第40話 参戦、野生の魔法少女!

【前回までのあらすじ】


 ゴールデンウイークを使い、池袋の街に遊びに来た天海神楽学園一年S組の面々。灯夜がこっそり行っているダブルブッキング計画や、渋谷に端を発する妖たちの暗躍も知る事なく……一行は初めての大都会で、映画を観たり水族館へ行ったりと平和な休日を満喫していた。


 昼食を済ませ、午後からの自由時間を楽しんでいた愛音たち。しかし、突如出現した【門】と大量の妖によって街は大混乱に陥ってしまう。

 サラマンダーに囲まれ、窮地に立たされた一行を救った人物。それは意外にも……!



◇◇◇



「ルルガ・ルゥ・ガロア――――っ!!」


 ビルの上で仁王立ちするのは、褐色の肌にまぶしく映える白いワンピース(実はオレが貸したやつだが)をまとった少女。

 たなびく灰色の髪のスキマから垣間見える顔は……いつもと同じく、何を考えてるのか分からない仏頂面だ。


「ルゥさん! 良かった、無事で……って、何でそんな所にいるの!? 早く下りてきなさいっ!」


 シズルがなんか慌てて呼びかけているが……オレからしてみれば、ルゥの居場所は不思議どころか実にしっくり来る。わざわざ高い所に登って登場するところとか、特撮マニアをうならせるツボを心得ているとしか思えない。


 要するに、ヒーローの登場シーンとしてカンペキなのだ。くそっ、オレも次からはちょっと演出を見直すか――――


「アイネ! 気を抜かないでだよ!」


「おっといけねぇ!」


 そういえばこっちもサラマンダー共とのバトルの最中だった。襲い来るトカゲ頭の筋肉男を適当にいなしつつ、視界の端でルゥの動向を注視する。


 ――――ルルガ・ルゥ・ガロア。南米で今も先祖伝来の自給自足生活を続けているという、伝統ある少数部族出身の……術者。

 オレも噂にしか聞いたことがねーが、ソコではなんでも西洋とも東洋とも違う系統の魔術を伝えているらしい。


 寮で同室になってからそれとなく探ってはみたんだが、アイツがその術を使う姿はまだ拝んだ事がない。視た所結構な霊力を持っているっぽいけど、実際どんな戦い方をするのかは未知数だ。

 アオイ先生が言うには、妖と契約した霊装術者では無いって話なんだが……


「……みんな、ルゥのトモダチ。イジメるやつ、ユルサナイ!」


 抑揚には乏しいが、確かな意思の込められた言葉。言い終わると同時にルゥは動いた。ワンピースの端をつかんだかと思うと、それを一瞬でばっと脱ぎ捨てたのだ。


「キャー! 何してるのルゥさんっ!」


「いやーんでござる……って、あれはいつもの格好でござるよ?」


 そう。ルゥはワンピースの下に、アイツの一張羅いっちょうらである民族衣装を着込んでいた。と言ってもほとんど下着に近い露出度だから、いやーんと言えばいやーんな格好と言えなくもない。

 オレとしては、それより脱ぎ捨てられたワンピースの安否が気にかかる。ほとんど着ない服だけど、一応母様に買って貰ったヤツなんだよなアレ……


 身軽になったルゥに、数匹の羽つきサラマンダーが向かっていく。さあ、お手並み拝見だ。普段の身のこなしを見るに、アイツもオレやノイに匹敵する体術の使い手のはず。


 それに加え、アイツは得物を手にしている。あれはブーメランってヤツだろう。未開のジャングルではああいうのを狩りに使うって何かのテレビ番組で見た覚えがある。

 まあ自身の身長並みのデカさってのは、ちょっとやりすぎ感あると思わなくもないが。


 しかし、期待して見ているオレの前で、ルゥは予想とはまったく違う行動に出る。アイツはでかいブーメランを正面に構えたかと思うと……突然、高々とえ始めたのだ!


「うるぁあーおぉ――――!!」


 まるで獣のような……いや、まさに獣そのものの強烈な雄叫おたけび! そのとんでもない声量には、サラマンダーさえもひるんで動きを止めるほどだ。結構離れた位置にいるオレの鼓膜にもビンビン響きやがる。


「うるるるぁあーおぉ――――!!」


 そして、それはただの雄叫びじゃない。ひと声ごとに、ルゥの霊力が跳ね上がっていく。それは普通の術者のレベルを優に超え……生身の人間が出せる限界へと近づいていくじゃねーか!


「なにい、あれはまさか――――」


祖霊降臨トーテム・アドヴェント……ノイも見るのは初めてなんだよ」


 くっ、先に言われた! おのれノイ。こういう時だけジャストにタイミングを合わせやがって……って、そんな事を言ってるうちにルゥの霊力は人類の限界値を超えていた。

 手にしたブーメランからオレンジ色の閃光がほとばしり、それがアイツの身体に光り輝く入れ墨――――呪紋となって刻み込まれる。

 

 この域に達するには、オレたち霊装術者のように妖と契約するか……それに相当する何者かの力を借りねばならない。ルゥが契約したのは、祖霊トーテムと呼ばれる超自然的存在。

 アイツの一族が代々あがたてまつってきた、おそらくは何か守護霊っぽいヤツだろう。


 そんなモノを身体に降ろせるのは、一族の中でも特別な者に限られる。ルルガ・ルゥは、ガロア族の選ばれし呪術師シャーマンだったのだ!


「なるほどな。霊装術者とはちょっと違うが、アイツもオレたちと同じって事か」


「同じ?」


「そう。同じ“魔法少女”だってことさ!」


 ――――魔法少女。それはトーヤいわく「愛と正義と世界平和のために戦う、無敵のスーパーヒロイン」。


 オレも最初聞いた時は何言ってんだコイツみたいなリアクションをしたものだが、今なら……シノビおすすめの魔法少女アニメを何本も観た今なら、何となく理解できる。


 ルゥは、オレたちを“トモダチ”と言った。一人なら安全な場所まで余裕で逃げられる実力がありながら、アイツはオレたちのピンチにわざわざ駆けつけて来てくれたんだ。

 ……“トモダチ”だから、なんて言うふわっとした理由で、だぜ?


 その行為は、まさしくヒーロー。いや、女の子だからスーパーヒロインだ! そして、それこそが……ただ強くなって妖を倒すことだけしか考えてなかったオレが、この極東の島国でめぐり逢った――――新たなる魂のステージ!


 誰かのために戦うってのは、すっげえ気分が良くて……何より、最高にカッコイイのだ!


「……我、舞イ踊ルは牙ノうたげ! ガロアの血の前に、ソノ魂を捧げよ!!」


 何やら雰囲気のある口上と共に、ルゥが跳んだ。空中で大きく振りかぶり、燃えるように輝くブーメランをサラマンダーに投げつける。勢いよく回転する光の輪は、まるで意志があるかのように飛行する妖たちを次々に薙ぎ払っていく。


 そしてルゥ自身も、着地するや否やサラマンダーたちを次々と打ち倒し始めた。新たな強敵の出現に火の精霊たちはざわめき、オレたちの周りにいた連中までもがルゥを包囲するように陣形を変えた。


「今だよアイネ!」


「おう、こっちも行くぜ! 変身だっ!!」


 援軍が来てくれたとなれば、もう生身でチマチマやってる必要はない。こっちも霊装……いや、魔法少女に変身するのだ!


「…………変身?」


 しかし、オレの気迫に満ちた叫びを聞いたノイは……怪訝そうな表情のままキッカリ四十五度に首をかしげた。ああもう、ノリが悪いヤツだな!


「だから、オレたちも魔法少女に変身するんだよ!」


「ああ、そういう事……アイネもすっかりそっちの文化に毒されちゃったんだよ」


「うっせーな! とにかく行くぞ、魔導霊装ソーサライズっ!!」


 短くため息をついたノイが、瞬時に黒猫の姿に変わってオレの身体を駆け上がる。頭の上からジャンプし、くるりと体を丸めると……次の瞬間、まばゆい光が二人を包み込んだ。

 その中では、ロングブーツに長手袋、短い外套マントにとんがり帽子といったマジカルなコスチュームが次々とオレに装着されていく。


 時間にして、わずか数秒。オレとノイは一心同体の霊装状態、すなわち魔法少女への変身を完了したのであった!


「よーしルゥ! 今日はオレとオマエでダブル魔法少女だっ!!」

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