第15話 炎の料理人

 ほんわかほんほん。

 

 あれから暫く、遥にあまり登校拒否児られても鬱陶しいので。


『燃やすわよ、登校しなさい』


 と、匿名で送った応援メッセージが聞いたのか、彼女は素直に登校してくれた。


 そこから、遥の逆襲が始まり、イジメの第二ラウンドが開始されることも無かった。人を呪わば穴二つ、遥は以前の輝かんばかりのオーラはすっかりと見る影をひそめ、火におびえる小動物の様になってしまった。こうなるとルサンチマンの大爆発、下剋上の開始である。

 泥炭地火災イジメは、次のターゲットに元付け火役であった遥を選んだ。火遊びをしていて自分に火が回ってしまった愚か者と言う結果になってしまったわけだが、まぁ広い目で見れば遥も小泉の奴の被害者と言ってもいいかもしれない、孤立してしまった遥の学内での面倒を私が見てやることにした。

 我ながら人がいい?違う、始めての放火現場をおっちゃんに見つけられた時の事を思い出して恥ずかしくなってくるから、黒歴史を消火するために嫌々ながらだ。

 おかげで遥は、私に怯えつつも懐くと言う微妙な立ち位置になった、ヤンデレ化しないか心配であるが、いざとなったらまたキャンプファイアに連れて行ってやればいいだろう。


 首になったアルバイトについては、別のバイトを始めることにした。今度は少し自分に素直になって火を扱うバイト、バイト先は近所の中華料理屋さん、同じ飲食店でも今回はフロアーじゃなくて調理の方の門をたたいた。

 私は料理が得意と言う訳ではないが、火の取り扱いには慣れている。炎の料理と言われる中華料理は正に天職と言う感じだった。

 まぁ……包丁の取り扱いについては要課題だが。


 そんな訳で、おっちゃんに会いに行くときには、私の実験作品手料理を持っていくことが日課となった。


「来たよーー」

「おう、楓ちゃん、また来てくれたのか」

「ありがたやありがたや」


 1人分作るのも2人分作るの同じこと、と言う訳ではないが、私はおっちゃんとその同業者から、材料代と引き換えに手料理を振る舞う事が、週末恒例の行事となった。私は料理の腕が上がる。おっちゃんたちは少ない料金で女子高生の手料理が食べられる、お互いウイン・ウインの関係だ。幸いお店のマスターも辛酸をなめていた時期があるらしく、こう言った人たちに理解のある方で、喜んで厨房を貸してくれている。


「私、大学に行かないで調理学校行くのも良いかなって思ってんだー」

「へぇそうなのか、良いじゃねぇか嬢ちゃん」

「えへへ。おっちゃんならそう言ってくれると思ってた」


 誰にも内緒な渾身のカミングアウトに、おっちゃんはなんてことない様に返してくれる。

 まだ、このは灯ったばかりの小さな火。大学に進学したとしても放火学なんてものは学べまいと、おぼろげながら考えていた私が、炊き出しもどきを始め出してから宿ったばかりの小さな夢。

 私のおままごとのような、芽吹いたばかりの夢に賛同してもらった私は、照れ笑いを浮かべながらおっちゃんたちと一緒にランチを食べる。


 今日のメニューはチャーハンとから揚げついでにサラダだ。チャーハンにはお店で余った食材をありったけぶち込んだ五目チャーハン、まだまだマスターの様にぱらっぱらでほっくほくとはいかないが、初めて中華なべを振るった日から考えてみれば、多少は上達したと思う。要は火力と油だ!


 から揚げに関しては、多少は自信がある。火の音を聞けば揚げ加減を調節するのは容易い。ゴーゴー燃えるコンロの前に立ち、ジュージュー言わせる油の前で、カリッカリに上がる様子を見てれば完成。火に見惚れて丸焦げにしないように要注意だが、長年火を取り扱ってきた私には、油で燃やされる鶏肉の内部の様子まで手に取る様に想像できた。

 これに関してはマスターもお墨付きでを与えてくれて、近いうちにから揚げを任してくれるそうだ。香ばしく上がった衣にさくっと歯を入れれば、火傷するような熱々の肉汁がドバっと出てくるマスター直伝の必殺のから揚げだ!

 まぁ出来上がってから急いで来たとはいえ、出来たて程の破壊力は無いのは残念だが。


 サラダに関しては……、包丁の取り扱いに多少の難がある為、千切りではなく百切り程度だがそのうち何とかなるだろう。なるよね?


 青空澄み渡る河川敷でおっちゃんたちとのキャンプランチ。放火魔の分際でありながら、こんなに幸せでいいのだろうかと思うほどに、笑いと平和に満ちた週末を送る私なのであった。

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