006:連合国について

 今日は連合国について書くとしよう。


 電撃的に和平成立した『エイリーズ』と『バルバトス魔王領』だが、あくまで境界線上の領域が融和したに過ぎない。前線が戦争放棄しただけで、戦争そのものは続行中なのだな。戦争以上冷戦未満っていうのかな? うーん、ちょっと表現しづらい戦況だ。


 でも魔族領についてはほぼ問題解決したと言ってよいだろう。ハウランドは元より、大魔王を筆頭としてほとんどの魔王が和平条件を飲んだ。特に子孫を高確率で残す技術は喉から手が出るほど欲しいものだったろうね。残った獣魔王やら精霊魔王なんかは遺恨が残っているけれど、こちらも追々技術共有来ていきたいと思う。前者は武闘派だから闘技場システムの確立、後者は移り気だから遊具とか与えれば満足するだろう。また捕虜達もパルティザンを組織して奪還に動けばいいかな。

 というかもともと魔族と魔物の区別がついてたからな。人との戦争もハウランドが表立ってたから、遺恨はありつつも過去の出来事と割り切ることができた。だからこそ新しい時代に手を伸ばしたわけだ。大人だなぁ魔族。


 それに比べて人族よ……こちらは中央が頑なに頷かない。なにせ五百年越しのプロパガンダが機能しているのだ。生まれた時から植え付けられた悪感情は如何ともしがたく残り続けている。これは短命で圧倒的多数であるヒューマンに根強い思想だ。常識として刷り込まれてしまったのだからもう仕方ないし、『魔族憎し』とか言ってれば金が搾り取れるのだからやめられないとめられない。……そう考えると『エイリーズ』の住人たちはよく受け入れたな。まぁそうなるように私が各種イベントを開催して、毎日お祭り騒ぎにしてやったからなんだが。特に酒。エールを駆逐する勢いで広めたビールに、キリッと切れのあるコメ酒、女性に人気の甘い果実酒なんかは連合国じゃないと気軽に楽しめない。他所の国に持ってくと味が落ちるし不味いのだよ。

 それに戦争がなくなって中央になったから、生活がどんどん豊かになっていく。これでケチ付けるなら出て行けとゴディバさんも宣言しており、文句を言いたい輩も便利さにどっぷり浸かって抜け出せない。結局皆黙って受け入れるしかなかったのだ。その方向性が前向きか後ろ向き化の違いなだけで。こういうところが商人らしいところだな。

 なお似たように利を追求する商人達は魔族とて客なら商売するという者が多数出現し、幾多の財閥が台頭していった。逆に『魔族と取引などけしからん』と取引をしなかった商会をどんどん追い抜いて攻め立てていく。母数が違うんだからそうなるわな。


 次いでひどいのがエルフ達。なんせ彼らは記憶力がいい。開戦時青年だったものが長老格となり、当時の記憶も新たな彼らは基本的に反魔族主義だ。実際に立ち上がった人たちがリーダーになってるのだから頷くこともない。こっちにキリストはおらんから、右の頬を殴られたら全力でぶっ殺すぞテメェなのだ。当たり前だよね、にんげんだもの。


 ドワーフも似たようなものだが、本質は鉱山を失った(禁忌術の爆撃範囲に鉱山あったんだよね)事による八つ当たりだ。彼らは鋼が打ちたいのに打てないからキレたのである。うんうんわかるよその気持ち。材料無いって辛いよね。


 こんな感じで人族サイドは民衆が反魔族として調教されているから基本的にどうしようもない。だから『エイリーズ』の決定を人族中枢たる王国が認めなかったのも当然だ。そういう意味ではゴディバさんは特例中の特例と言えるのだろうね。なんせ和平を飲んじゃったのだから。戦争の当事者として相当うんざりしてたんだろうなーというのが察せられる。っていうか愚痴で聞いた。バーママな『わたくし』は結構な頻度で登場するからね。アレ、災厄級のスライムをして疲労感を味あわせるあたり実はすごいことやってるよなぁ。今度なんか差し入れしてやろうっと。


 ちなみに彼の愚痴を分析するに、ゴディバさんは商人気質の貴族と言えた。冷たいビジネス関係を重視しつつも、人の心を確り理解して民を導いている。彼が赴任してからの戦争史をみても、睨み合いを続けるばかりで打って出ることはほぼ無い。歴史を読み解けば戦いそのものは無駄と割り切っているような印象すらあるね。魔族との戦争は消耗するだけで利益がまったくないんだから仕方ない。溜飲を下げるぐらいじゃおまんま食えないのだ。この判断に踏み切ったあたり、実際すごいエルフなのだよ。弱点は娘だけど。


 で、『エイリーズ』の方針を中枢は認めなかったが実は『表向き』という修飾子がつく。なんせエイリーズに詰めている主力部隊の騎士や兵士たちの頭頂部は、いまや育毛剤『フッサ・フッサール』でフサフサだ。夢のような育毛剤の登場に、裏ではクソみたいな笑顔振りまいて尻尾振ってるんだね。詐欺じゃない現実の育毛剤はおっさんたちをメロメロにしたのである。媚薬かよってくらい効果あるんだよねこれ。誰得だよマジで。

 ちなみに騎士はその宿命と書いて『さだめ』故にイケメンでも若くして剥げるし、オッサンたちも皆ハゲる。そしてつるっぱげに収束していく。みんなハゲを気にしてフサフサを諦めていたのだけど、これからはそうではない。


 人はもう明日を、失われた希望に手が届く所に居るのだ。


 でも人の欲というやつは留まるところを知らない。育毛剤もすごいが、それ以外にも高品質の薬や魔道具まで産出するダンジョンがあると言うではないか。つまり私ン家である。これは『エイリーズ』ズルいと妬んでも仕方ない。

 ダンマスは私だからダンジョンの王は当然私だが、ダンジョンの管理所有権は人族としてちゃんと定義されている。ダンジョンは無限の富さえ生み出す資産なんだよね。『始まりの洞窟』は勿論『エイリーズ』が所有するもので、それが変異した『エテ・セテラ』も当然『エイリーズ』に帰属する。同じダンジョンなんだから当たり前だ。だが爆発的に価値があがった『エテ・セテラ』を、中央のお偉方は抱き込もうと動いてしまったんだなー。つまり私という”魔族”の捕獲を目論んで、出すもん出せやオラァと詰め寄ってきたわけだ。奴らには私が歩く黄金にしか見えていなかったろうさ。馬鹿だねぇマジで。


 王国はまず『エイリーズ』に対して裏切り者、離反だのと騒ぎ立てて軍を興した。たしかー第二百三十三回遠征軍とか言ってたかな。こんなバカバカしい戦いのカウントにまた新たな一ページを刻むわけだ。

 最早当初の思想――念押しするが魔族(実は魔物)憎しで襲いかかったやつ――はどうでもよいことが伺える。ああ、ちなみに戦争で特需を得ていた貴族はこぞって参加していたようだよ。終わらない戦争が生み出した利益を享受し、それに依存してしまった連中だ。戦争がなくなったらもうあとには何も残らない。『エイリーズ』が戦争しないと言ったら、もう立ち行かないとか領地経営下手すぎだよね。アホだよね。


 そんな連中を揃いも揃えたり十万の兵。よく集まったな。


 これは『人魔大戦』初戦かと思うほどの挙兵となる。マジどっから出てきた状態だ。これに真っ先に反応したのはハウランドとゴディバさんと私の三名。何せ軍を起こすのは予測できていたから、特に食材の価格変動を注意深く統計取ってたんだよ。取ってたにもかかわらず『ぽんっ』と出てきやがった。


 やっこさんがた、兵站って言葉を知らんのですか。


 もちろん輜重はアイテムポーチで圧縮できるが、モノそのものの流れはどうしようもない。だから事前に察知できるはずだったんだが、そんな予想とは裏腹にいきなり打って出てきやがった。少なくともまともな兵糧は持っていまい。こいつぁ略奪必須の連中だとすぐにわかったよ。素人の私でさえ気付いたんだ、ハウランドは下策と怒り、ゴディバさんは馬鹿すぎてガチギレしていた。


 よく考えてほしい。彼は前線の街を切り盛りした男……つまりハウランドと渡り合える戦術家なのだ。しかも領地経営も確りやってたので、もう胃がキリキリしていたらしい。だというのに後詰は馬鹿しか居なかった。奴等ゴディバさんの精神に直接攻撃を仕掛けるとは中々にやる。これにはハウランドも悲しげな目で優しく肩を叩いていた。娘大好き友達だからね、しかたないね。


「ミーディアム殿、これは如何とする? ゴディバは完全に背後を取られておるが」

「う、む。正直農村部は捨て置くしかあるまいが……ああ、麦が燃えるなぁ。おのれ王国! 民の畑を荒らすなど許してはおかぬ!」

『しかし……どうしましょうねぇ』


 せっかくおずおずとではあるが交流会が開かれ、私謹製の美容品や携帯食料が出回り始めたというのに。ちなみに早くも魔族と人族のカップルが誕生している。気が早いなおい、だが私は応援しているぞ! しかしこのままでは全ておじゃんになってしまう。それは私も望むべくもない。ぶっちゃけ両者の溝は混ざっちゃえばなぁなぁになると思うのだ。正直差別するやつは死ぬまで差別し続けるし、それもまた人間性と言えるだろう。


『ふむー、私から提案できるプランは三つありますわ』

「三つもですかな? 教えてくだされ」

『一つ。皆殺しにする。私これでも魔物ですからね、殺すだけなら容易いことですわ』

「五個師団はあるのだぞ?!」

『あら、全部宜しいじゃありませんの。私ならできましてよ』

「「あっ、貴女/貴様スライムだったね」」

『仲がよろしいようで』


 そう、私スライムなんだよね。それも『底なしの胃袋』という二つ名を持つほどに強大な災厄級魔物。スライムの基本にして最大の攻撃は侵食攻撃だ。生きながら溶かされるのは中々キツいものがあるだろうけど安心してくれ。私なら一瞬で栄養分に消化可能だよ。ボール状に成って転がっていけばだいたい一時間で全部食べ尽くせると思うね。災厄が意思を持った結果、効率の良い消化システムが完成したのだ。でらやべぇ。


 もちろん食べなくてもブレス系、熱線系、天雷放出、次元断裂などなど、両の手で数えらきれぬほどに殺しの手段は持っている。まぁ災厄級ですからこれくらいは持っとかないとねねー。


『ですがここで部隊が絶滅しては後に禍根を残しましょう。もちろん却下ですわ』

「で、あるな。ゴディバ殿の領内でも影響が出よう」

「なら二つ目とは」

『偽計による降伏ですわね。街を開放し、空城の計にて敵を討滅します』

「なりませんぞ?! それは街を焼くということではありませんか!」

『そうなりますわねぇ……ですがこの場合、敵の半数は叩けますわ』

「効果はあろうが、我も認められぬな。街は人々の生活そのものである。それを早々に捨てよなど言えたものではない。少なくともゴディバ殿は吊し上げにあうであろう」

『しかも物理的に、ですわね。わかっていましてよ』


 実際過激派たちが手ぐすね引いて進撃してきている。しかも略奪前提となれば空城の計も愚策と言えよう。まんまと餌を与えてしまうものだし、そもそも余裕が無いと出来ない作戦だしね。

 また街を手放して魔族領へ逃げ出したとしても根本的な解決に至らない。全ては勘違いが原因で起きた無駄な戦争だ。それを解消し、細くとも結んだ交友関係は黄金より価値がある。流通する人族の文化と魔族の商品で、街の態度は共に軟化している。特に目ざとい商人たちはこれを商機として活発にやり取りを行っているのは事実だ。遺恨はあれど商売は等しく平等、この芽を潰すのはなるべくなら避けたい。

 やはり『エイリーズ』は死守する必要があるだろう。


『で、最も効果的なのが三つ目ですわ。BiologicalChemical兵器で先制し撃退します』

「「びいしい兵器??」」

『簡単に言うと、あの軍団を全員水虫に処し撤退させます。餓死者はでるかもしれませんが、それは無能な上官が悪いのですわ』

「えっみずむしって、あの水虫? 左様なことが出来るというのか?」

『勿論出来ますわよ? 水虫の方数名に虫の種の提供の御協力を頂きますけれど。作戦が叶った暁には新兵老兵士官元帥別け隔てなく、全身かゆみの地獄に陥りましてよ。お風呂に入らず不潔な状態を維持したなら全身に広がるでしょう。ましてやそれが股間まで到達し掻きむしったのなら……最悪かもしれませんわねぇ? ふふっ♪』

「「ひぃ」」


 ゴディバさんとハウランドは股を抑えて冷や汗を垂らした。うんうんわかるよ。人だろうが魔族だろうがもげたら怖いもんね。というわけでこの恐ろしい作戦にゴーサインが出た。こちらに一切被害が出ず、相手も最低限の死者を除いて撤退に追い込めるのだから優しい作戦だ。新手の呪いということで一つというわけだな。


 翌日ゴディバさんのところから数名の悩める騎士が連れてこられ、水虫菌をサンプリングした。誰しもひどい水虫で、ブーツはやはり通気性が悪くて辛いんだなぁとホロリ涙を流す次第。まぁ私に涙腺なんて無いからフリだったけどね。


 だがあまりに可愛そうだから、殺菌消毒・治癒効果のある軟膏を調合して処方しておいた。手製オ■ナイン、名付けて万能軟膏『オーナイン』だ。だいたい万能薬すぎるよな、あの軟膏。実質エリクサーといって良いんじゃないか? 事実水虫が治った騎士たちが嬉しそうに菓子折りを持ってきたので良かったよかった。ついでに騎士仲間も苦しんでるから助けてやってくれとフッサァとなった頭を下げられては、軟膏の供給も吝かではない。というか提供させろ。[田中与四郎]だった私はそこらへん分かりみが深いからね……安価で提供してやるとも。


 話は戻って水虫菌……つまり白癬はくせんだ。このままでは発症しないので幾つか改良を加える必要がある。基本私の体内で培養することになるのだが培養ウッカリすると食べてしまう。なので意識して培養ブースを作りつつ、スライムの身体で菌をパッケージした特殊弾頭を開発した。かーさんがーよなべーをして作った白濁ネバネバの水虫菌ボール数えること数百個。どうにか相手方の布陣には間に合った。

 弾頭を抱えた私はずずいとダンジョンから這い出て砲撃形態をとり、陣地全体にまんべんなく打ち出してやる。するとどうなると思う? 中空で弾けるボールはベシャベシャと周囲にばらまかれて、兵士は勿論後衛の食品やら馬やら思いつく限り全てにひっついた。

 白濁まみれとはまたエロいが、モノはエグいので全く興奮しない。というかスライムは単為生殖というか無性生殖だからそもそも性欲なんて無いんだけどね。打ち終えた私はいい汗かいたとばかりに作戦終了を告げた。

 これで明日には、いや今日の夕方にはバイオテロの本領が発揮されるであろう。だがそれより早く効果がでているようで、隊列はどうにも浮足立っているらしい。なんだろうと望遠鏡で敵地観察していたハウランドは戦場を見て一言、


「うわあ」


 と震える声でつぶやいた。『緋色の悪魔』が聞いて呆れるような怯えだったよ。彼の勇猛さを痛感しているゴディバさんはゴクリと生唾を飲み込み、望遠鏡を借りて戦場を見やり、


「うわあ」


 と声を上げた。心なし内股になってもぞもぞとしているようだがどうしたのか。事ここに至って私はわかりきった惨状をちゃんと視ることにした。いやだって分かりきってるじゃん、白濁液まみれって。だから嫌々ながら視覚を鋭敏にしたら、


『うわあ』


 と私もつぶやいてしまった。だって男どもが白濁液まみれに成ってぐっちゃんぐっちゃんなんだもの。何が起きたんやと注視すれば、特殊弾頭のぬめりで皆前進してはすべり倒れ、馬もビタンビタンと倒れてうめいている。唇を読むに『うわあきたねえ』『苦い、くちゃい』『どけ、ぬのをもってこい』かな。


 うんこれローション芸人だわ。


 そりゃ引くわ、どこの薄い本だよ。いや薄い本でもこんな事しねぇよ。地獄絵図だわマジで。性欲以前の問題だったわ。こうなっては勿論進軍どころではないだろう。そんなわけで軍は緊急停止せざるを得なくなり、この日は何事もなく平和に終わった……とおもうのだが、ゴディバさんが青い顔をして私をプルプル叩いてきた。


「み、ミーディアム殿。あれは、その、土地に影響は出ないのですよね?!」

『えっ? あ、うーん。でないーんじゃあーないかしらー。ねぇ? たぶん』

「たぶん?! 困りますぞ! 困りますぞ!! 呪われた地などと言われては誰も立ち聞きませぬぞ!!」

『わ、分かりましたわよ! あとで消毒しておきますわ!!』


 そして明くる日、効果は確実に猛威をふるい始めていた。兵の誰しもが体のあちこちをかいているのだ。一部血が出ているものも居る。フハハ、自分で作っておいてなんだが怖い。ゾンビゲーかな? かゆい、うま。


「始まったようだな……」

『ええ、全てはこれからですわ』


 ハウランドにやんわり笑顔を向ければ、引き付く笑顔で返された。なんや、平和的なBC兵器やろがい。世の中もっと非道なものもあるし、作れんこともないんやぞ。そんな様子も時系列と共に悪化していく。特に騎士達が酷い。かゆみは丁度鎧の下にあって脱ぐことも出来ず、ガチャガチャと煩く不快な音をたてる。それに指揮官も苛立ち、首元をかきむしって紅いミミズ腫れを作っていた。それよくないやつだぞーと言いたいが、まぁ知ったことではない。思う存分かきむしり給え。


 もちろんそんな状態では軍がまとまるはずもなく、『ナニカサレタヨウダ』という事実だけが知れ渡ることとなる。一体何をされたんだ、新手の呪いかなにかか。だとしたらとんでもない呪術者だ……等と言われていたらしいがすまんな、それは水虫なんだ。


 結局発砲から一日で撤退していった。ちなみに此軍にも水虫を発症してしまった者が居たけれど、私が『オーナイン軟膏』を大量支給したからパンデミックになる前に収まったよ。BC兵器はワクチンを作ってから使用しようね。よいこのおともだちはちゃんとやくそくをまもろう。ミーディアムちゃんとのおやくそくだよっ!


 ちなみにこの軟膏、実は後日談が在る。王国側に繋がりのある行商人が全財産を賭して買いあさり、向こうでえっらい高値で売りさばいたらしい。銀貨1枚が金貨5枚に化けたとかなんとか。なんともアコギな商売だなぁ……私が言うのも何だが、頑張って売り抜け給え。なお販売していた行商人達から聞いた情報によると、王国軍はほとんどが機能せず、治安は非常に悪くなっているという。また超高額の軟膏を貴族が買い占めてしまったため、貴族に反感を持つ人がとても増えているとか。これでしばらくは身動きがとれないはずだ。


 ちなみに大魔王からは『ウチにはお願いだからそういうの撃たないでください』とガチのお願いメールが届いた。すまんなおじいちゃん、そのつもりは毛頭ないけど懲りなきゃまたやる予定だよ……。そんなわけで危機回避した領民と魔王軍なのだけど、これを機に防衛を強化することになった。でも未だてんやわんやの中で軍を立てるっていうのも難しい話だ。はてさてどうしたものか。そこで私はぽつりとつぶやいてしまった。


『なら国作ればよいのではなくて? 人と魔、双方が混じり合わないなら、混じり合う国を作ってしまえばよろしい』

「「それだ」」

『えっ』


 頭空っぽにしてつぶやいた所、何それ名案と採用されてしまった。まじかよ私責任持たねぇぞ……絶対持たないからな! そう口酸っぱく宣言したのに出来上がったのは『エイリーズ』と『ハウランド魔王領』を束ねる合議制国家、『神魔王領及び東部イルシエリアイ地方連合王国』略して連合国である。ここでは人族も魔族も等しく国民として平等であり、差別することは赦されない。人族世界と魔族世界の緩衝材として機能するように再構築したわけだ。


 そして私は永世名誉議員として登録されてしまった。だから政治は分かりませんって何度も言ってるでしょ! でも登録されちゃったんだから仕方ない……基本口出ししませんと公言して私はダンジョンに閉じこもることにした。


 私は研究やら創作で忙しいんだ!


 実際私が居なくても議員数は多いんだから構わんだろう。最初期こそ魔王領とゴディバ領の2つだけの参画だったのだが、街の発展や文化の急速成長をみた他の領主や魔王達が迎合を決めていったのだ。なんだかんだ戦争は出費が激しいし、新しい技術に乗れば儲かるってわかってるからね。長年の戦争から苦しい思いをしていたのはどこも一緒だというわけだ。

 ここらで一発美味しい思いをしておきたい、乗らなきゃこのビックウェーブに。そんな形で連合国はぽんぽんぽーんと大きくなっていく。でも魔王を直接接収しちゃった形だけど大丈夫かな? 侵略行為になってないかな? 不安げに大魔王にメルメルしたところ、『いいよ、オッケー。むしろ経営がキツイ魔王たちを助けてくれてありがとちゃん』と帰ってきた。ノリが軽いぜ大魔王、そういうとこ好きやで!


 また矢面に立っていた辺境公達が一斉に王国から離反することで、王国の力はさらに低下。また内地だった領地はそのまま前線になるので、可及的速やかに防衛設備を整えねばならない。王国の内部はガタガタなのに国力は減る一方である。まぁ国家予算を確り割いているあたり、ちゃんと考えられるやつが居たということだろうか。


 だが考えが甘い、余りに甘すぎる。此方も事情は同じだが魔族のバックアップが、何より私という存在が居る。王国が手をこまねいている間に、難攻不落の大要塞『ザ・バスティーユ』をあっという間に作っちゃったんだな~ハハッ! こうなると逆に焦るのは向こう側だ。こちらは何時でも侵攻可能で後詰もしっかりな状況なのに、未だ足元すら固まってない。そりゃ焦らないほうがおかしい。


 勿論連合国は王国を攻めるつもりは毛頭ないが、そうできる状態にあるというだけでプレッシャーを掛けることができる。実際に今の所戦争になる気配はない。腹の減った兵を食わすことも出来ず出兵は不可能だ。現在麦も刈り入れ直前だし、王都側も領地が一気に減ったことで税収が激減した影響がでている。つまり軍を起こすには飯も銭も足りないというわけだね。グズグズだなぁ王国……でも突如十万の兵を持ってきたという実績があるから油断ならないけどね。


 まぁ外の事情はそんな感じで、私は私でやるべきことをしていた。そう、ダンジョン改築だ。詳細は以前書いたけど、このタイミングでホムセンダンジョン『エテ・セテラ』は完成したわけだ。ハッピーオープンカムヒア~開店セール大実施である。


 なお構築にあたって作った道路は連合国に整備製造方法を提供したので、内地についてはこの舗装道路が造られていくことになるだろう。十年単位の公共事業の発生で、連合国内は非常に景気が良い状態が続いている。うんうん、国造りはこうでなくっちゃね。


 とまぁこんなところで今日はおしまい。また明日。


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