014:戦争のはじまり
あー……めっさ疲れた。王国マジ王国ほんま滅びろ。スライムさん疲れないのにほんま疲れた。あいつらなんなんだよほんま。
うん、今日は戦況を纏めよう、頭がこんがらがってるし。キーワードは『勇者召喚』と『神の軍勢』だ。
まず先だって異常な魔力の発露を検出した私達というか私は、様々な計測データから王国が『勇者召喚』を実施したと断定するに至った。だって霊脈からごっそり魔力がなくなってたからね。これギリアウトじゃね? ってくらい減ってるの。王国頭おかしくない? 国際問題待ったなし、時が時なら全面戦争やぞ。
因みに霊脈は世界の血液とも取れるものでね、減ると自然に影響がガッツリ出る。たとえば森が枯れて恵みが得られなくなり生態系が狂うし、人類なら主食たる麦の収穫が著しく減ったりするわけだよ。そして回復には一年二年じゃ聞かない訳。これだけで王国死すべし慈悲はないといえる。
私はすぐさま連合国議会及び魔国へ通達した。魔国のほうは大魔王が『やっぱそうだよね』と言っていたから余計なお世話だったかもしれないけれど……他人事じゃあないよなぁ。特に土地を豊かにする権能を持つ精霊等は王国に近寄れもしないかも。
詳細は密偵によれば二十余名の"ニホンジン"が召喚されたと確認が取れている。曰くクラスメートやら先生やらチートやらと単語を拾っているので、典型的なクラス召喚ってやつだ。マジあるんだなと最近空間属性に研究熱心な私としては関心が向くけど、問題はコイツラの能力と王国が行った世界情勢の説明だ。
纏めると連合国は人類を裏切って魔王に付いたと説明しているんだね。大分事実と異なる――言わば王国側にとても都合の良く、かつ耳触りの良い言葉で籠絡したんだな。プロパガンダ美味しいです。
ちなみに私は小国一つを飲み込んだ化け物らしい。いや自我がないときはそうだったかもしれないが、いまはそんなことしてませんよ。せいぜい息子さんの息子を引っかきすぎてもげたくらいじゃないですか。存在しないお股がヒュンとなったけど、私悪くないよね。
そんな一方的な情報に乗せられるあっぱらぱーな若い子達だが能力そのものは厄介だ。事実上のチート能力を数多く揃えている。
たとえば『メサイア』は治癒の究極。理論上生きてさえいれば頭から体を生やすことができる。わあ、マリー・アントワネットもこれで救われるね!
たとえば『ソーサラー』は魔法の究極。およそすべての魔法を行使するに足る資質を持つ。いわゆるハイパー賢者ですわ。
たとえば『ウォリアー』は戦士の究極。武器扱いは元より戦いにおける勘働きが凄まじい。極めることで明鏡止水はもとより雲耀の太刀まで扱えるだろう。
とまあこんなのがずらりと並べば異様なのもお分かりいただけるだろう。だが正直この程度ならハウランドと私を始め、魔王諸侯なら手軽に対処できると判明した。いずれも単なる資質で、積み重ねたものが断然違うのだ。現実はそう甘くないんだよ。
じゃあ何がやべーのかといえばそう、『ブレイバー』の加護持ちがいる事。奥さん勇者ですよ勇者! それも自然発生でないことから、意図して生み出されたもの……つまり『神託勇者』に他ならないわけです。コイツはガチでやばい存在だ。許されるなら今すぐ殺したいくらいだよ?
なんせこの力は『都合のいいように運が転ぶ力』でもあるからね。いわゆるお約束を必ず引きあてるやつ。例えば何らかのピンチに対し切り札をひく。大規模破壊禁術を行使して、たった一人だけ取りこぼす。また何が何でも生き残るしぶとさも忘れちゃいけない。間違って女湯に入ってしまいラッキースケベに恵まれるも無傷を貫く強さも忘れてはいけない。神って一体……。
さて神託勇者とは魔に対する決定的な概念存在。アイザック君と私が戦って勝てないのは正にここなんだよなー。いかに戦力差があっても、勝てると思える運命にあっても、最後の最後の瞬間で彼は私に勝ってしまうという結果を彼は持っている。本当に理不尽だよね。
それと同じ星辰を『ブレイバー』は持っているんだよ。
勇者とはもはやそういうものだから、扱いはとても慎重にしないといけない。今なら某ロールプレイングゲームの序盤でスライムしか出てこない理由が分かるわ。だっていきなり強いのをぶち当てて覚醒されたら困るもん。そういうものが目を覚ましたら本当に最後なんだ。だから苦肉の策として、弱い魔物を当てて魔王は足掻くんだと思う。切ねえな……社会はもっと魔王に優しくするべきだと思う。
で、ここで問題なのは『ブレイバー』の加護を持つ少年(以下ヤマドゥ君としよう)が、『何に対する勇者なのか』ってことなんだね。以前アイザック君について書いたとおり、彼という勇者は私という災厄に用意された駒だ。であればヤマドゥ君という勇者も対応する何かが存在するはずなんだ。
勿論私ではない。私にはアイザック君がいるからね。既に滅ぼしうる駒が生まれている以上もう一つ用意する意味がない。まぁアイザック君は宣託勇者だからありうると言えばあり得るが、現状の私はそこまで悪さしてない(表に常駐することで発生する瘴気もダンジョンにこもることで解決してるし)ので除外していいだろう。
となるとハウランド? しかし彼は万夫不当だが駒を用意するほどに無双ではない。いや弱いって言ってる訳じゃなくね? 彼はほら、なんていうかー飛び抜けてクソゲーって訳じゃないまっとうな魔法戦士だからさ。ふざけんじゃねぇワープとかチートじゃねぇかクソがあああ! とコントローラーを投げ飛ばす相手じゃないんだよ。要求が全て一フレームの技ばかり使う頭おかしい武人ってだけで。
ならば大魔王だと思うがこれも違うはず。何故なら彼は現在、人類に対して脅威として見られていないから。また彼は導きこそすれ無意味な破壊に身を委ねたりはしないからね。まっとうな魔王なんですよ、大魔王は。はい王国の王はちゃんと見習って!!
でも存在を認識されていないんだから無理なんだよなぁ……。連合国でも大魔王の存在を知っているのは魔族方だけだしねぇ。っていうか魔王が複数いるということ自体、人族は初めて知ったようなもんだし。
となると、だよ? ヤマドゥ君は一体何に対抗するために神託を授かったのか気になる。というかこれが判明しないと最悪の予想に繋がるんだけどなー。書くと現実になっちゃうから書かないけど。でもそう書くとなんか運命確定思想で逆に怖いな。ジレンマジレンマ。
さて、この勇者召喚が確定した時点で連合国は第二種警戒態勢に移行。王国の動向を見守ると同時に前線に兵を移送することになる。だが私達の動きはちょっと遅かった。王国の動きがまたしても早すぎたんだ。
前回は略奪前提で配備されていたという事が分かってたから、神速の行軍も解ったんだが今回はそれを考慮してもあまりにおかしい。前回の教訓として、砦と潜入部隊には連合国共通企画の通信魔道具(勿論私が丹精込めて作り出した特注品だ!)を持たせて様子を見てたんだけど……街の人の動きや兵たちの動きすらなかったんだよね。兵が動かずになんで軍が展開されてるのかな、意味がわからない。だから第一報は前線要塞からの緊急警報だったんだよ。ちょちょそれはありえんて。しかも敵が七、地面が三なんて言葉を聞くことになるとはまったくもって想定外だ。
素直に結果を受け入れるなら、前線に軍が発生したってこと。それがまた二十万という大軍勢だ。これは明らかにおかしいでしょ? もちろん私やハウランド、ゴディバさんやローエンハイムの情報を持ってしてもこんなものを掴むなんて出来やしない。
結論としてこれは『神の軍勢』だと結論が出た。おっとり刀で駆けつけた私の観測結果によれば、全員ただ一人の例外なく同じ顔をしていたからね。明らかにクローン人間じゃないか。ならこいつら補給が必要でない可能性が非常に高い。そのように調整されているならさもありなんと……ぬーーもったいぶるのはやめとこう。
『神の軍勢』、その正体は『魔物の群れ』だ。人の形をして、人に害意をもたないだけで確かに魔物に違いない。もし解体すればその心臓には魔石が埋まっていることだろう。名付けてレギオンと言ったところかな? だが今ここで真実を吐露してどうなるだろう。意味はないなら口を紡ぐのがうまいやり方ってもんだ。そうじゃなくても――。
「に、二十万の軍勢など相手にできるものか!」
「ハウランド殿、実際の所相手にできるのですか?」
「ミーディアム様! 件の大魔法は如何程に!」
とまあ、連合国議会は人族を中心に戦線狂乱だよね。なんせ前線に立つのは彼ら王国から離反した領主たちだし。攻め込まれたら何されるかわからんものな。いくら魔族が協力して難攻不落の要塞に仕立てたとしても、あの規律正しい軍を見れば焦るだろうさ。だがここで事を急くと連合国の命運が決まってしまう。慎重に事を進めないとね。
『幸い軍勢は待機したまま動きを見せておりません。こちらから干渉しない限り動かないでしょう』
「我も同意見だな。力はさほどでは無い、が――死兵である点には注意が必要であろう」
『死兵。的を射ておりますわね。あれらは人の形をした"なにか"ですわ』
「か、確証はあるのですかな?」
『第一に、事実として彼軍は攻め入って来ておりません。これは目的があっての事と思います』
「理由は勇者召喚、これが軍を止める理由であろうよ。つまるところのすてがまり。神の軍勢とはよう言えたものだ、事実は勇者を育成する時を作るだけの駒だろう」
そう、時間を作るためだけの壁。魔物というやつは事こういうことに関しては非常に向いた存在だ。勿論時が来れば兵として動くことも問題ないだろう。非常に厄介な存在すぎる。
『第二に、私の存在が御座います。先だって軍勢を退けたことは記憶に新しいかと』
「突然現れたとはいえ、減れば消耗するものであろう。また嫌らしいことに奴等はミーディアム殿が『弁えておる』事を十全に存じているようだ」
そう、私は世間ののルールをちゃんと弁えて此処に立っている。例えば軍に攻撃を仕掛けるには大義名分が必要であることを知っているし、また神の軍勢とかいう『正体不明』の軍隊を相手に手を上げた後を考えられないわけもない。だから突如現れ、また動かないことで私や連合の動きを縛っているんだな。クソッタレ、水虫弾をやりすぎたっていうのか。まぁあれはひどかったからなぁ……。そりゃ対策練るわな、魔物に水虫効かないし。
「なれば我々が出来うることは――」
『せいぜい砦で彼軍を見守るくらいですわねぇ』
クスリと笑えば人族領主の面々が歯噛みし、悪感情が募っていく。そう、あれにはこういう精神攻撃的な効果もあるんだよ。連合国は良くも悪くも新しい。今回はその悪い面が際立っちゃった感じだね。だからこそわざとらしく笑ったんだが……それに気づけた奴は半々ってところかな。
「申しておくが、之で頭を冷やせぬものを連合は支援せぬぞ」
「なっ!!」
ハウランドが呆れたように言い放てば、血気盛んな半数が睨みつける。そりゃそうだろう。足並み揃わない軍なんて足手まといも良いところ。そこをつかれれば軍なんてものは一気に崩壊しちゃうんだから。だが会場の四分の三から冷たい目で見られれば流石に口を紡がざるをえない。
静かになった会議室に鳴る拍子。音に釣られて皆の視線が彼に向かう。そう、連合国筆頭議員のゴディバさんだ。
「さて、皆々様。事此処に至って連合は方針を決めねばなりませぬ。まず彼軍は王国の旗を掲げておりません。まずは王国に事の真偽を問いただすとしましょう」
『そうですわねぇ。ただ事実としてあれが『神の軍勢』で王国の味方だとしても、所属が無いから不明と帰ってきそうですけれど』
「外交とは左様なものであるからなぁ。表向きは其れでいいとして裏からはどう動く?」
「基本王国は決戦を求めてくるでしょう。であれば戦の準備を早急に推し進めねばなりますまい」
「腕が鳴るな、ククク」
『……』
「何かご不満がお有りかな、ミーディアム嬢」
質問に対し、私はどう答えるか考えあぐねていたがどうせバレるし言ってしまうことにした。
『皆様。今回の件、神が関わっているのは承知のこととおもいます』
そう言って見渡せば其処に異論は無いようだ。実際に勇者や軍勢が出てきちゃってるし明らかだと言える。信心深い民への対応が面倒だなぁと他人事を思いつつ私は言葉を続ける。
『なので、こうした身勝手をする神をすこし懲らしめようかと』
「「「「は?」」」」
見事に議会が唱和したのは中々に見応えがあったとだけ言っておこう。
とまぁこんなところで今日はおしまい。また明日。
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