第78話 決着! 閃光の水晶剣!!

【前回までのあらすじ】


 池袋の地下道にて続く愛音と泥の妖・巖泥との戦い。灰戸一葉の助力を得た愛音は、水晶魔術によって無数の泥の分身の中から巖泥の本体を見つけ出すことに成功する。


 正確に巖泥を捉え、ダメージを与えていく愛音の水晶剣。勝負の行方はもはや明らかに見えたが――――!?



◇◇◇



「……いい加減降参しろよ、ドロタボー。どこに隠れたってムダなんだからよー!」


「あー、ウチも同意見やで。あんまり粘っても良い事あらへんよ~?」


 ――――池袋の地下道、某六十階ビルの足元あたりで繰り広げられていたオレと泥田坊・巖泥ガンデイとの戦いなんだが、実はまだ終わっていないんだなコレが。


「うぐぐ……まだだ! こごで諦めだら、入道様に申し訳が立だねぇ――――!」


 まるで熱血ヒーローのようなセリフを吐いて、再び泥の中に身を沈める巖泥。その姿はあっという間に床一面に広がる泥の海に消える。


 ……本体は隠れながら泥の分身に攻撃させるという、悪く言えば姑息こそくな戦法。オレ以外のヤツが相手だったら、実際かなり手こずる相手だったんだろう。


 けれど、この愛音様には通用しない。空中を漂っていた水晶剣……オレの意のままに動く【乱れ踊るは光輝の剣シャイニング・ソード・レイヴ】の一本が矢のように飛び、地下道の奥の闇に消えると……一拍置いてぎゃあという悲鳴が上がる。


「だからよー、オマエがどこに居ようとお見通しなんだってば。オレの水晶剣は一度ロックオンした相手を外しゃあしねーんだ」


「降参したくない気持ちは分かるねんけど、手前の命は大事にするべきやで?」 


 隣でもうウンザリとばかりに肩をすくめるのは、灰戸一葉センパイ。オレのピンチを救ってくれた恩人だ。個人的には本日のMVPをあげてもいい。


「愛音はん、正直あんまり時間をかけられへん状況やし、この際一思いに止めを刺した方がいいんとちゃう?」


 オレだって、今がどういう状況かは分かっている。こんなヤツはさっさと片付けて先に進むべきなんだが、そうするのにはちょっと気が進まない理由があるのだ。


「……魔法少女は正義の味方だからなぁ。『邪魔だから殺します(キリッ)』ってのは、正義的にどうかと思うんだよ」


「魔法少女……なんやソレ?」


 センパイが困惑している。まあ無理もないぜ……オレだって灯夜と出会ってイロイロなければこんなコト気にしてなかっただろうし。


「……に、入道様はおでだけに声を掛けでくれた……他の誰でもねえ゛、おでだけにだぞっ……」


 満身創痍になりつつも、泥田坊はまだ諦めるつもりは無さそうだ。敵ながらそのガッツはあっぱれだが、相手をするコッチとしては迷惑極まりない。アイツが諦めるまで待ってたら日が暮れちまうし、やっぱりっちまうしか無いのか?


「こんなおでを弟子にしで、術まで教えでくれた……おでを見込んで、頼りにしでくれただ――――!」


 突然、闇の中の泥田坊から強烈な妖気が噴き出した。ばかな、コイツまだ何かするつもりなのか!?


「いまさら何を……って、これは!?」


 ――――足元の泥が、引いていく。通路の床全体を覆いつくしていた泥が、ずぞぞ……と一斉に後退していくのだ。

 何故、そして一体どこへ? その答えは、すぐに見つかった。


「……これって、もしかしてヤバい奴じゃあらへん?」


「うん……かなりヤバい」


 通路の奥から重苦しい地響きと共に姿を見せたのは……玉。縦、横共に通路の幅いっぱいのサイズの巨大な泥の玉が、オレたちの方へゆっくりと転がり出てきたのだ!


「ど、どうだ! これがおでの切り札……【泥団子】だぁ!」


「なっ、なんてひねりのないネーミング! だけどこいつは……」


 こいつはデカい! おそらくは地下道の床にぶちまけた泥のすべてを集めて作られたのだろう。泥田坊はその中心にいるみたいだ。

 分厚い泥で全身を覆った、攻防一体の形態というワケか。


「愛音はん! 攻撃、攻撃や!」


「お、おう!」


 三本の水晶剣がきらりと閃き、三方向から泥団子に突き刺さる。しかし――――


「なにい!?」


「げひひ……こんな゛ちっぽけな剣、もうおでの体にゃ届かねえど~!」


 柄までずっぷり刺さった水晶剣……しかし、届かない。ヤツの本体がある玉の中心にダメージを与えるには、剣のサイズが全然足りないのだ!


「おまえ゛等このまま……踏みつぶしでやるだ!」


 ごろり、ごろりと転がってくる泥団子。それは一回転ごとに速度を増し、殺意をまとった質量の怪物となってオレたちに襲い掛かってきた!


「げぇっ! あんなのに潰されたらひとたまりもねーぞ!」


「に、逃げるんや~!」


 慌てて周れ右して、猛ダッシュで逃げるオレとセンパイ。通路を埋め尽くす玉をよけるスペースは無いから、まっすぐ逃げるしかないのだ。


「ちくしょうめ! こんな事ならさっさと倒しとくんだったぜー!」


「流石にこりゃあもうウチの手には負えへんわ! という訳で、後は頼んだで~!」


 言うが早いか、センパイの姿は床に差した影の中へと吸い込まれる。彼女は影を操る術者、自分の体を影に同化するなどお手の物なのだ……ってオイ。


「ちょ、それズルくね!?」


 あっさり目の前の脅威をやり過ごすセンパイ。それを知ってか知らずか、泥団子はさらにスピードを上げてオレを追ってくる。


「げひっ、諦めでぺしゃんこになれ゛~!」


「う、うおおおお――――!!」


 やべえ追いつかれる。絶体絶命だぜ、オレ! 


「おでの勝ちだぁ゛~!!」


 ――――どずずん! 地下道全体を揺るがす、衝撃と振動。それはまっすぐ突き進んできた泥団子が……


「な、なにい゛――――!?」


 ……通路の終点、丁字路の壁にぶち当たった音だった。


「はあはあ、間一髪ってトコだな!」


 どうやらあの泥団子の中の泥田坊、周りがよく見えていないようだ。センパイが影の中に消えてもノーリアクションだったからピンと来たんだが、よく考えたら回転する泥団子の中から外を見ろって中々難易度高いよな。

 ……お陰でオレは寸前で横の道に逃れつつ、アイツを壁に正面衝突させられたってワケ。


「まだだ、おではまだ止まらねぇ゛ぞ!」


 半ば壁にめり込み、形も球体とは言えない程に歪み崩れた状態でも、ヤツの闘志は衰えていない。しかし、その身体にまとった妖気はさっきまでとは打って変わって減少していた。


「そうか、泥を全部集めたせいで……捕まえた人たちから霊力を奪えなくなったのか!」


 アイツが大量の分身を作れたり、やったらタフだったりしたのは……床に張った泥を通して、捕らえた人たちから霊力を吸い上げていたからだ。

 だが、その泥は今アイツの身に集まっている。無敵の泥団子になるのと引き換えに、アイツは霊力の供給元を自ら手放したのだ。


「おでは勝つ……入道様の為に゛!!」


 崩れかけた泥団子が、再び球体へと再生していく。これはヤツの最後の賭け……文字通り命と引き換えにしてでも、このオレを倒そうというのか!


「……すまねえな。正直、オマエの事をナメてたぜ。頭の良い悪いはこの際関係ねえ……信じたモノの為に命を賭けようって相手に――――」


 シズルのやつに一本貸してるから、今使える水晶剣は三本のみ。これではオレの最大術式マキシマギアである【廻り穿つは滅死の螺旋スパイラル・デス・ドリル】は撃てない。


「――――全力で応じずして、魔法少女は名乗れねえ!!」


 だが、オレはやるぜ。この戦いの決着は……全力と全力のぶつかり合いで着けてやる!


「来い、【ソード】よ!」


 三本の水晶剣がオレの頭上で交錯し、一瞬で粉々に砕け散る。僅かな光をきらきらと反射し、舞い降りてくる水晶の破片。


「我が精髄よ……今ふたたび、つどいて結べ!」


 それが渦を巻くように一点に集まり、まっすぐ上にかかげた手の中で……今、新たなる姿を結んだ。


「完成!【光輝の撃剣シャイニングバスターソード】!!」


 それは百五十センチもの刃渡りを持つ、幅広の長剣。長さも幅も今までの水晶剣の倍はある。


「なぁんだそれはぁ゛~。そんなモノじゃまだまだおでにゃあ届かねえ゛ぞ~!」


 さすがに動きを止めている間は見えるのか、泥田坊が新たな水晶剣を一笑に付す。そう……それでもまだ、あの泥団子の中に攻撃を通すには長さが足りないのだ。


「今度こそくたばれ゛、馬鹿なニ゛ン゛ゲン゛め――――!!」


 勝利を確信したのだろう。再生を終えた泥団子は再びオレをめがけて転がり出す。


「……ドロタボー、お前の敗因は最後の最後でオレを甘く見た事……いや」


 オレは剣の柄を両手で握り、大きく上段に振りかぶった。


「やっぱり少し……オツムが足りなかった事だ!!」


 そして、全身の霊力を剣に流し込む。オレのパーソナルカラー、ビビッドなショッキングピンクのオーラが刀身を駆け登り、その長さを二倍、三倍……天井に届く程の長大な大剣へと瞬時に変化させた!


「【光輝の撃剣シャイニングバスターソード執行せしは斬壊の極刑ブレイク・エクスキューション】!!!」


 振り下ろされた閃光の刃が、迫りくる泥団子にざっくりと食い込む!


「げぇえ゛! ど、どおじで――――!?」


「このオレ様が直接握った剣が、遠隔操作のソレと同じワケねーだろ!」


 悲鳴を上げながらも、泥団子はなおも前進を続ける。止まりたくても、止まれないのだ。


 ……これだけの重さになってしまっては、自由に停止などできるはずが無い。先ほど無様に壁に激突したように、泥田坊の意思に反して泥団子は進み続ける――――長大な刃に、その身を裂かれながら。


「うぎゃあー! 入道様――――っ!!」


 地下全体に響き渡る絶叫を残して、ふたつの半球がオレの左右へと転がった。



「オマエはすげえヤツだったぜ、ドロタボー。ただ、オレが――――【魔法少女】が、もっとスゴかっただけだ!」

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