第79話 新たなる任務! アイネは止まらない!!
【前回までのあらすじ】
池袋の地下道にて続いていた愛音と泥の妖・巖泥との戦い。灰戸一葉の助力を得た愛音の前になすすべ無しと見えた巖泥だったが、自らを巨大な泥の玉に変えて最後の勝負に出る。
その猛攻に圧倒されるも、巖泥の覚悟と気迫を認め、全力をもって応じる愛音。戦いに終止符を打ったのは、その水晶剣の一撃だった――――!!
◇◇◇
「――――
妖力を失い崩れた泥の山から、一筋の白い煙が立ち昇り……オレがかかげた六角形の水晶柱に吸い込まれていく。
煙のすべてを吸い尽くすと、手のひらに収まるサイズの水晶柱はその中心にぼんやりと力ない光を灯した。
「よっし、封印完了!」
というワケでこのオレ、愛音・F・グリムウェルと泥田坊・
……余談だけど、海外では
「さーて、一段落したことだしセンセーに連絡でもするかな……」
「おっと、それには及ばないで?」
突然背後から掛けられた声に、オレは思わず飛び上がりそうになった。けれど、ちょっと前に同じような体験をしたことを思い出し……極めて落ち着き払った風をなんとか
「……センパイ、いちいち人の後ろから現れるのはどうかと思うぜ? 心臓の弱い方だったら卒倒しかねねーって!」
「あはは、ついクセでなぁ。それに、愛音はんは卒倒するようなタマじゃ無いやろ?」
元々細い目を糸のようにして笑う、全身タイツ姿の美女――――影を操る霊装術者、
「それはそうと、アンタ今まで何してたんだよっ! 途中でトンズラこかれた時はどうしようかと思ったんだぜ?」
そう、ついさっき巨大な泥の玉に追いかけられた時……彼女はその能力を使い、オレを置き去りにひとり難を逃れていたのだ。
「いやー悪い悪い。けど、ウチが居ても足手まといやと思ってなぁ。実際愛音はん一人でちゃっかり片は付いたようやし」
悪いと言いつつ、悪びれたそぶりも見せないセンパイ。けれどオレの手の中の水晶柱を見て、彼女は不意に素っ頓狂な声を上げた。
「なんや、キッチリ封印までするとはマメやなぁ。倒したんなら放っておいても良かったんちゃうか?」
センパイの言う事はもっともだ。オレの【
「コイツはオレを相手に、最後まで逃げずに立ち向かってきた。その覚悟に免じてってトコかな。放っておいて消滅されても後味が悪いし……」
与えたダメージの量を考えると、再生できずに消滅する危険は充分にある。とりあえず封印して現状を維持したのは、コイツ自身の為でもあるのだ。
「まあその話は置いといて、や。トンズラこいたついでに、ひとっ走り先生に状況を報告してきたんよ。そしたらウチらがここで戦ってる間に、上のほうでも結構色々あったらしくてなぁ――――」
……センパイが聞いた話を要約すると、こうだ。
まず、街のそこかしこで暴れ回っていたサラマンダー。どういう訳かは分からないが、連中はもうすっかり姿を消しちまったらしい。
お陰で消防隊が入れるようになり、現在各所で火災の消火に当たっているという。
次に西池袋のほうではイツキのやつが妖のボス格と戦闘中。ぐぬぬ、こっちが手下の相手をしている間に……
そしてこれが一番重要。なんと、上のビルを覆っていた魔術の障壁がきれいさっぱり消えているというのだ!
「何だよっ! 折角オレが苦労して門番を倒したってのに――――!」
「まあまあ、遅かれ早かれ戦う相手だったんやから」
うーん、イマイチ納得いかねーが……いや待てよ。ビルの障壁が消えたって事は、中にいたトーヤが上手くやったって事だよな!?
「そうだ、トーヤ! あいつと連絡は取れたのか?」
「ああ、新入りの霊装術者の子やな。そっちとはまだ繋がらへんらしいけど、一緒に居た女の子が電話に出たそうやで。確か、シズルとか言う」
――――
「その子の話だと、新入りさんは妖とビルの外に出ていったみたいや。あと、ビルの中には気を失った人がぎょうさん居るらしいで」
「要救助者が大勢って事か。それじゃあ、オレたちの次の仕事は――――」
「そう、救急が入る前に中の安全確認やな!」
すぐにトーヤの応援に駆けつけたいのは山々だけど、まずは人命が優先だ。中の人たちがどんな状態でいるかわからねーが、救急搬送するとなると結構な手間になるだろう。
すみやかに救助してもらうためにも、オレたちは急がなければならない。
「あ、そういや地下道のほうにも捕まってた人たちが居るじゃん! そっちにも人を送ってもらわないと!」
「大丈夫、それはウチが報告済みや。ビルの外にはもう救急車がスタンバってる筈やで?」
なら話は早い、これで安心して先へ進めるってモンだぜ。
「じゃあ、愛音はんはまず一階の安全を確保や。ウチはその間に、軽く各階の様子を確かめて来るさかい!」
言うが早いか、センパイは影の中へと姿を消した。彼女の能力があれば、六十あるフロアの確認にもそう時間はかかるまい。
「……さて、オレも行くか!」
一階へ向かう階段へと、走り出す……その前に、オレは一度だけ振り返った。
そこにあるのは、つやつやした地下道の床に散乱する――――今は乾いた泥の跡。
「……そういえばあのドロタボー、捕まえた人から霊力を奪っていやがったクセに、その人たちを人質に使ったりはしなかったな」
それどころか、アイツは散々追い詰められた後の最後の反撃のために、その霊力の供給さえも捨てて掛かってきたのだ。
まあ、人質作戦自体を思いつかなかったという可能性もあるにはあるが……うん。そうではないと信じよう。
――――妖ではあるが、妖なりに正々堂々の勝負を挑んできた泥田坊・巖泥。本当なら、どこかの田んぼでのんびり暮らしていた無害な妖なのかも知れない。
「頭は悪いが、根はいいヤツだったのかもな。許せないのは……それを騙して悪事に駆り立てたヤロウだ。入道様とか言ったか? ソイツには是非とも、キツーイお
あらためて正面に向き直り、オレは床を蹴って駆け出した。まずは自分の仕事を済ませてからだ。
「あ、でもその間にトーヤがカタを着けてるかもしれねーのか。アイツ、地味~に強くなってるからなぁ……」
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