第7話 湿った炎(改定)
「ところで、昨夜も聞いたがよ。お前これからいったいどうするつもりだ?」
ご馳走様を言い終わり、暫くした後おっちゃんはそんな事を言ってきた。
「どうするも何も……自首しろって事?」
「ばーか、元殺人犯のこの俺がのうのうとお天道様の下で暮らしてんだ。そうしろなんて口が裂けても言えるかよ。
そうじゃなく、これを機に放火を止めることは出来ないのか?」
「……我慢してみる、けど、無理だと思う」
「そうか、ならやりたくなったら俺に相談しろ」
「って、おっちゃん。これからも合ってくれるの!」
私はその発言に驚愕する、この朝食は寂しいながらも精一杯の最後の晩餐とばかり思っていたからだ。
「お前がその気ならな。あー後はお前がタレこみしないならって前提条件が付くな」
私が驚いて思いっきりおっちゃんの方に乗り出したため、おっちゃんはゴツゴツした手で、私の顔を押しのけながら、ぶっきらぼうにそう言った。
「言わない!言わない!言わないよ!その代り勝手にどっか行っちゃったら嫌だからね!」
私はそう言って、おっちゃんの押し出された手を潜り抜け精一杯のハグをしようとしたが、流石は元殺し屋。あっさりと私のタックルはおっちゃんの片手で止められて、私の伸ばした両腕は、おっちゃんの厚い胸板をペタペタと虚しく触るだけだった。
初めて触った男の人の胸板は、鋼の様に硬く、岩の様に大きかった。
おはよー、と特に誰に向けるでもなく声を掛けて私は座席に座る。一昨日の土曜日、私の長くはなさそうな人生において大きな大きな傷を負った事をおくびにも出さず。私はいつも通りに登校した。
ん?と幾ら周囲の人間に興味の無い私でも分かる程度の違和感があった。クラスの女子が私の方を見て何やらヒソヒソと内緒話をしていたのだ。
泣きっ面に蜂と言うか何と言うか、来るべき時が訪れたと言うか、まぁなんだ、後ろめたいとこは百と八つ程度では物足りず、太陽の表面温度程度は持つ私だ。さてはて面倒くさいなぁと思いつつ机の中を漁ると、一枚のメモ用紙がかさりと小さな音を立てた。
はてさて、と思いつつそれを取り出し眺めてみると、ご丁寧に筆跡が分からないようにワープロで書かれた『立花楓。私は、貴方の秘密を知っている』と言う一言とSNSのアドレスが書かれてあった。
おう、凝ってるな。と私はまるで他人事のようにそれに感心しつつ。暫し悩んだのち
その紙で紙飛行機を折り教室の窓から離陸させた。
ザワリと、私の取った行動にクラスに動揺が走る。だがまぁ、私の立場にもなって欲しい、一昨日は大変だったのだ。現役の殺し屋に追跡された挙句、体中をまさぐられ、その上ピッカピカのヤクザの若大将と面談だ。その上親しくしていた人が元殺し屋と判明したりで、驚き回路が麻痺していたのだ。
正直今更同年代の子たちのターゲットになったぐらい『あっそう、それで?』と言う程度のものだった。
そうして、クラスに異様な緊張感が溢れたままホームルームを迎え、表面上は何事も無く午前の授業を終え、独りぼっちの昼食を取り、眠気を堪えた午後の授業が終了した。
途中、物の試しにクラスのSNSグループチャットを覗いて見ると、そこには予想通り私に対する誹謗中傷が溢れていた。
私は確かに火を愛しているけども、デジタルな炎上はちょっと専門外だ、2次元に恋をする人を否定するわけではないが、デジタルな
と言う訳で、素人は素人らしく、何も言わずにそっとその場を後にした。
しかし不思議だったのは、私に掛かっていた
なんて失礼な!私は金を貰って
と、余人には通じない言い訳は置いといてよくよく思い出してみると、そのグループチャットには一枚の写真が載っていた。私がいかにもなお金持ちの色男と親しげに肩を組んでいる写真。即ち、一昨日小泉何某に連行され河原に行き、虎タイガーがおっちゃんを連れてくるまでの間、2人きりになった時の写真だった。
ううむ、これはもしや。この写真を使えば、小泉の兄ちゃんを青少年保護条例とかなんとかで引っ張れる案件になるのでは?と、言う考えが頭を霞めたが、霞めただけで留めておいた。
そんな事したら絶対後で5000兆倍返しされることは火を見るよりも明らかだ、それもデジタルな炎上じゃなく、リアルな方で。
「おう、凄い事になってる。みんな頑張るなー」
授業が終わり、速攻で学校を抜け出した私が電源を切っていたスマホを機動すると、山の様な通知があった。
見知らぬアドレスからのDMの山は態々この為に取ったサブアカウントからだろうか。どうでもいいが、熱心な事だ。
送られてきたメッセージは、死ねだの消えろだの不潔だの、今一
だが、震えないとは言っても私は全くの不感症と言う訳ではない。これでも私は
「あ゛ー……。おっちゃんごめん。こりゃ近いうちに行く羽目になるかも」
誰にも聞こえないようにそう口の中で呟く。何時もは
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