山川沙月の未来
「じゃあ、このランチセットでお願いします」
「あら、もっと量があるものじゃなくていいの? なんでも食べたいものおごってあげるんだから」
「いえいえ、お気持ちだけで充分ですよ」
洋平は申し訳なさそうに頭を下げるものだから、沙月は心なしか申し訳なく思ってしまった。
なぜ沙月と洋平が食事をしているのか。それはさきほど、
沙月はちょうど昼食を食べる予定で近くのファミレスに行こうとしていた。少しでもお礼がしたかった沙月は、試しに洋平を食事に誘ってみた。すると、都合よく洋平も同じ場所で昼食をとろうとしていたらしく、流れで沙月が洋平に食事をご
「正直、線路の真ん中に立っている人を助けようと思ったときは無我夢中で、周りに誰かがいるなんて気づきませんでした」
「私もよ。まさか、あなたが急に現れるなんて予想だにしなかった。予想外すぎて、自殺しそびれた」
「冗談きついですよ」
洋平は沙月をやんわりと
「それにしても、どうして山川さんは自殺しようとしていたんですか?」
このときばかりは洋平の顔も真剣な表情となっていた。話せば長くなるだろうが、ちょうどかきいれ時の店内では、注文がやってきていない客ばかりが目立っていたため、料理を待つあいだの暇つぶし程度に長話も悪くないだろう。沙月は姿勢を正してゆっくりと話し始めた。
「だから、私は弱みを握られた人形みたいな扱いを受けているのよ」
「それは……つらいですね……」
だいたいの話が済んでもなお、頼んでいた料理は来ていなかった。
「ところで、山川さんは、バンドがかなりお好きですよね?」
「え? まぁ、そりゃそうだけど……」
「実際にバンドを組んでいる話もそうですけど、さっき車に乗せてもらったときにも、ロックバンドの曲がかかっていましたよね」
「よく覚えていたわね」
「僕は多少聴きますから。あのロックスター、いいですよね。かっこいいし、歌詞が素敵なんですよね」
洋平はなかば
「あなた、なかなかわかってるじゃない」
「でも、僕は山川さんのことが少しわからないです」
「え、どうして?」
唐突に話が切り替わったため沙月はどぎまぎしてしまう。
「だって、あのロックスターの大ファンだったら、自分から命を絶とうなんてせずに、相手を打ち負かすために
それは……バンドの好みとあまり関係ないのではないか、と沙月は思いもしたが、心のどこかで思っていたことを射抜かれた感覚もあった。
あのロックスターなら自分と同じ選択はしないはずだろう。沙月はみるみると沸き起こる
「とはいっても、反発したところでボイスレコーダーがあるんじゃ、山川さんもむやみな動きができないし、相当難しい」
どうやら洋平は沙月を
「でもさ、きっと何かあるんだよ。打開策が。英雄になれるなんて言ってるんだから」
沙月は大好きな歌詞の一部を引用して話をつなげた。洋平も引用にピンときたらしく、大きく頷いて肯定した。
「あのロックスターはもう亡くなってしまったし、どうやって英雄になるのかを尋ねることはできないけれど、ヒントは歌詞の中にあるはずです」
洋平が口角をあげた。洋平がどんな人生を送っていて、どんな職業に
「まぁ、僕は結局答えを見つけられないまま、あのロックスターみたいにこの世を去ることになるんですけどね」
あまりに
「どうもこうも、僕は明後日、死ぬんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます