015:挑戦の準備

 さて、今回はこの世界の真実についてかこう。といっても大したことじゃないんだが……。


 まずダンジョンについておさらいだよ。この世界には『コア』を核とする『ダンジョン』というものがあり、『ダンジョン・マスター』が運営を担っている。ダンジョンの階層は一つの『フロア』として成立し、様々な環境を再演することが可能だ。


 ウチのダンジョン『エテ・セテラ』なら『イチイ』がわかりやすいと思う。例えば一面の砂漠、燃え続ける大地、氷雪の凍土、暗がりの密林、常闇の穴蔵、底なしの海などなど……およそ現実に起こりえない環境もフィールドとして設定可能になっている。理論上可能なだけでクリア不可能なんてのもアリなわけだ。


 さて、ダンマスがなぜそういった環境を作るのか。それはフロアの環境に適合した魔物を設定し、生態系を構築するのが最も効率の良い運営方法だからに他ならない。なので基本的にフロアで完結している事が望ましいが、実際は難しいので裏ワザ的に複数フロアをつなげて循環を担うということもやってたりする。深く話すと終わらないから置いとくが、ようはフロアが国になっていて、お互いのフロア同士で有効的な貿易をしていると考えれば良い。融通し合えば効率よく回すことができるんだな。

 だがダンジョンとしてはそのままでは使えない。追加でトラップやセキュリティギミックを仕込み、最後にお宝をオプションで配備することでフロアが完成するんだ。


 で、いきなりダンジョンの作りなんて説明初めて何が言いたいかといえばだ。こうした極端な環境ができるという事は、ダンジョンの外に介在する『現実』をダンジョンにコピーできちゃうんじゃないか、ってことだ。っていうか実際にやろうと思えば、『エイリーズ』を含む周辺の村や環境をまるまるダンジョンにコピーできてしまう。そうして調整された環境であれば、人間が住まうことも十分可能なんだな。


 だってそういうフロアなんだから。


 そこでは確りと昼夜があり、果樹が育ち、野菜が育ち、麦が育ち、家畜も人も何もかも問題なく回天輪廻することができる。ただ病気や流行り病、感染症はかからなくなるだろうけどね。これってぶっちゃけヤバいことだと思わないか? つまりこのフロアは既に一つの世界として計上できると考えられないだろうか。だって第二、第三世代まで来たらそこがダンジョンだなんて夢にも思わないだろうし。そこに住まう人は、フロアを現実の世界として認識し、活動を始めるだろう。


 これはもう創世の実行といっても過言じゃない。ことこのフロアに置いて、私は神以外の何物でもないんだよ。豊穣も破滅も全て我が掌の上というわけだ。そう考えるとダンジョンの外にある『現実』って『何』なんだろう? 哲学的な話だが、ダンマスである私が出す答えは一つしかない。


 この世界は『ダンジョン』である。


 正確に言えば『ダンジョン』という小世界を内包する超巨大ダンジョンと言うべきかな。多階層構造の世界群がこの世界の正体だと思っている。そう考えるといろいろ辻褄が合うんだよね。仮にこれをダンジョン『ユニヴァース』としよう。


 『ユニヴァース』における勇者召喚は受動的ユニット整理に相当する。フロア側の要求に対して必要なユニットを請求しているということだからね。コレ自体は珍しいことじゃなく、フロアごと融通し合うというのはよくあることなので何ら珍しいことじゃない。真面目に『勇者召喚』なんてやろうもんなら気の狂うような術式と、膨大な魔力が必要になるからなぁ。今の人類じゃちょっとじゃなく不可能……なのにサクッといけちゃったのもそういうことなんだろう。あれはダンジョンの機能だ。


 さらに能力付与はユニットの調整になるだろうね。融通し合うリソースとしてのユニットは、もともと住んでいたフロアに最適化されているわけだ。そこにまるで別環境へ放り込むんだから、リフォーマットが必要なのは明白。そのさいにちょっとイジるぐらいわけない話だよ。ちなみに『勇者召喚』という受動行動に能動的に干渉できるかと言えば、間接的には可能だと考えている。予め用意したプリセットを当てはめてやればいいんだから、あれだけわかりやすい加護の勇者たちが現れたんじゃなかろうか。


 さて、となると『神の軍勢』は単に魔物ユニットを配置しただけになる。ダンジョンモンスターはリソースとなる素材と魔力さえ用意できるならすぐに生み出せるからね。ただし量産型は頭が悪いというデメリットが在るけれど、前回書いたとおり今は『居るだけ』で効果がある。なら複雑な命令系統はすぐに必要ないからこのままで十分だ。神は狡猾だな……。もちろんこのままじゃかかしだから、頭のいい指揮個体を逐次配備すれば人類顔負けの軍隊に仕上がるだろう。つまり時間の勝負ってことだね。


 此処まで来たら突き詰めよう。そもそも『勇者』ってなんぞやって話になんだが、これはダンジョン運営上のイレギュラーに対応する仕組み……まるっきり保守対応じゃなかろうか。完璧なアーコロジーを造り出すっていうのはどうしても難しいから、稀に私のようなイレギュラーが出てきてしまう。そのための排他システムが勇者という機能なんだろう。頭いいようで悪い仕組みだね。ちなみに『エテ・セテラ』では私自らがそれやってます。ブーメラン返ってきたわーつらい。


 こう考えていくとそれぞれの世界は単なる『フロア』でしかないって解釈になる。となると……前世でよく研究されていた星間飛行も、実は意味はなかったのかもしれないね。遠く宇宙を旅して材料を取得しても、[太陽系]の外に知的生命体は存在しないんだから。だってメインステージはあくまであの星だから、それ以外に何某かの意味を用意する必要性が感じられない。前世の人類はいつかその事実を知ってしまう日が来るんだろうか? まぁ私の知ったこっちゃないか。


 というわけで一連の騒動は『ダンジョン』をキーにすると全て説明がつく。正直に空間魔法を研究していたのもバカバカしくなる万能器だよ。いや無意味ではないんだが、ダンジョンコアやばすぎないか? こんなもん作り出したの一体誰なんだ。考え出すといわゆる『真の神』に対する疑問に繋がるから今はおいとこう。私は私より高次の存在について語れるほど知見があるわけじゃないからね。


 だが『ダンジョン・マスターという神』ならば確実に存在すると確信している。少なくともこの世界を管理運営して、検閲なんてえげつないことをしているやつがね。しっかしこれっていわゆるシミュレーション仮説ってやつになるのかね? あれはコンピューターによるAIがそれを担っていたが、ダンジョンが似たような形で存在している。

 いや蛇足蛇足、今はこの世界がダンジョンであるということが分かっていればいい。


 この世界がダンジョンであるならば、ダンジョンマスターへ至る路……『階段』が存在することを意味する。そして其処には世界すべてを統括するダンジョンコアが在るはずだ。


 私はそれを制圧……ハッキングしようと目論んでいる。私が私を初めた『始まりの洞窟』と同じ事だ。ダンマスの鞍替えってやつ……そいつを目論んでいる。そもそもこの世界の神は余りに干渉がすぎるんだよ。私達は此処に生きている一つの命だ。それを箱庭遊びのように勝手されるなどたまるものかよ。


 ……と、大義名分を切り出したものの。ぶっちゃけ『エテ・セテラ』運営に邪魔なんだよね、今この世界を運営している神って。こういう勘定じゃなく感情で動くような馬鹿をトップに置いとくと碌な事にならないよ。ほんとだよ。だから下ろそう。不正を働いたらちゃんと罰せられなきゃいけないもんね。ちゃんとノーを突き付けられる私は偉いと思う。

 というわけで表向き決戦に向けて動きつつ在る王国と連合に対し、私は私で動くことになった。


 此処で生きてくるのが研究してきた空間魔法! この魔法体系は単純に空間に対する作用以外にも、空間そのものに対する認識把握も領分とする。つまり空間魔法の担い手にかかればダンジョンフロアの構造および入口、出口の位置は丸見えというわけなのだよ。まあダンマスはそれを加味してフロア設計するから一筋縄じゃいかないんだけども。

 そもそも空間魔法使いは稀有だからダンジョンなんてこないし、対策練るやつはほとんど居ないんだけど。ウチぐらいじゃないか? 空間魔法対策してるダンジョンって。


 という訳で私が表に出て『ウラー!!』と空間魔法を使うとビャーっと空間のねじれが見えてくる。


 あ、いや、こればっかりは文章にしづらい感覚なんだよ。フワッときてキュンとなりビャーがきてニュマッ! としか言いようがない。具体的に書くと論文になるし塩梅が難しいな。ただ空気が重い方が下につながる階層になっているのは『エテ・セテラ』と一緒だね。 ヒャッハー! 気配を頼りに全☆速☆前☆進だ!


 と、行きたいところなんだが人生もとい魔物生ってやつは上手くいかないものだなぁ。なんせその階段がまさに『王国』の地下にあるんだから。どうしたもんかねぇと思うのも一瞬、私は私の存在をすぐさま思い出した。


 そうじゃん私スライムじゃんね。


 とどのつまり災厄級のスライムさんは隠密殺で此処まで来たようなところがある。なので今この状態からでも、単騎なら階段にたどり着くことも容易というわけだよ。だがそれをするには問題が幾つか残っている。


 まず『エテ・セテラ』の守りだ。ぶっちゃけ『イチイ』が攻略されるのはほぼ不可能(今攻略している方々はかなり捨て身な形なので将来的に積む)とはいえ、既存のダンジョン運営はおろそかにできない。『エテ・セテラ』の通常ダンジョンっていうのは、つまるところ商活動的な守り……それに不安があるんだよ。ダンジョンそのものは管理者を立てることでなんとかなると思うのだが、新商品開発や宅地開発の決済はやはり私を通さねばならない。

 となると二十一あるコアのうち一つを残すべきなのだが……うーむ、それで大丈夫だろうか。一コアの私は『わたくし』モードだからなぁ。ちょっと詰めが甘いっていうか、ほっとけないっていうか。有事の対処に期待ができないんだよね。ここはちょっと甘辛めの執事を一体作っておくのが鉄板かな。


「だからといって鉄板を執事にするのは如何なものかと」


 そう言って文句を言うのは新造魔物のレジェンダリーモノリスオブジェクト、命名オトウフさんだ。見た目はただの二メートル近い鉄板のトレイにワイシャツネクタイが描かれただけの代物だが、喋るし歩くし割とアグレッシブに動く。それに彼の入れる紅茶と焼き立てスコーンは鉄板だ。勿論不味いという意味ではなく美味いという意味だし、彼が自らオーブンに入るわけではない。彼は鉄板だがその前に執事なのだからあたりまえだよね。


 うんすまないネタで作ったら意外と有能でスライムさんは困惑しているんだ!!


『鉄板、格好良くなくて?』

『そうそう、かっこうよいのでつ』

「左様申されましても……私、ただの板でございますから」

『ただの板に紅茶は淹れられないのですよねぇ』

『そうそう。っていうか『私』! わたくしこのままへいへいぼんぼん、のらりくらりにくらしてよいのかしら』

『あら、結論は出たじゃありませんの『わたくし』。研究は止まりますが、ダンジョンに管理者は必要でしてよ』

『わかってはいるのでつ、わかっては。でもいざ『のこる』となると、ふあんがこみあげるのでつよ』

『それは私だってそうですわよ。我が事ながら心配でなりませんわ』

「御嬢様につきましては私に任されませ。女王陛下は心置きなく責務を果たされますよう」


 ちなみにオトウフさんは喋るとべこんべこんと音が鳴る。うるさいのだが不思議と不快じゃないのが謎だ。本当に謎だ。


『うーん、鉄板に言われると心配ですわ』

『こう、いたにいわれるというのが、なんともふあんをあおるのでつ』

「……創造主に恵まれない不遇なゴーレムの話があるのですが」

『『すみませんでした』』


 揃って謝り、私とわたくしは別れて作業と相成った。そうなると日記も分けないといけないかな……。基本は本体である二十コアの私が担当することにしよう。


 さて明日から私は世界を攻略しに行く。明日も一日頑張るぞい! とか言っとけばなんとかなりませんかね。ならないか。しかたないやるか。



 とまぁこんなところで今日はおしまい。また明日。

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