第29話 池袋リスタート!?

【前回までのあらすじ】


 ゴールデンウイークに、クラスのみんなと遊びに行く約束をした灯夜君。しかし、よりにもよって同じ日に小学生時代の友達にもお誘いを受けてしまったよっ!

 どっちに行くか悩んだけど……親切な協力者の助力も得られたので、思い切ってダブルブッキングを決行! 替え玉役の雷華さんとの入れ替わりを駆使し、池袋と渋谷をせわしなく行き来するのでした。

 

 渋谷でナンパ男に絡まれているところを、学園の先輩――――不知火ミイナに救われた灯夜とちか達。

 何とかその場を逃れた一行は、とりあえず食事にしようと近くのお店に向かったのですが……



◇◇◇



「いっけぶっくろ~!!」


「ちょっと果南かなみさん、大声出さないでよっ! 田舎者だと思われるじゃない……」


 池袋駅のホームに降り立って開口一番に叫ぶちかちゃんと、それよりは多少控えめな声で注意する向井さん。

 なんだろう、つい最近同じようなやり取りを目にした覚えがあるぞ……デジャブかな?


「はー、こっちもやっぱ混んでるな~」「電車降りてもみっしり感変わんないし……」「渋谷もすごかったけど、ブクロもマジ都会って感じ?」


 そして、思い思いの感想を述べるみんな。そう、ぼくとちかちゃん一行はどういうわけか、渋谷から遠く離れたこの池袋の地に降り立っていたのである。


「どうして……どうしてこんな事になっちゃったんだろう?」




 ――――きっかけは、さっきの食事の時。いくつもあったお洒落なお店の中から、結局無難なファミレスに入ったぼく達は……それぞれ無難なメニューを平らげつつ、午後からはどこで遊ぼうかとゆるーく意見を出し合っていた。


「折角都会に出てきたんだし……メイドカフェとか行ってみたくね?」


「渋谷にメイドはいないんじゃないの? 秋葉原とかでしょアレ」


「カフェって言ったら猫カフェでしょ! 癒されたいっ!」


 みたいな会話が続く中、ぼくも何か意見を言わなきゃいけないと焦り……ふと頭に浮かんだ話題を思い切って口に出してみたのだ。


「ぼくが聞いた話だと、確かフクロウカフェってのもあるみたいだよ?」


 何気ない、賑やかし程度の一言。しかし、そのまま流されるだろうと思ったぼくの予想は大いに外れることになった。


「フクロウ!? まじで?」「何ソレすごーい!」「灯夜ちゃんそれドコ? ドコにあるの~?」


 びっくりするくらい、みんなが食いついてきたのだ!

 確かにフクロウは珍しいかもだけど、メイドと比べて反応の温度差が凄い……たった一言でこんなに注目されるとは思ってなかったよっ!?


「ご、ごめん! フクロウカフェがあるのはここじゃなくて池袋なんだ……」


 元々学園のみんなと池袋で遊ぶにあたって調べた時の情報だ。渋谷には流石にそういったお店は無かったはず。


「池袋ねぇ……折角だし、これから行ってみよっか?」


「ええっ!?」


 ちかちゃんの言葉は、今日はずっと渋谷で遊ぶものだと思っていたぼくの固定観念を粉々に打ち砕いた。いやだって、渋谷アミューズメント制覇とか言ってたからてっきり……


「池袋だったら電車一本で行けるし、そもそも帰り道の途中だし……別にいいんじゃないかしら?」


「このまま渋谷にいて、さっきの警察の人に見つかったりしたらヤバいしね~」


 みんなの意見も、どんどん池袋行きへと傾いていく。つまり一行は最初から渋谷という場所にこだわりがあった訳ではなく、要は都会ならどこでも良かったというのか!?


「ちょ、ちょっと待って! ぼくは『ある』って聞いただけで、池袋のどこにあるかまでは……」


「はい、検索完了。池袋にフクロウカフェは二軒あるみたいよ?」


 向井さんのスマホに群がり、おお~と感嘆に湧く御一行。フクロウカフェ行きはもうすっかり決定事項のようだ……。


「よーし、午後からは池袋だ! しまっていこ~!」


「「「お~!」」」




 ――――そんなこんなで人混みに揉まれながら、階段を降りて改札口へと向かうぼく達一行。


「月代君! あまり離れると迷子になるわよ?」


「ごめん、ちょっとその……トイレ!」


 そばに居た向井さんに一声かけてから、ぼくは小走りにその場を離れた。そして、朝通ったのと同じ道を使ってトイレの前まで移動する。

 そして周囲の目を気にしつつ、懐から取り出したスマホを操作し……耳に当てて待つ事しばし。


『もしもし、灯夜様? しばらく連絡が無かったので心配しましたよ?』


「ら、雷華さんっ! たたたた大変なんだよっっ!!」


 とにかく、一度雷華さんに相談しなければだ。この入れ替わりダブルブッキング計画は、二人のぼくが別々の場所に存在するのが大前提。

 まさかちかちゃん達まで池袋に来てしまうなんて、完全に想定外の事態なのだから。


『成程……地元の御一行もこの池袋へ移動してきたと。ならば、入れ替わるには好都合ではありませんか』


 半ばテンパっているぼくに対して、スマホの向こうの雷華さんは実に冷静だった。


『要は同じ場所に居合わせなければよいだけの話でしょう。渋谷までの移動時間が無くなる分、楽になるまであります。心配する程の事ではありませんよ?』


「そ……そうですか、そうですよね。ごめんなさい、なんか取り乱しちゃって」


 考えてみれば、距離が近くなったことで入れ替わりはむしろやり易くなった訳だ。はち合わせするリスクは確かに上がったけれど、池袋だって大都会。

 これだけ広ければ、偶然の遭遇なんてそうそう起こらないはずだ。


『いえ、お気になさらず。それから、私の方もひとつ……灯夜様のお耳に入れておきたい事があります』


 不意に、彼女の口調が変わった。何の話だろう? 今までになく緊迫した空気に、思わず身構えてしまう。


「な、何ですか? まさか、愛音ちゃんに無茶振りされたとか……」


『そういう事ではなく……これは、会って直接お話しした方が良いでしょう。今、何処にいらっしゃいますか?』


「えっと、朝使った駅の女子トイレの前……あ、やっぱり中に入らなきゃダメ?」



 一縷いちるの望みを込めて聞いてみたけど、雷華さんの答えは無慈悲にも「ダメです」だった――――。

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