第9話 暗い夜道に(改定)
くすくす、くすくす。悪意100%な湿った炎が静かに燃える。イジメは泥炭地火災の様なものだ。姿の見えない暗い炎が地下で燻り続けている。
私はそれらを見て見ぬふりをして、ちょっと、いやかなーりおんぼろになってしまった自分の席に座る。
勿論座る前に、ごくさり気の無いチェックは欠かさない。良くてガム、悪くて画鋲やカミソリが仕込まれている事は、日常茶飯事となってしまった。やれやれだ。
泥炭地火災の対策は「みんなで頑張る!」しかないのが現状だ。何しろ相手は地下での炎、水をぶっ掛けようにも、火が地表に出て来てもらわないと勝負にすらならない。
イジメをそれに例えたなら、対応策も同じ事が取れるかも知れないが、生憎消火バケツを持っているのは、現在絶賛大炎上中の私のみ。
しかも隙を見せれば消火バケツの中身をガソリンにすり替えられてしまうと言ったハードモード。やれやれ、全く忙しい。
だが、私も伊達や酔狂で放火魔をやっている訳ではない。デジタルだろうがアナログだろうが、こと火の扱いで後れを取る訳には……いかない。
おっちゃんがキャンプデートを口走った時に、私はちょいと計画の変更を申し出た。せっかくの初デート、2人きりでしっぽりと楽しみたいところだが、そこは折角のキャンプファイア、大勢でやった方が楽しいではないか!
「えっ、お前マジで言ってんの」
「えっ、いやあはははは、冗談に決まってるじゃない」
学校
元殺し屋にドン引きされる女子高生、それが私、立花楓である。
いやまぁ流石の私でも、消火設備が生きている現役の建物を、ライター1個で全焼させるのは難しい。冗談だって冗談、ホントだよ?
それはともかく、この
だがまぁ、目には目を、火には火をだ。一切合財根こそぎ燃やすことがタブーなら、取りあえず一番喜び勇んで焚き付けている(と思われる)人物に、火の恐ろしさと美しさを思う存分味わってもらおう。
「やぁやぁ、遥ちゃん全く今日はいい天気だね!」
友達と別れて帰宅途中の御手洗遥の背後から、元気いっぱいの挨拶を一言。暗い夜道でいきなり声を掛けられると思っていなかった彼女は驚き仰天体をすくめる。
「なっ、何かしら、立花さん」
おーおー、動揺してる動揺してる。そりゃぁまぁ
それにしても、とっさに返事を返してしまったのが運のつき、そこは
まぁ、無視されようが関係なかったけどね!
「全く今日は月が綺麗な夜だねー、絶好のキャンプファイア日和だと思わない!」
「なっ、何いっているのよ」
彼女はにっこにこ笑顔の私を見て不穏な気配を感じじわじわと後ずさる。まぁ、その気分は分からんでもない、深夜の町角でいきなり笑顔全開のイジメのターゲットに声を掛けられたら誰だってそうするだろう、しかも今の彼女は独りきりだ。
「きゃっ!」
後退りを続けていた彼女が何かにぶつかって軽く悲鳴をあげる。彼女が振り向いたその先には、夜だと言うのにサングラスを掛け、おまけにマスクまで付けた、100%不審者の黒スーツ男が仁王立ちしていたのだ。
「ひッ!」
と、彼女は悲鳴にならない悲鳴を上げる。人間ホントに恐怖した時は大声を出す事なんて出来ないもの、うんよく知っている。私もつい最近味わった。
「大丈夫だよ遥ちゃん。その人は私の知り合いのオジサン。貴方に危害を加える事は無いから安心して♪
けど遥ちゃんが騒いだりしたら、びっくりしちゃってどうなるか分かんないかも、オジサン小心者だしね♪」
芝居がかった私の台詞におっさんは肩をすくめる。うんまぁ私の演技力の無さは私が一番知っている。恥ずかしいから気にするな。
「やっやめて」
かわいそうに彼女は震える声で、私とおっさんを交互に見ながらそう呟く。だけどまぁやる時は徹底的にだ。
「あっ、そう言えば私、オジサンの得意技見たいな!遥ちゃんにも見せてくれない」
そう言って私は遥かに良く見える様にゆっくりとした動作で、おっさんに500円玉を手渡す。それを受け取ったおっさんは。ちょこんとそれの両端をにぎると、まるで粘土細工を引き裂く様にミシミシと真っ二つにした。
「――――」
その、あまりにもな出来事に彼女は声を出すことを忘れ、おっさんから手渡された無残に引き裂かれた500円玉を茫然と見つめる。
うん、ドン引きだよね!私もおっさんのその一発芸を見た時は同じ反応をしたもんだ。一体どれだけの握力があればそんな事が出来るのか想像もつかない。なんでもおっさんはミスタチオンなんちゃらとか言って先天的に超怪力な人間らしいそうだ。その才能を真っ当な道で生かすことが出来ればよかったものの、何の因果かステゴロ武彦なんて異名を持つ伝説の殺し屋になる羽目に、いや正確には元殺し屋か。
と、言う訳で遥ちゃんには快く同行をして頂ける事となった。私達3人は仲良くおっちゃんの運転するレンタカーに乗り一路キャンプファイア会場へ。
さー!!燃やすぞーーー!!!
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