005:人類と魔物と戦争と
今日は魔物について書こうか。
ひいては今世界で起こっている『人魔大戦』についても言及したいところ。
この世界の人類は大まかに『人族』と呼ばれる種族と、『魔族』と呼ばれる種族が存在しているのは昨日書いたな。じゃあ私こと災厄級スライムは何かって言うと『魔物』なんだよ。つまり人類ではない。
人族と魔族は見た目こそ大きな差異があるけれど、交配可能なんだ。つまり子供ができる。姿形骨格も違ったりするのに不思議だよねー。
でも魔物と人類が番っても正しい意味で子供はできない。出来たとしても生まれてくるのは同種の魔物だからね。ゴブリンなんかは良い例だ。あれらは人の女の腹を苗床に、自分たちを複製するんだよ。なお個体差については、母体と周囲の環境により変動する。子種はほんとうに種であり、肚は畑という意味合いしかない。マジ下衆だがそういう生態なんだから仕方ない。女性は女というだけでホント生きづらい。
ちなみに私は女型端末だけどゴブリンに襲われても孕んだりはしな……うん? 体内を子宮内環境に最適化すればワンチャンあるのか? あーでも進んでやりたくはないなぁ。文字通りバケモン生まれそうだし。
それで魔物っていうのは人類と何が違うかって言うと、単純に魔石を宿しているかどうかなんだよね。魔物には魔石が中心にある。人類にはそれがない。ここが大きな違いになる。
けどややこしい事に、魔族は魔石に似た器官を持ってたりするんだよねぇ。ディアブロなら角、ビーストなら牙、エレメントなら額の石といった具合に。これらは魔石と完全に別物なんだけど、似た特性は持つから勘違いされやすい。
当然この事実を明確に知っているのは私だけ。つまり科学的アプローチから此等が別物という証明をして、分類した最初の学者だったりする。これが何を意味しているかというと、人族から見て魔族と魔物は区別ついてないってことなんだな。なお魔族が人族と魔物の区別がついてないってことはない。
この結果が何を産んでいるかというと、人族が『魔物の被害』を『魔族の侵略』と勘違いしたって事なのだよ。こいつが今日、今まさに続いている『人魔大戦』の軸となる誤解だ。
とくにゴブリンやオークによる襲撃は日常茶飯事、被害を被った人族の恨み辛みは魔物と同じく魔族へも向いたんだね。結果人族は結託して魔族に宣戦布告したんだ。魔族としては何もしていないのに突然蛮族が襲いかかってきたんだから大慌てだったらしい。
ここまでならまだ取り返しが付いたのだが、歴史は非情にもとある事件をひきおこした。人族の急速侵攻に慌てた魔族は、起死回生の一打として大規模破壊魔法(当然禁術)の使用を決定したんだ。私も使えるが使用は絶対しないと誓えるシロモノでね、地形が歪む以上に空間が歪むんだよ。この魔法でこの世の空白と化した大地が人族と魔族を切り裂いた。もはや戦線は意味を失い、人族には万を超える死者が出てしまった。これを機に人族と魔族の溝は決定的なものとなる。
そう、『人魔大戦』の始まりだ。
唯一禁術を逃れた大地、後に『大回廊』と呼ばれる地で両者はにらみ合いを続けている。人理の英雄が魔族を切り、深魔の英傑が人族を屠る。攻防は一進一退、少なくとも五百年は続けているのだからもう手に負えない。お互い人類で感情も似たものだ、長い年月は相応に悪感情を募らせていく。このまま行けばいずれどちらかが決定的な何か――例えば核弾頭のような――を持ち出してしまうだろう。事実魔族は禁術を使って、星の表皮は削られてしまったわけだし。
そんな緊迫感溢れる会場にノホホンとやって来たのがご存知! 私こと超時空災厄スライム、ミーディアムちゃんであるッッッ!!!
……うわ自分で書いててキツっとかおもってない。思ってないもん。
さもあれキーパーソンは私だ。人類に等しく中立で、明確な敵であり、しかして友好的な、互いの利益になるオーバーテクノロジーを保有する超越存在。そんな私が間を取り持つことで『人魔大戦』は一つの契機を迎えることとなる。
まず人族については、『エイリーズ』領主ゴディバさんとの伝手がある。特に娘であるアイリスちゃんと仲が良いし、彼の薄い頭皮は私が育てた実績がある(ドヤ)。今や社交界でゴディバさんの頭頂大草原が話題にならぬ日はない。ちなみに育毛剤の引き合いは騎士に多くある。兜がどうにも頭皮を削りゆくそうな。忠誠は髪の薄さと共に在れり、悲しいなぁ。
ちなみに仲良くなってから教えてくれたのだが、当初は魔族の浸透作戦だと疑っていたらしい。なにせ当時の人族はダンマスも魔族だと思っていたからね。なお魔物以外にダンマスになることはあり得ない。ダンジョンは魔物にのみ従う魔物であり、どうしても魔石が必要になるからね。
そんな危険地帯に娘が通わせるなど、当時としては頭の痛い問題であったろう。それでも行かせたのは、私の戦力が『エイリーズ』を破壊せしめるに足ると判断されたが故だ。
つまりアイリスちゃんを泣く泣く生贄に捧げる心持ちだったのだろうね。生贄になった娘さんは今、好き勝手ドレスデザインをしまくって気勢を上げていますよ。アイリスちゃんの行き遅れに気を揉む私とゴディバさんである。
問題は魔族だ。彼らとの接触はそりゃもう刺激的だったさ。戦い的意味でね。いやー、ファーストインプレッションは緊張したよ? なにせダンジョンも全然整って無くて、初っ端から『テメェ絶対ぶっ殺すモード』でやって来たからね。第一声からして、
「貴様が話をする魔物とやらか」
と赤き大戦斧『ブラッド・エイリーク』を構えて、殺気ビンビンに飛ばしてくるから迫力がヤバい。完全に戦場に来た時の『まともな方の』ハウランドだね。私は思った。
(うわなんだこのサイコパス)
だって斧からは拭いきれない怨念めいた死臭がするし、彼の目は血走ってなんか赤いオーラを湧き立たせていたんだから。いやこんときゃ相当荒んでたからしかたないんだけど、そりゃびっくりもするだろう。十倍界■拳かよ。私はほへーと思いつつ、折角同胞が来たんだから会話を試みようと思ったわけだ。この時まで私は魔族の一種だと思っていたから、はじめての同胞の登場に慎重になってたのさ。まー、万が一殺し合いになったとしても勝つ自信があったからね。災厄級のレッテルは伊達ではないのだよ。
『私になにか御用かしら』
「ほぅ……本当に喋るとは珍しい魔物だな。大魔王様に献上すれば些かお慰みになるやもしれぬ」
『大魔王? あら陳腐な設定ですこと。攻防一体の構えでもされるのかしら。あるいは炎の魔法で最大呪文と勘違いされたり……いや逆に興味深いですわね!』
「魔物の分際で大魔王様を愚弄するか!」
『もう貴方様! 先程から私を魔物魔物と失礼ではなくて?! 私も魔族、同胞でありましょう!』
「下らぬことを申せ、貴様は魔物であろうが!」
『ふむう?』
何か食い違いを感じた私はその直感を信じることにした。なにか重大な真実に触れているような……奇妙な感覚に陥ったのだ。正に『その時不思議な事が起こった』のだね。
『お待ちくださいまし。私……というかスライムは分類的に魔物なのですか?』
「そうだと言っている!」
『先日人族の方は私を"魔族"と称しました。これは間違いなのですね』
「は……なんだと? 貴様が魔族であるはずがない! 貴様は魔物であろうが!!」
『つまり、人族にとって私は"魔族"。魔族にとって私は"魔物"となる、そうなりますわね?』
「は? あー、そうなる……な?」
ここにきて戦意より困惑の色が目立ち始めたハウランドは、漸く私の言葉に耳を貸す気になったのか大戦斧を下ろしてくれた。そもそも私が殺気の欠片も飛ばしていないのだから、油断せずとも何かおかしいとは気付いてくれたのだろう。
『私、人族と魔族は争っていると聞きました。これに間違いございませんか?』
「左様。何をトチ狂ったか畑を荒らされただ、攻めただとか、人攫いだのと不愉快な事を抜かしおるのだ」
『うーん……どうしましょうか』
「なにかあるのか?」
『よし、言ってしまいましょう。これは私の予想なのですが……人族の方々は魔物と魔族の区別がついていないのではなくて? スライムの私を魔族としておりますし、他の魔物も魔族として見ているのではないかと』
「は……は?」
キョトンと目を丸くしたハウランドは数度瞬きすると、「失礼する!」と叫んで場を後にした。もう一度姿を表したのは翌朝早朝。今度は大戦斧を収め、申し訳無さそうに眉尻を下げていた。
「捕虜に問い詰めた所、そなたの言う通りであった。あれらは魔族と魔物の区別がまるでついておらん……どうりでわけの分からぬことを囃し立てておる筈よ」
『えー、つまり人族は魔物の襲撃を魔族の襲撃と勘違いし、押取り刀で対応した魔族との不毛な戦いが今日まで続いている。そういう理解で間違いございませんか?』
「あー、それは。うーむ、ぬぬぬ……」
偉丈夫のハウランドは頭を抱え『人魔大戦』の本質を理解したが、それでもすぐに認めるわけにはいかない。なにせ五百年続く戦争だからね。元の契機がどうあれ、報復に報復を重ねて最早取り返しがつかない状態になっている。今更ハウランドが「戦争やめよう」と言い出したところで誰も止まらないのだ。如何に無意味を説いたとて、破滅の時計は止められない。ただ絶滅に向かってカチコチと時を刻み続けるのみ。
私からすれば愚かしくておおあくびが出る戦争だったね。災厄時代にその歪んだ空間痛感したけどまぁひどいことひどいこと。あんなもん見せられたらこれ以上戦ってもまるで意味がないし、本当に不毛なのだとわかろうものなのに。
『阿呆の勘違いで泥沼の戦争とかバカバカしくなくって?』
「そうは言うが、もはや引き返せぬ所に来ておる。今更やめるなど不可能であろう」
『……ふむう?』
ここで私はティンと来た。もはや天啓と言っても過言ではない1つのアイデアが思い浮かんだのだ。
『ハウランド様、1つ質問がございます』
「申してみよ」
『もし私が和平に踏み切るに足る何かを提示できれば、双方鉾を収めることは出来るでしょうか』
「何かとな? 申してみよ」
『例えば魔族に対してなら……"赤子の生存率を格段に引き上げる"とか、"出生率を上げる"、"流行り病の特効薬を作る"などですわね』
「ッ!! 出来るのか?!」
『ええまあ。だいたい原因はわかりますし、流行病も私が解析可能ですわ』
目を見開いたハウランドは信じられぬとばかりに私に詰め寄ってきた。私はアイリスちゃんが持ってきてくれる文献から、この世界の文明レベルを理解していた。特に回復魔法という存在故に発達していない医療技術、それらのレベルを引き上げるならあるいはと思ったのだ。
ここで自我を得るまでの経験が役に立ったんだ。実は魔物以外にも様々な人類を捕食してたりするんだな。まぁそこは魔物なので一応ね。そこから得られた遺伝情報から、問題の解析ができると踏んだわけだよ。例えば種族に最適化された排卵誘発剤の開発とか、その後受精しやすい魔道具開発とかね。お産の補助具や薬品なんかも作れそうだ。
病原菌については最早リアルタイムで捕食してるからさもありなん。インフルエンザ的なのから麻疹、エイズなんかも治療可能だったりする。生体構造の解析などお手の物。わおさすが災厄、やることが桁違いとか褒めてくれていいんだよ? だよ? ここさいきん『まぁミーディアムさんだしな』でぞんざいな扱いだから愚痴っているわけでは決して無い。
「出来るというのか……?」
『ケース・バイ・ケースですわ。私、これでも凄いスライムですの。出来ないことはあんまりなくってよ。もちろん死者蘇生は不可能。アンデッドなら行けますけれど、それはお望みではないのでしょう?』
「……なら、ならば。貴様には出来るというのか。我が子を、我が子らを救うことが出来ると。そう申すのか」
深刻な顔で告げるハウランドには絶望に希望の花が咲いていた。そりゃそうだ、魔族というかディアブロはそもそも子供が生まれにくく、また新生児の死亡率はやたらめったらに高い。この時のハウランドにも生まれたばかりの長男ルドルフ君がいたんだが、彼は未成熟児で常に危篤状態という有様だったんだね。日々小さくなってゆく命の灯。手を尽くしてもなおどうしようもない現状に、彼は深い悲しみで心を痛めていた。だがそれ以上にお妃様の悲しみたるや想像を絶するだろう。ようやく生まれた小さな命が、今正に消えようとしているのだから。
この世界に菌やウィルスという概念はまだ無いから、ただ存在するだけで驚異にさらされているとは分からなかったのだろうね。まあ育成環境によるものもあると思うけど。私はすぐにダンジョン運営に必要な一コア分体を残して分裂し、こう言ってやった。
『なら私をつれていきなさい。すぐに診ますわ、出来うる限りの事をします。この世全ての子に罪は無く、あらゆる物より尊い宝ですからね。勿論貴方が私を信用するならば、の話ですけれど』
「……ぬぅ!」
『魔族の方、貴方が一瞬迷うたび子供の命は危険に晒されていましてよ! それでよろしいのですか!! 今この時がまさに分水嶺と知りなさい!』
「…………わかっ、た」
最終的にはハウランドは折れて、私をひっつかんで魔王城に飛んだ。掴みやすいように球体になったのだが、そのとき「うわ重い」とか言ったのはルドルフくんに免じて許してやる。実際重いしな。それに今心配なのはルドルフくんの事だ。今正に衰弱しているとなれば緊急事態中の緊急事態。この世に生を受けたなら、生きて生きて生き抜く権利がある。そして人はそのために子を慈しみ、育て、旅立ちを応援するのだ。巡る命の循環、それなくして命の価値などあるというのか。まぁ私は不老不死なんですけどね。
それでも元人間だったものとして、赤ちゃんが容易く死ぬ現状が我慢できなかったんだ。なんたって私は災厄級のスライムだからね。好きなように生き、好きなように死ねないのだ。なら長い生の一端として人類に関わるのはマストと言えるだろう。そのためにもこのスライムの体を使い倒す所存だ。
到着した私を見た奥さん以下部下の人たちはひどく驚いて警戒していたが、ハウランドが片手で制したため事なきを得た。ちなみにここらへんで『えっこのヒゲのおじさん偉い人なんや? 将軍?』とかなってたっけ。私がえらく急かすもんだから、自己紹介もなおざりだったし。
で、げんなりする奥さんを押しのけて私はすぐに診察を開始した。ルドルフくんをどぷんと飲み込んで無菌室状態にして触診開始だ。奥さんが驚いて狂乱し、『息子を返して!』と殴りかかってきたのは仕方ないかな。見てくれがなんかこう、マッドサイエンティストのシリンダーの中身状態だったし……でもやっぱお母さんってのは強いね。ハウランドでさえ『只ならぬ』と警戒していたのに、彼女はなりふり構わず殴りかかってきたから。
ルドルフくんが大人になったら教えてやろっと。君が如何に愛されていたか、どれだけ皆の愛を注がれて育ったのか。グレたらデコピンしてやるから覚悟しろ。なお鉄の壁に穴が開く威力なのはご愛嬌だ。
で、問題のルドルフくん。やはり感染症……というか風邪にかかっておりひどい熱を出していた。あと二~三日も放置していたら死んでいただろうね。赤ちゃんの風邪は致命傷に等しいのは知っての通り。私はすぐ赤ちゃんが耐えうる程度に体を冷やし、また口や鼻に触手を伸ばして免疫活動を補佐すると同時に気道を確保した。また尻穴から腸内へ侵入し、荒れた環境を把握して綺麗にしていく。
これですぐさま死ぬことはないが、弱っていることには変わりない。直接体内に浸透して細菌やウィルスを駆逐するのは可能だが、関係のないものも殺してしまったり最悪拒絶反応がおきてアナフィラキシーショックを起こす危険があった。なのでそれは最後の手段だ。うおォン、私は最強の好中球さんだ!
なので基本的にはルドルフくんの免疫能力を最大限活かす方向で進める必要がある。つまり食って寝る事が肝要。そして赤ちゃんの生きる意志が強ければ生き残れるだろう。それには奥さんの力が不可欠だ。
『お母様、二つ協力してくださいまし。まずお乳を出すことはできますね?』
「え、ええ……あの、どうすれば」
『ちょっと吸わせて頂きます。その上で消化しやすい形で投与いたします……ほら! 野郎どもはさっさと出ていきなさいまし! 不潔ですわ!!』
私の号令で警戒していた近衛達も戸惑うが、ハウランドが「下がれ」と勅命を下し渋々引き下がった。だが下がるのはお前もだよ?! 触手で押し出された彼は「何故だ?!」と叫んでいたが知るもんかい。これでここには奥さんとメイドさんたちだけが取り残される。
ここで奥さんと乳母さんにお願いしてお乳を取らせてもらう。ちなみに二人共すごいミルクタンクだったのでモリモリ搾り取れた。絵面は触手陵辱モノだったけど、今思えばそれでもおっぱい差し出したってすごいよね……よく信用してくれたよほんと。だがそれで十分量のお乳を入手することが出来た。私は貯めたミルクを分析し、調整するのだがどうも栄養価に偏りがあると気がついた。
『奥様、乳母様。確かに良いものを食べておられるようですが、野菜などはバランスよく食べていらっしゃいますか? 栄養価に少々偏りが見られます。肉、野菜、パン。バランスよく食べるのが赤ちゃんのためになりましてよ』
この言葉に感銘を受けたのか、この日を境に肉肉肉だった魔王城の食事に必ずサラダが付くようになった。勿論生は危ないからゆで野菜ね。ルドルフくんのお母さんは野菜嫌いだったけど、子供のためとしっかり食べるようになったよ。やっぱり子供のために立つお母さんは私もよりずっと、ずーーっと強いんだ。お乳をもらった私は、もう一つの頼み事をする。
『それと、赤ちゃんのてを握ってあげてくださいまし。本当は抱きしめたほうがよろしいのですが、それだけでも効果が在るはずですもの』
これについては二つ返事で頷いた……というより、心配で心配でならなかったのだろうね。目の下に隈ができてたし、密やかに回復魔法をかけていたのはここだけの秘密だ。なお疲労にたいする回復魔法はちょっとコツが居るので、普通に回復魔法をかけても疲れは取れないので注意が必要だ。そんなわけで無菌室(スライム)で赤ちゃんの面倒を見つつ、奥さんたちの食生活や生活態度の改善を行い、オロオロするハウランドに邪魔だ出てけと言い放ち、ルドルフ君は徐々に体調を取り戻していった。
だいたい一ヶ月くらいたったころ、ルドルフくんはすっかり回復して離乳食をモッシャア食い漁る元気っ子になっていたのだ。
『もう大丈夫そうですわね……あとはちゃんと食べて、寝て、沢山動けば問題なくってよ』
その言葉に泣き崩れたのはルドルフくんの奥さんを筆頭に、二人の奥さんも一緒になってわんわん泣いていた。本当にディアブロにとって子供は金貨以上の宝物なのだ。ちなみに2人の奥さん達も私の妊娠促進魔道具『ぜったい当たる君』及び排卵誘発剤『お前がママになるんだよ』で妊娠したのでハウランドもにっこり笑顔だ。
勿論この技術は国民に広く開示され、ハウランドの領地では手続きを踏めば誰でも受けられるよう法的措置が取られた。この情報は電撃的に魔族領を駆け巡り、いまやハウランドのバルバトス領に多くのディアブロたちが押し寄せることとなった。愛し合っているのに子供が出来ないってつらいもんね。
とかく元気になったルドルフくんをよしよしと抱っこする魔王ハウランドは、いつかの凶暴な顔ではなく一人の父親として元気になった息子に髭を引っ張られていた。それを奥さんたちが微笑ましく見守りつつ、私は粘体らしくネトネトしていた。
「ああ……予は、どう感謝を示したらよいか分からぬ」
『でしたら下らない戦いに終止符をうちなさいな。間は私が取り持ちます。ハウランド、貴方の子達に平和な世界を見せてあげます。そう誓えるなら、私はもっともっと沢山の命を助けるとここに宣言しましょう』
彼の返事は……言うまでもないよね。なおこの時の出来事をきっかけとして私は奥さんたちと仲良く文通するようになった。ハウランドの愚痴という名の惚気もよく書かれていて、たまにお茶会しましょう等と誘われるくらいだ。でも私はわたしで忙しいので、アイリスちゃんと赴いた『わたくし』で我慢してほしい。
その後『エテ・セテラ』を会場に、まず『エイリーズ』としてゴディバさんと魔王ハウランドが密やかに結託。停戦を誓い、以後戦闘は一度も発生していない。今では前線勤務はおたがい閑職扱いだ。もちろんこの停戦は公布されたのだが……本来ならバッシングが起ころう所であるが、そこは私が大々的に大暴れしてやった。
そう大規模ホムセンダンジョン『エテ・セテラ』の開店記念セールである。
いやぁ、準備はとても大変でしたよ。エリクサー級の薬品からちょっとした胃薬まで山のように用意して、魔道具もアイテムポーチをお安い値段でピックアップ。あかぎれ対策のあったか腕輪や、飲水の浄化ポットなんてのも沢山用意した。さらに珍しい砂糖菓子なんかも用意してあげたりな。これらがお値段据え置き魔力払でご提供となれば噂は一日で街を席巻し、来場者は指数関数的に増えていき今日という日につながっている。
取り敢えず人族はこれで黙った。停戦どころじゃねぇ、俺は買い物に忙しいンだ! 人間そんなもんである。
また魔族側も子作り魔道具を定期的に供給しているので、魔都は人でごった返している。これに伴い資金活性化が早まり、空前の好景気が発生しているとのこと。卸をしている商人曰く『ウハウハ』だそうな。まぁそりゃそうだわな、高すぎる需要があるなか、遂に供給が発生したんだから。私は『あまりやり過ぎるなよ、喰うぞ』と脅しておいたので、彼は程々に稼ぐだろう。
そんなわけでルドルフ君を助けたことをきっかけに、戦争は一旦の終結を見た。だがこの公布をよく思わない連中(魔族排斥系の過激派や、戦争でうまい汁をすすっていた奴等だ)の働きかけでゴディバさんは人族――王国側から『裏切り者』のレッテルを張られることとなるのだが……そんな事関係ないぜとばかりに商活動は超活発である。なにせ『裏切り者』と叫ぶ連中こそ、私が作るものを欲しているのだからね。具体的には育毛剤とか、エリクサーとかな。
とまぁこんなところで今日はおしまい。また明日。
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