■解決編4


○スターメゾン中目黒1階/5階 見取図

【https://ioriinorikawa.web.fc2.com/map_1F_5F.html】

○スターメゾン中目黒503号室 見取図

【https://ioriinorikawa.web.fc2.com/map_503.html】



「そうですか、興味深いですね。続けて下さい」

 辰見の態度が変わった。推理ショーを楽しむ客のようだ。

「ベランダ側の掃き出し窓は、施錠設備がクレセント錠になっていました。このタイプのものは、テグスを使えば窓の外から鍵を掛けることが可能です」

「どうするんかいの?」

 塩崎は興味津々といった様子だ。

 琴子は、管理室の腰高窓を指さした。

「事前に準備しておきました。実際にやってみましょう」

 一同を腰高窓の前に集める。窓には既に準備が施されていた。

 テグスの一方の端が輪っかになっており、その部分が、半月型の金具の(通常の場合は、この部分を手の指で挟み、半月型の金具全体を下から上方向に半回転させて鍵を掛ける)に引っ掻けてある。半月形の金具は半ばほど回転させられた状態で、あと少しだけ回せば施錠されるようになっている。テグスのもう一方の端は、窓の上辺に伸びており、窓と、サッシのレールの間を通って建物の外に出ていた。

 琴子は一旦、窓を開けると、外に声を掛けた。

「お願いします」

 彼女が窓を閉めると、間もなく、たるんでいたテグスがピンと張った。外から捜査員が引っ張っているのだ。

 そのままテグスが引っ張られていき、それにつられて半月型の金具が、ゆっくりと回転する。

 ――そして。

「ほぉ!?」

 塩崎が驚嘆の声を上げる間に、窓が施錠されたのだった。

「このようなやり方で、犯人が外から窓を施錠したと考えられます」

 琴子が一同に向き直ると、祥子が感心したように言った。

「へぇ、こんなやり方が……」

 すると彼女は、何かに気付いたようだった。

「でもさ、ベランダに出た後はどうやってマンションの外に逃げるわけ?」

 祥子の疑問はもっともだ。今の実演では、外から施錠する方法を実証しただけであって、ベランダから脱出した方法まで証明したことにはならない。

「映像に映っていないわけですから、防犯カメラが設置されていないベランダ側から、建物を降りて行ったと考えるべきでしょうね」

「ラペリング、ですかね?」

 八代はロープを使って降りる方法を考えたようだ。

「その場合は、あらかじめロープを持って登らなければなりませんし、降りた後にロープを回収するのも困難です。手間を考えたら可能性は低いでしょうね」

 琴子は遠回しに否定する。

「ん? いま『登る』と言いましたね。犯人は、ベランダ側からマンションをよじ登って侵入したということですか?」

 辰見が気付いたようだ。

「そうです。防犯カメラの映像に映っていないなら、建物から出る時と同様に、カメラのないところから侵入したと考えた方が自然です」

 防犯カメラの映像に映っていないから誰も出入りしていないのではなく、映らないように出入りしたという単純な話だ。

「ベランダから部屋の中に入る方法は? たまたま、窓に鍵がかかってなかったとか?」

 祥子が聞いた。

「志穂さんに招き入れられたと考えたらどうでしょうか。犯人と彼女は親しい仲で、犯人は少し変わった方法で部屋に入れるところを見せてあげると提案した。事前に連絡を取り、志穂さんにベランダ側の掃き出し窓の鍵を開けておいて貰えば可能です」

「そう考えた根拠は?」

「キャリアメールです」

 辰見の指摘に、琴子は即答する。

「携帯電話から送信されたキャリアメールは、一定期間、その内容が携帯電話会社のサーバーに保存されます。それを確認したところ、犯人から被害者に、窓を開けておいて欲しいという内容のメールが送られていることが分かりました」

「犯人は、彼女の連絡先を知っていたという事ですか!」

 八代が声を上げた。

「そういう事になります」

 琴子が肯定した。

「それなら、犯人は彼女と親しく、しかも五階のベランダまで登れる『蜘蛛くも人間』ということになりますね。そんな人、存在するんですか?」

 辰見の顔には嫌らしい笑みが貼り付いている。彼は琴子の揚げ足取りに執心しゅうしんしているようだ。

「はい、存在します」

 コツコツと琴子のパンプスが鳴る。

 彼女は一人の前で立ち止まり、こう告げた。

「あなたですね」

「えっ……!?」

 蒼白になった顔が、琴子を見上げていた。

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