語彙スケアリーモンスターズ
@OilDrinker
第1話
「さあ、ついにやってきたスケアリーモンスターズ全国大会決勝戦!東日本代表チームの現在のモンスターは【『日本』の誇る『恐竜』をも殺す『異次元』の『酒』】!これに対し、西日本代表チームはどうエンチャントしていくのか!」
テレビの中で司会者の男が叫ぶ。ステージ上では、昔の人間であれば想像もつかなかったような異次元のモンスターが、3Dホログラムで映し出されている。そして、ステージの下はこれ以上無いような熱狂の渦に包まれている。持つ者はアリーナで、持たざる者はテレビを通じて、日本中の誰もがその行方を見守っていた。
もちろん、
「はぁ...俺も強い語彙があれば戦えるのに...」
「語彙スケアリーモンスターズ」、略してスケモン。想像と機転に己の全てをぶつけ戦う、世界を変えたと言っても過言ではない、全く新しいゲームである。
5人1チームとなり、敵のモンスターを倒すため、自分たちのモンスターを強化していく。まず自分の手札を使い自らのモンスターをあえて倒し、手札とモンスターを融合させることでモンスターを更なる高みへ導いていくのだ。
「西日本チームのモンスターは【『音速』で『財閥』を破壊する『ヒグマ』の『軍隊』】。生物である以上酒には弱いですが...
おーっと、ここで西日本チーム赤司、『スクラッパー』を出した!これにはヒグマもたまらない!」
「スケモンにおいては、あらゆる物理的対象を上から叩き潰せる強カードですね。」
「『酒』を無効化するために『スクラッパー』を中心に持っていくのでしょうか...?出ました!西日本チームの新モンスターは【『ヒグマ』の『軍隊』すらも『音速』で潰す『スクラッパー』】!」
熱狂のその中心で、ヒグマを無惨に押し潰す狂気のスクラッパーが新たに誕生する。
「単純火力では無類の強さを誇るモンスターが完成しましたね。しかし、東日本チームは既にモンスターの中に『異次元』が見えてます。次の切り返し次第ではまだまだ分からない勝負ですよ。」
新しい語彙、新しいモンスターが告げられる度、観客のボルテージは頂点を更新していく。
しかし、本来そのステージに立つはずだった拓也は、一人で住むには広すぎる家で、テレビを眺めることしかできなかった。
元々、拓也の母親、
しかし、拓也の父が突然の病に倒れこの世を去ってからすぐ、真実は突如失踪してしまった。烏鷺家の持つ全てのカードを抱え、拓也ただ1人を残して。
スケアリーモンスターズというゲームは、スケモン公式委員会が販売するカードを利用しないと遊べない。細かい理由は幾つかあるようだが、少なくとも公式カードでなければ公式大会には出ることができない。そして、数十万もの種類がある語彙カードの中から目当ての強カードを掴み取るの事は並大抵のことではない。これが各プレイヤーが完全に同じデッキとはならず、毎回違うゲームが展開される理由でもある。
しかし、真実は烏鷺家の数万もあったカードを全て持ち去ってしまったのである。今の拓也には、彼が生活費を切り詰め何とか買った、あまり強いとは言えない語彙カードしか残されていない。
「『猟銃』『優しさ』『気分の問題』『キックスターター』『ブラック企業』...マシなのをかき集めてもこんなんもんなんだ、勝てるわけないよな...」
一度はスケモンを諦めることも考えた。しかし、拓也にはできなかった。この国にスケモンが浸透しすぎた事も原因かもしれない。
今の拓也の楽しみは、少しでも強いカードを求め、語彙パックを引くことだけだった。と言っても、バイトだけで生計を立てている以上、せいぜい週に1パック買うのが限界なのだが。
「さて、大会も見終わったし、さっき買ったパックを開けるか...」
カードを包むビニールに切れ目が入る。中の5枚のカードを順番に確認していく。
「『もやし』、『泥棒猫』、『ガラスのハート』、『スケート』...ろくなもん入ってないじゃねえか...」
しかし、最後の1枚を見た時、雲のかかっていた拓也の目の色が変わった。
「『終焉そのもの』?
そのカードは、拓也が見た事のあるどのカードよりも明らかに強く、どこか美しく、そして名状し難い、禍々しい何かを放っているように感じた。
「なんだ、このカード...こんなの、どの大会でも見たことないぞ?」
その時、世界が動いた音がした。それは拓也の空耳などではなく、確かに世界が動く音だった。
語彙スケアリーモンスターズ @OilDrinker
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