第2話 夏休み

手帳を見ながら僕は深いため息をついた。


暑い暑い夏休みが終わると実家考査が顔を出すのは泣きっ面に蜂ってやつだ。夏休みは何にも僕にとってメリットがないのに。

母子家庭で金がないからエアコンをつけずにすごすと俺は勝手に決めた。そうすると、家は灼熱地獄だ。

あまりにも暑いと人間おかしくなるようで、妹曰く

「おにいちゃん!…おにいちゃん…?」

「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑いクソ夏なんか滅んで秋しか存在しなければいーのになぁ!!!ははっ?暑い暑い暑い暑い暑い暑い…」

と、言い続けながら僕は課題をやっていたらしい。その時の記憶はない。

兄弟で図書館に逃げ昼は公園でおにぎりを速攻で食べまた図書館…の繰り返しだ。夏休みなんて。妹は友達の家に入り浸っているらしいが、そんな図々しいことはしたくないというのが本音だ。今日は図書館の休館日なので家でだらだらする日に決めた。家じゃ暑すぎて何もしたくない。今日はダラダラ日和だ。きっとそうだ。

_ピンポーン。

ああうるさい。

_ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

気が狂いそうになりながら必死で身体を起こし、やっとの思いでドアをあけた。

ふわっと風が入り、プチオアシスな

気分。あ、ちょっと涼しい。

「優梨!!!」

だが、その声を聞いた瞬間ドアを閉めたくなった。オアシスなどもうどうでもいい。宅急便なら笑顔で受け取るだろうがこいつに1ミリの笑顔も向けたくない。顔の筋肉を動かすだけカロリーの無駄というものだ。

「…何?」

「遊びに来ちった☆」

てへぺろって効果音がつきそうな笑顔をむけてたつ優介がそこにはいた。

「はいっていーい?」

「勝手に入れ」

「おじゃましまーす!うわ

あっっっっつ!!!!!!」

「お前は母子家庭のうちに何の期待をしたんだ?常にうちは節電だDo you understand?」

「じゃあうちに来いよ!!!」

「へ?」



「ちょちょちょちょ待て待て待て!!!」

「いーから!!」

引きずられてそのまま車に放り込まれた。

「おっちゃん○○まで!」

「分かりました」

タクシー!???タクシーに乗ったことない僕はめちゃくちゃ焦った。

「優介!!」

「何?もっとでかい声で言えって」

「僕お金ない!下ろして!!」

「いいってそんくらい」

さらっとタクシーに乗れる経済力にエアコンさえケチる僕はくらっとした。

なんでこんな奴と友達やってんだ?僕は。

あまりにも感覚が違う。

ユースケんちに入るとあまりの快適温度さにすべてを忘れしばし涼しさを堪能した。

しかもピカピカに磨かれたガラスのコップに注がれた高そうなジュースまで来た。

何だここは。天国か。のんびり課題をすることにした。横から茶々を入れて来るくそったれさえ気にしなければ今日は課題日和だ。訂正する。

「お前も課題やれよ」

「やだめんどい」

「…」

このくそったれの意外なところは課題は出さんわ授業は爆睡だわなのに成績がいいことだ。

僕だって悪くはないがこいつの方が若干順位が上である。小さい頃は僕は気に入らなかった。



(何でユースケばっかり)(僕の方が頑張ってるのに)(なんで?)(何でだよ…)



そんな暗い気持ちを吹き飛ばすようにユースケはぼくの頭をくしゃくしゃ撫でて少しかがんで言った。

「なにも努力しずに取る一位より努力して取った4位の方がよっぽど価値があるし俺4位って大好きだよ。」

ぼろぼろ涙を流して頷いた。

その頃ガリ勉、貧乏神などの悪意あるあだ名をつけられいじめられていた僕はその言葉でどれだけ救われただろうか。

お金がないというのはどうしようもできない。母子家庭な僕は塾は通えず、努力していたがあと一歩の押し上げが出来ず、いつも4位だった。一位はユースケ、二位、三位は塾に通ってる連中だった。いじめるやつらも二位で三位だった。何にも言えず下を向いて黙りこくり蹴られ殴られるのを耐えていた。ユースケの言葉を唱えながら。



でも、そんなのは昔の話だ。

ユースケが覚えている訳がないし、あまり振り返るべき話でもない気がする。

今のこいつの隣にいることが大事。

そんなこと、絶対言ってやらないけど。









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カクリツ。 シンドウカズマ @remon_lemon1114

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