そう…。」

「それより、私といると、ご縁が遠のくっつったの、アンタだろが!学校なら一人で行けば?」

「そのことも、ごめん。」

瑠奈の怒りは収まらない。騙すくらいなら、自身の見合い話について、きちんと相談すれば良かったと後悔しきりの学だが、瑠奈は容赦ない。

「何にしても、寝起きだから出られない。じゃあね。」

「…待ってくれ!今日は俺がミスドで待つから。」


返事をせずに電話を切ると、ベッドに潜り込む。…と、そこに時江がやってきた。

「また寝てんの?学校あるんでしょ?」

「ほっとけ!」

「洗濯したいから着替えて。ホラ!」

「寝させてくれたっていいじゃーん!」


観念して、しぶしぶベッドから出て着がえる。時江は洗濯物をためるのが嫌いなので、コレを言われると家族の誰もが逆らえないのだ。


「かーっ!かったる~!」

リビングに降りていき、ソファに横たわる。

「!!」


視線を感じて起き上がると、斜め向かいの一人がけソファに学が座っている。

「ま…ひ…なに…?」

“学、人ん家で何やってんだよ?”と言おうとしたがびっくりして言葉にならない。

「ごめん。瑠奈のお母さんが、どうぞって言ってくれたから。」

学が済まなそうに言う。


「オカン、何やってんだよ!」

思わず声を張り上げる瑠奈だった。

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