第18話 ファッションショーはお約束!
【前回までのあらすじ】
ゴールデンウイークに、クラスのみんなと遊びに行く約束をした灯夜君。しかし、よりにもよって同じ日に小学生時代の友達にもお誘いを受けてしまったよっ!
どっちに行くか悩んだけど……親切な協力者の助力も得られたので、思い切ってダブルブッキングを決行! 替え玉役の雷華さんとの入れ替わりを駆使し、池袋と渋谷をせわしなく行き来するのでした。
学園組と合流するために某六十階建てのビルに向かった灯夜君。うっかりピアノリサイタルとその調べに乗せて踊る少女に見とれてしまったりもしたけど……無事にみんなと合流できるのかなっ?
◇◇◇
「ん、トーヤ。こっちなんだよ」
「……ノイちゃん! 良かった、見つかった~!」
巨大ビルに併設された大型ショッピングモール……そこの二階をさまよう事しばし。ぼく、月代灯夜はようやく見知った顔と再会することができた。
学園から遠く離れた大都会。あまりにも大勢の人の海の中、知ってる顔があるとこんなにも安心できるものなんだね……。
「首尾は上々、なんだよ?」
「うん。こっちはまあ……そっちはどう? 雷華さんの事だから、大丈夫だろうなーとは思うけど……」
ぼくの替え玉を務めている雷華さんは、その幻術を使って潜入捜査をこなした事もあるベテランだ。さっき連絡した時も特に問題はないと言っていたから、たぶん本当に問題はないんだと思う。
けれど、ぼくじゃない「ぼく」がみんなとどういう風に接していたかは、やっぱり気になるものなのだ。
「別に、普通だったんだよ。アイネとか全然気づいてないし、思ったより楽勝かもなんだよ?」
そう言うノイちゃんの表情も、いつもと全く変わったところはない。第二の協力者である彼女には、もしもの時に雷華さんをサポートする役目を頼んであるけど、今のところその必要もないらしい。
「それより、今の問題は……コレ、なんだよ」
彼女が、例によって眉一つ動かさずに指さしたのは……流行りのファッションに身を包んだマネキン人形が並ぶ、大きなショーウィンドウ。
「え、ここってもしかして……」
「もしかしてなんだよ。みんな、トーヤが戻ってくるのを今か今かと待ちわびてるんだよ……」
――――そこは、いわゆるお洋服のお店。こんな場所に出店しているだけあって、内装やら展示物から漂うオシャレ感が凄く……一言でいうなら、男子にとって近づき難いオーラがもやもやと噴出している場所であった。
ぼくも可愛い洋服は好きだけど、今どきの女子ほど最新のファッションに詳しいわけではない。街でショーウィンドウをチラ見する事はあっても、お店に入ってお買い上げとか想像すらした事もないのだから。
思えば当然の話だ。だって、普通の中学生男子はこんな店に来ないし、買い物もしないし、そもそも……着ないのだ。女の子の服なんて。
「えっと、これは流石に嫌な予感しかしないんだけど……」
うら若き女子の集団がお洋服の店に入ったなら、その後の流れは容易に想像できる。そう……試着祭りだ。
そしてぼくみたいな「見た目だけは」超絶美少女は真っ先に犠牲に……みんなの着せ替え人形にされるのは避けられない。
当然、彼女たちのほとんどはぼくの秘密を知らない。中身が男子だなんて夢にも思っていないのだから、それこそ善意百パーセントの笑顔で様々な服を持ち寄って来ることだろう。
まずい。これは早急に手を打たなければ……
「来たのです!?」「遅ぇぞ!」「待ちかねましたよ、灯夜さん!」
し、しまった! 恋寿ちゃんに愛音ちゃん、小梅さんまでがぼくの後ろに回って退路を塞ぐ。見事に先手を取られた形だ。
「遅いから心配したのでござるよ~」「ルゥで遊ぶのも飽きたし、ちょうどいい時に来た」
そして服部さんと及川さんがぼくの両腕を左右からがっちりホールドして、ずるずると店内へ引きずり込む……も、問答無用なのっ!?
「たっ、助け――――静流ちゃん!」
万感の想いを込め、ぼくは静流ちゃんへ救いを求めた。彼女はぼくが男の子だと知っている数少ない一人。ならば、これがどれだけ危険な状況かも理解しているはずっ!
「うふふ……待っていたわ、
けれど静流ちゃんは最高の笑顔で無慈悲に言い放つと、そのままぼくを試着室へと連行するのだった。
うう……そんな、分かってて意地悪しなくても~!
みるみる近づいてくる試着室。見ればそのひとつでぐったりとへたり込んでいるのは……ルゥちゃんではないか。
自分からは絶対着ないであろうフリフリ全開のドレス姿のまま、手足を投げ出してくるくると目を回している。そうか、ぼくが居ない間……彼女が代わりに生け贄にされていたのか。
「それじゃあ最初はコレ! 他にもいっぱいあるからヨロシクね!」
語尾にハートが付きそうなほど御機嫌な笑顔で、大胆な肩出しワンピースを手渡してくる静流ちゃん。その瞳はまるで夢を見ているかのようにきらきらと輝いて……ああ、彼女がこの状況を心から楽しんでいるのが分かる。
学園に来てから、ずっとすれ違ってきたぼくに対する意趣返しというのもあるだろう。けれどそれ以上に彼女は、純粋にぼくの女装ファッションショーを間近で堪能したいのだ……たぶん。
「一人で着れないなら、手伝ってあげてもいいけど~?」
「だ、大丈夫だよぅ!」
カーテンをぴしゃりと閉めて、ぼくはため息をついた。はあ……可愛い服は確かに好きだけど、自分で着るのはやっぱりまだ抵抗があるというか。
逆に抵抗なく着れてしまうようになったら色々とヤバい気がするよ……いち男子としてっ!
「まだかトーヤ!」「はっやっくっ、でござる!」「気の毒だけど、割り切るしかないんだよ……」
薄布一枚向こうからは、早くも催促の声が……こうなったら、もう覚悟を決めるしかない。ううっ、脱いでる最中に覗いたりしないでよ……?
「次の服も用意したわ! さあ、早く見せて見せて!」
「ちょ、そんなに急かさないでよ~!」
――――それから、たっぷり一時間。ぼくは様々な洋服を着ては脱ぎ、着ては脱ぎ……幸い、途中で覗かれる事はなかったものの、正直生きた心地がしないひと時を過ごす事になったのである……。
「うんうん。さっきの背中が開いてるのも捨てがたかったけど、着て歩くならこの辺りがベストね!」
「あ……うん……」
いつ終わるとも知れぬファッションショーから解放された時、ぼくの姿は……過剰にフリフリがあしらわれた薄いピンク色のワンピースへと変わっていた。
みんなの絶賛の声に押され、着たままその場でお買い上げありがとうございますと相成ったのだ。
「しっかし、ホントになんでも似合うなトーヤは~」「店員さんもすごくノリノリでしたね」「眼福だったのです! けど、店内では撮影禁止だったのが残念なのです……」
まあ、みんなには楽しんでもらえたようで何よりだ……割と酷い目に遭った気がするのはまあ、必要経費と思って諦めよう。
「うふふ……すごく似合ってるわよ、月代さん」
それに、静流ちゃんがすごく喜んでくれたのは嬉しい。そういえば、彼女がぼくの前でこんな風に笑うのは久しぶりだ。
この笑顔が見られただけで、精神をすり減らしただけの甲斐はあったのかもしれない。無茶振りを聞いてあげるのも、たまには悪くないかな?
「今度来た時は水着を選んであげるわ。楽しみにしててね、
――――ぜ、前言撤回! 流石にそれは無理なんだからねっ!?
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