003:私とダンジョン

 今日はダンジョン『エテ・セテラ』について書こう。つまり私ン家だね。


 このダンジョンはもともと小規模の地下三階建てEランクダンジョンで、『始まりの洞窟』なんて呼ばれていた。出てくる魔物もスライム以外にはゴブリンがちらほら。ボスもホブゴブリン一体にゴブリン三体という残念仕様。当然オタカラも解体ナイフなんて実用品しか用意してない。ほんと初心者向けの零細ダンジョンだったんだよね。


 ダンマスはもともと狡賢いハイゴブリンで、レベルをあえて低くすることで定期的に初心者冒険者を釣っていたみたい。人の出入りだけでも多少なり魔力は補填できるからそれ狙いってことね。少ないリソースでも需要があり、数が多ければ収支はトントンになる。そんなところに活路を見出したってわけ。


 死にはしないが発展もしない。まさに停滞するダンジョンだった訳だ。


 生存戦略としては間違っちゃいなかったけど、彼にとって災難だったのは私が来ちゃったことだろう。ほんとゴメンと言うしか無い。なんせ災厄級スライムだからね。ぼんやり覚えている限り、彼の断末魔は『ギャウ?!』であった。いきなり勝てない存在が隠密して現れたんだからそりゃ驚くわ。驚いた上でそのまま死んでいただいた。硫酸もびっくりの超酸性毒を吹きかければ一瞬で溶け燃える。骨すら残らぬとは我ながらエグい殺し方だな。


 その後ひっそり輝いていたダンジョンコアを私の管轄下に置いて、祝主替えと相成った。おお[南無阿弥陀仏]。故国の聖句でまた違う生を生きるがいい。


 で、主替えが起きたダンジョンではアイリスちゃんとの邂逅まで何のアクションもなく何時も通りの日々を送っていた。ターニングポイントを経て自我を得た後はそりゃもう好き勝手やってやった。


 まず魔力リソースを得るため、私からダンジョンに魔力を供給。これでも災厄級だから大陸を軽く更地にぐらいの魔力は持ってるんでね。零細ダンジョンがお腹いっぱいになるぐらいはチョロいのだよ。


 それからダンジョンというものの本質を理解した私は、ダンジョンを運営するのではなく『経営』することに決定した。時代のシンギュラリティが正にこの瞬間から始まったと言えるね。


 まず前提としてここはダンジョンだ。そしてダンジョンコアを奪われればダンジョンは崩壊する。なのでダンジョンコアの守りは万全としなければならない。この点については世界中に数多あるダンマス達と意見を共にするものだろう。でも私はさらにその先を行った。


『そうだ、田舎のホームセンター作ろう』


 つまりアミューズメントパークである。例えばそう、ダ■エーであり、イ■ンであり……あれなんで欠いた文字が潰れるんだこれ? え? 検閲? 検閲なんで?! ちょっとまて。スク■■エニ■■ス、ロ■ソン、伊藤■商事 うっわ 怖っ! この世界怖っ!! 神の実在を意外な形で知ることに成ってしまった恐ろしい……。っていうかここって前世とつながり在るのかな。うーむ興味深い、これは研究テーマに挙げなくてはならないね。


 えー、異常事態が発生したが話を戻そう。


 このダンジョンを冒険者だけではなく、商人やアイリスちゃん達地元の人達も遊びに来れるテーマパークを作ろうと考えたんだ。そのためのリソースは既に用意されている。なら後はやるだけだ。


 まずダンジョン入り口を増設した。入り口というか、一階って言ったほうが良いのかな。大きな建屋を用意したんだ。土魔法だから最初は土色だったけど、白砂を見つけたのでそいつで覆ってあげた。うむ、やはり建物は白いほうが映えるよね。


 でもって建屋上部にはデカデカと『エテ・セテラ』のロゴを飾らせてもらった。我ながら良いデザインだと思ったのだが、後にアイリスちゃんに『不格好だからデザインしてあげますわ』と言われて儚く散っている。そう、私の数少ない以下略。


 テナントはまた後日として、入り口周辺は森林を大伐採(というか溶かした)して駐車場を用意した。いやー、このときほどスライムであることを感謝した時はなかったね。なんせ液状の性質も在るから水平を取るのが面白いほど楽なんだよ。結果まっ平らな地面がさくっと出来てしまった。これにダンジョンマジックで生成したアスファルトで舗装して、広大な広場が出来上がったわけだ。我ながらいい仕事をした。汗は出ないが額を拭うのはなんとなくの癖だ。


 ちなみにこの時の経験を元に、『エイリーズ』の街まで路を引いていたりする。4車線で高速道と低速道の2路線だ。ちなみにこの道を見るとだいたいの領主貴族は青ざめたりする。そりゃそうだ。無料とは言わずとも路の整備費用が格段に安く済むし、そもそも輸送速度が段違いだからね。さらにサスペンション付きの馬車の登場もあって非常に快適なのだから文明格差に打ちのめされもしよう。


 フフフ、我々は良い文明なのだよ。


 とはいえこの広大な駐車場、想定した用途には使われていなかったりする。まぁ前提イメージが自動車なのだからそのまま使われるわけがないし、広大な敷地を馬車止めだけに使うわけもない。


 最終的にちょっとした市場に成ってしまった。商人たちがお互いの馬車を寄せ合い、品物をやり取りする大広場だ。ここはダンジョンなので関税もかからない、また領主もそのことを認めている(というか私がゴディバさんとそういう取り決めをした)ので楽に商売ができる。しかも治安という意味でもここは世界でも稀に見る安全さを誇っている。


 常時スケルトンナイトの警備員が見回りをしているし、周辺の野生魔物は討伐隊がしこたま駆除し尽くし、野盗山賊のタグ位は囲んで棒で殴っている。ゴースト系が発生してもスケルトンならワンパンだ。ちなみに何故物理物体である骨が霊体を殴れるのか、その理由はわからない。多分ホラー属性が噛み合った結果だろうと。お友達じゃんね。


 そんな事になってしまったから、後々大きめの厩を建てたらこれも喜ばれた。馬の休憩所のつもりだったのがセリ場に発展してしまったのだ。今では『名馬を見るならエテ・セテラ』とまで言われている。誇らしいけどお金は『エイリーズ』にも落としていってね。


 広場ができたら次は内装だ。建屋は3つの区分を用意している。


 1つはダンジョン区。主に私達が運用する直轄エリア。つまり直営のご当地ショップみたいなもんだ。なお簡易宿泊所もここにあったりする。理由はビジネス区がいつも五月蝿いから。

 1つはギルド区。ダンジョン入り口と各種ギルドが入ってもらうためのエリア。少なくとも冒険者の存在は知ってたから、そのギルド用のハコは用意しておきたかった。実際有効活用されてるので作ってよかったよね。

 1つはビジネス区。つまり商人さん達用のテナントだ。冒険者が来るからにはいろいろと入り用だからね。酒場や食堂なんかがひしめいている。


 ではダンジョン区から説明していこう。


 この区画では私の趣味の成果が展示されていたり、あるいは販売されている区画となる。たとえば高純度の回復薬とか、死後5分以内であれば蘇生するポーションであるとか。またナノ単位で歪みが補正された錬金用フラスコなんかも扱いが在る。どれも特級品で一流と呼ばれる人たちにとっては垂涎の品ばかりだ。つまるところ、一握りの物好きな人類に対するデモンストレーションみたいなものだ。


 逆に劣化させた品々も扱っていたりする。いわゆる初心者向けの品々だ。これらは領主のゴディバさんや冒険者ギルドと共同で開発した数打ち品で、非常に安価に揃えられる初心者シリーズと成っている。

 すべて使い勝手は悪くないのだが、使い続けるにはイマイチというバランスに仕上げている。


 あとはこのダンジョンで用意した自販機の通貨として使う、専用魔力ケージ『ソウルジェム』も販売している。人類は誰でも少なからず魔力を持っているから、これに『うーん』と力を込めると魔力がたまるというわけだ。

 ちなみに金貨でやり取りするより若干割安に感じるような価格設定になっている。新人君たちはお金がないから、日々の食い扶持をこれで賄っていたりする。ただし軍用レーションなので旨くはない。


 そんな事をしているせいか、チャージ済みのソウルジェムそのものの取引もされるようになっていた。『エイリーズ』周辺限定だが、所謂為替だね。人間って何でも商売にするから見ていて面白い。


 ちなみに魔力をストックできるという有用性から、分解して怪我したバカが後をたたない。またこれを利用した魔道具開発とかな。主に軍の連中だよ畜生め。

 ただ気持ちは分からんでもない。この世界、魔石以外だと魔力のストック方法が存在しないのだよ。そこに現れた、再利用可能な魔力資源が登場したらそら殺到するわ。完全にオーバーテクノロジーの産物なのだ。


 でもなー、これは私というちょ~凄いスライムさんだからできた事だからね。魔力を一処に安定させるのが難しいんだこれが。なのでソウルジェムを軍事利用可能なほど生産する予定は全く無い。要求されたらにっこり笑顔でお帰りいただく所存である。あくまで私のダンジョンに必要だから作ったものだからね。


 それ以外だと氷販売をする場外販売所や、サキュバスのキュエさんが店主の宿泊所が経営されているかな。ちなみにキュエさんをはじめとするサキュバス達へのおさわりは同意の上なら良しとしている。

 でも一番人気のキュエさんは身持ち硬いっていうか、かなり夢見がちで重い女の子だからなぁ。ダンジョンモンスター故に『エテ・セテラ』からは出られないけれど、いい人が見つかると良いなと思う。本人は黙っているけれど、彼女の夢は『おひめさま』だってダンマスはお見通しですからね!


 ちなみに希少素材のやり取りはやっていない。やろうと思えばドラゴンでもギガントでも出せるっちゃー出せる。でもそれは流石にやりすぎだ。人ってやつはどうしても怠惰に傾きやすい。容易に手に入るとなれば、皆仕事することも辞めて生きる屍になるだろう。

 などと書いてみたがぶっちゃけ割に合わないのと、私の趣味時間が削られるのを嫌ったが故だ。趣味イズマイライフ。研究なき生に意味はあるのかい?



 ギルド区はそのまま、基本的に冒険者ギルドが詰めている。他には商人ギルドや錬金術ギルドの派出所があるね。『エテ・セテラ』産の魔石や素材を直接捌く窓口になっている。本来なら街に有るべきギルドなんだけど、ほら、ウチは福利厚生が充実してるし私が管理してるからスタンピードの心配もない。極めて治安もよく安全なので、ここにおいたほうが色々楽なのよ。

 職員用の寮も用意してあげたしね。なお管理人としてホムンクルスのメビウスⅢ型メイド仕様、通称めぅさんたちにやってもらっている。その完璧な仕事ぶりに職員たちの日常生活は完全完璧、ズボラな女子にも優しいのだがその所為で苦情が絶えない。受付のお姉さん曰く『女子力がどっかいった』とかなんとか。それはわかるが頑張って彼氏にご飯作ってあげてくれ。


 

 ビジネス区はまぁ冒険者向けのショップが主だね。鍛冶屋や道具屋、魔法屋、錬金道具屋と工房類が軒を連ねている。此方は完全に専門店って感じだね。一応売上は上納するようにしているけど、ダンジョンだしここらへんはまとめてある。



 此処まで聞くと『ふーんダンジョン街の設備がダンジョン前に有るだけじゃん』ってなるじゃんじゃん。勿論一般向けの施設も用意していますとも。田舎のホムセンは伊達じゃないんだ。実は『エテ・セテラ』の地下一階はダンジョンの入場口兼、地元住民に優しいアミューズメントパークにしている。


 まず目玉はフードコートだ。私が研究開発した料理の数々を味わうことの出来る、ちょっと高めな飯屋である。店主のオークこと奥村さんの超絶テクで生み出されたカツ丼に、ふわふわ白パンのたまごサンド、激辛麻婆豆腐がウリだ。和洋折衷なんでもありだよヒャッハー! でも一番人気はやっぱ白パンのサンドイッチやハンバーガー系列だね。冒険者にも気軽に食べられると高評価を頂いている。だと言うのに米系はどうもコアな人しか頼まない。おいコメ食わねぇか。


 次にアトラクション。こちらは完全に遊ぶための施設で、所謂遊園地のアトラクションはだいたい網羅していたりする。コーヒーカップにメリーゴーランド、ちっこい観覧車にミニジェットコースター等など勢揃いである。この世で初となる遊ぶためだけの設備に皆ウッハウハだ。

 でも一番人気はやっぱり冒険者体験コーナーなんだよねぇ。木剣と盾を貸し出して、ウチで作り出したモンスターと戦うのである。おもに英雄に憧れるお子さんたちに大人気。勿論切った張ったじゃなくお遊びなので、訓練みたいなものだ。相手になるのはレジェンダリーゴブリンのゴブ爺さん旗下のハイゴブリン達。見た目ではゴブリンと見分けがつかないから、弱っちいと侮る子供の多いこと多いこと。それをぎりぎり勝てそう、という難易度に調整して打ち合うのだから本当に出来たゴブリンだ。今度ナスのぬか漬けを差し入れしてやろう。奴ら、実は漬物で[日本酒]もといコメ酒で一杯という渋い一面を持っている。いぶし銀かよ。


 最後はやはり物販コーナーだろう。とはいえダンジョン由来の魔物肉で作ったベーコンとかチーズ、ソーセージなんかの保存食なんだけど、年中値段が変わらず供給しているので売れ行きは好調。とはいえお肉屋さんを圧迫するわけには行かないので、そんなに量は用意していないけれどね。ああ、勿論各種薬品も取り扱っている。いまや『エイリーズ』では一家に一本回復ポーションが備えられているのだ。薬師の人はちょっと泣きが入っているけれど、私提案の『救急箱』のおかげで食いっぱぐれることがなくなっている。あれだ、使った分だけ補充しますシステム。医師や薬師の人たちも顧客と顔見知りになって交友関係が広がり、病気を未然に防げたりと『エイリーズ』という街としては良いことづくめだろうね。


 ちなみにこれらの支払いは全てソウルジェムで済ますことが出来る。ぶっちゃけ此処が人気の秘訣何じゃないだろうか。初期投資でスマイリースマイリーアンドスマイリーなひとときを過ごせるのだから『エイリーズ』のご家庭には必ず1つは常備している。そして月に一度、貯めた魔力を捧げて遊びに来るというわけだ。


 ぶっちゃけ魔力リソースの取得という点ではこれが一番効果あったりする。やっぱ個体能力の高い冒険者がダンジョンに潜っても、得られるものは一握なわけよ。でもその対象を一般市民にも広げたらどうなるか塵も積もれば天元突破。もうウッハウハだよ、札束プールで美女を両手に笑ってやるわ。駄目だ今の私は美少女だから意味ねぇわつらい。


 そんな量販店の様相をしている地下一階最後の設備が『ダンジョンゲート』だ。冒険者はいわば顧客であるからして、容易に死なれるとコッチが損するんだからここはすごく気を使った。つまり冒険者のスキルレベルごとに難易度調整した五つのルートを用意したわけです。なお3つは冒険者ギルドも監修してもらっているので完璧オブ完璧なダンジョンと言っていいだろう。


 八角形の部屋は入り口を含めて六つの門がそびえている。


 まずは素人向けの講習ダンジョン『ワカバ』。

 初心者向け低難度ダンジョン『アオバ』。

 中級者向け本格ダンジョン『クレハ』。

 ベテラン向け高難易度ダンジョン『カレハ』。

 死を恐れない大馬鹿野郎向け超高難易度ダンジョン『イチイ』。

 最後は最下層ラストフロア直通の転移門『ミーディアム』だ。



 『ワカバ』では本当の本当に駆け出し向けの冒険者に向けて、生き残るための講習会を開いている。教官はレジェンダリーオーガのアカオニ麾下オニーズだ。ちなみに泣いてはいないし、心根は優しいけどヤンキーである。イカすサングラスが似合うヤングな鬼なのだ。彼が■ートマン軍曹よろしく厳しく教育してくれるというわけ。

 例えば命を奪う訓練、武器の扱い方、野営の仕方等などサバイバルのハウトゥを手取り足取り教えてくれる。特に解体や討伐部位の採取の教導、魔石の上手な採取方法などは普通教えてくれないので非常に人気が高い。

 こうした技能って、本来ならベテランパーティーに教えを請うことで引き継がれていくものだったりする。それを定期講習化することで『エイリーズ』の冒険者の質は相対的に向上している。基本的に冒険者ギルドはこの講習を受けきった者でなければダンジョン入場を認めていないし、ダンマスたる私も許可していない。侵入者は即バレするので恐ろしいお説教をされることになる。

 なんでこんなことをするかといえば、単純に顧客の質を上げるためだ。ダンジョンは魔力持ちの母数があればあるほど潤う仕組みなので、こうした講習会で冒険者……正しくは魔力を高めた人材の拡充はマストなんだね。



 『アオバ』は教習を終えた冒険者たちが挑戦するダンジョンだ。死亡リスクは限りなく低いが、ちゃんとボスも設定されたダンジョンとなっている。街の冒険者ギルドと共同で作り上げたこのダンジョンを乗り越えて、初めて一端の冒険者を名乗れるというわけ。

 ちなみに戦利品はギルドが支給するものと、当たりに私が作り出した失敗作が宝として出現するようになっている。ベテランにはちょっと物足りないが、初心者には嬉しいセット装備ばかりだ。頑丈なロープや解体ナイフなんかは買うと高く付くしね。

 ここらへんは鍛冶屋ギルドや錬金術ギルドと共同で配給している。良いものは一度使えば粗悪品を使うリスクを考えてしまうから、結果的にちゃんとした道具を扱う店が潤うという訳だな。

 ちなみにケチなベテランは未だに利用していたりするな。買ったほうが結果的に安いと思うんだけどねぇ。っていうかお前らはさっさと先に進みなさい。お母さんはみてるんですよ!



 そして『クレハ』からが所謂ダンジョンらしいダンジョンとなってくる。今まであった甘さを控えめに、ミスすれば死ぬような作りになっている。とはいえ余り人死にがでると私もダンジョンも困るので、死亡判定を食らったものは強制的に入り口に転移するように術式を組んでいたり。だもんで『エイリーズ』は他の冒険者から『あまちゃん』と呼ばれる事があるとかないとか。死んだらそれまでなのに何を言ってんだって話である。

 まぁ死ななきゃ覚えないことも有るし、リスクがゼロになるわけじゃない。あくまで保険ってだけの話だし、ここでの死亡情報はきっちり冒険者ギルドが管理している。つまり『エイリーズ』のダンジョンで死にまくるヤツは容赦なく降格だ。危ないんだから仕方ない。

 あ、ここだけの話だけど、冒険者ギルドは各冒険者およびパーティーの傾向や個性なんかを私からリークした情報で把握していたりする。同業者を襲うようなヤツは一発でアウトだ。

 なので『エイリーズ』冒険者ギルドの所属員は、ほぼ世界一と言っていいほど質の良い。拠点を移す際もウチの経験者というだけでギルドからこっそり優遇されていたりする。例えば割の良い依頼を優先して回したり、困っている依頼を回したりね。皆素行が良いから気前よく受けてくれるのだ。これも教育の賜物だね。ハッハッハ。



 そして自信をつけた人たちが向かうのが『カレハ』。ここからは本当に殺しに来るので踏破者は格段に減る。だが、ちゃんと対策を練って挑めば必ずクリアできるように設定しているのが特徴。つまり何の知識もなく挑んだら、必ずしっぺ返しを食らうのがこのダンジョンだ。所謂駆け出して安定した頃にある『ミス』を積ませるためのダンジョンと言える。もしクリアできたなら、どこに出しても恥ずかしくない冒険者が出来上がるんだな。

 もちろんお宝も私が作り出した二級品が出土するため、『エイリーズ』の冒険者の最終目標は『カレハ』となる。このレベル帯になると他のギルドで言う『二つ名付きのエース級』なので挑む人自体は結構多い。ただ稼ぎは出来るけどやはり技術習得の面が大きいので、此処のクリアを最後に他の街に移っていく人も結構いる。

 それ自体は残念だけど……全体の意識向上や『エイリーズで学んだものは優遇される』というブランドが人を呼び込むので問題ない。去る人は私達『エテ・セテラ』及び『エイリーズ』の生きる宣伝塔なのだ。



 最後はダンジョンそのものを防衛するための施設である『イチイ』。これは完全に侵入者を殺すために百階層ある施設で、かつラスボスは私なので挑むことを推奨していない。まぁダンジョンだから最深部ラストフロアへのルートは必ず用意しなきゃいけないんだよ。こればっかりはルールだから仕方ない。なので理不尽に理不尽を重ねたような究極の極殺空間が君を待っている状態なのだけど……なーんでか挑むやつが後を絶たない。

 非常に過酷な環境で、補給も困難なのにダンジョン好きすぎて潜っていくマニアたち垂涎のフロアらしい。私は分かりたくないサイコパス共の巣窟だ。正直クリアできる難易度にしてないのに、ひとつ、またひとつと踏破していくさまは恐怖を感じざるを得ない。人間って凄いっていうか、お前ら短い命をどうしてそう燃やすんや。もうちょっと生きやすいやり方あるやんな……。

 そう思うのだが狂ったように攻略へと命を燃やす彼らを止めるすべは無い。なんたって顔が生き生きしてるからね。もうほっとくしかない。もし百層踏破してきたらしっかり相手してやんよ。



 そして『イチイ』を突破するか、転移門『ムツカ』を超えた先に、最下層『シャングリ・ラ』がある。つまり私のおうち兼工房だ。ちなみに『ムツカ』のセキュリティは世界随一と誇っている。私が発行した認証パスと、それに対応するユーザーがセットじゃないと通過できないのだ。勿論共入りも不可。

 フロアは戦闘用兼実証試験用エリアとか、畜産農耕エリア、研究エリア、休憩エリア、居住エリアとかまぁ思いつく限り作っている。『ムツカ』で来ることが出来るのはこのうち休憩エリアのリビングだ。ほかは人類にはちょーっとばかし危ないからね。


 リビングには人をダメにするソファをはじめ、ふかふかカーペットに各種飲み物サーバーや広々としたダイニングキッチンとか冷蔵庫が置いてある。アイリスちゃんが大好きなレモンスカッシュ他、私が再現・開発に成功した飲み物や食べ物、また魔道具はだいたいここで試すことが出来る。勿論お酒も有るよぉ~コメ酒飲めよコメ酒ゥ。私は酔えないんだけどね。

 ちなみにここのキッチンで思いつくまま作ったものが、地下一階のフードコートの商品に反映されたりする。ある意味ダンジョンにとっては最も重要な施設とも言えるね。今日はドラゴン生ハムの原木が並んでいる。あれは絶品と評判であるよ。普段遊びに来る皆はここで飲み食いし、私とおしゃべりしては帰っていく。ゆるゆるスローライフサイコーじゃない?



 ちなみにそれ以外のときは研究エリアで作業に没頭している。ここは事実として世界の最先端を行くオーバーテクノロジーの塊だ。担当する分野は魔法、錬金、科学、製薬、文学、美術、他さまざま。私が興味を持ったものに対し、マルチコアを生かして様々な製品や技術体系を纏めて最終的には本にしている。


 最近のベストセラー本だと『ミーティの簡単クッキング』あたりかな。『ご家庭で簡単にプロの味』を詠う本で、多少高くともこの本を買っていく人が多い。何せレシピなんてものは親に教わる以外に基本的に無いわけで、こうしたレシピ本は画期的だったわけだ。だもんだから、『エイリーズ』の食のレベルは他に比べて圧倒的に高い。これを目当てに永住する人も出てくるほどだ。


 たぶん聖典書に次いで頒布されている書物になるのではないだろうか。聞くに海の向こうにも渡ったらしいし。すごいよね、私のダンジョンが世界規模で有名になっていくよ!



 そんなわけで我がダンジョン『エテ・セテラ』は通常のダンジョンとは違う、ホムセンダンジョンとして街に貢献しつつ日々を謳歌しているわけだ。いやー、毎日が大変でとっても楽しいですね。



 とまぁこんなところで今日はおしまい。また明日。

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