■解決編2

 彼女の説明は次の段階へ進む。

「犯人は志穂さんを殺害した後、自殺に見せかける為、現場を密室にしました」

 密室を構成する理由の一つ、〈事件性の否定〉である。

「ですが、本件が他殺と断定されたことで、逆に疑わしい人物を絞り込むことができました」

 つまり、犯人はのだ。

「外部犯ってやつは?」

「考えられません」

 祥子の問いを、琴子は即座に否定した。

「現場を密室にできるのは、このマンションの構造を知っている人物に限られます。少なくとも一回は中に入ったことがないと、防犯カメラの設置箇所や窓の位置、鍵の種類などが分かりませんからね」

「ここ、オートロックですけど、住人が出てくるタイミングに合わせれば、誰でも中に入れるんじゃないですか?」

 八代が指摘する。

 これに反応したのは辰見だ。

「あなた、実際にやったことがあるんじゃないでしょうね」

 疑いの目で見られて、八代は青ざめた。

「違います! ここには彼女を送ってきたことがあって。彼女を送り届けた後にエントランスから出ようとしたら、ちょうど住人が帰ってきたところだったので、僕が出るタイミングで中に入ってもらったんです。そのほうが鍵を出す手間が省けると思って……」

 彼にしてみれば親切心からしたことなのだろう。

「彼女を送ってきた、だって? 何のつもりで」

 辰見の追及は止まらない。

「やましいことなんて何もないですよ! 新人の歓迎会があって、彼女が飲み過ぎたから送ってきただけです」

 八代もムキになって言い返した。

「……ふん、どうだか」

 辰見は納得していないようだ。場の雰囲気が険悪になりつつある。

「まあまあ、落ち着きなされ。茶ぁ淹れますよってに」

 塩崎は席を立とうとするが、捜査員の一人から注意を受け、元通り着席する。

「で、こちらの『紳士』を信じるなら、彼もこのマンションに入ったことがあるんでしょうね。それから、おそらく、そこの……ええと」

「……船木です」

 辰見の視線を感じたらしく、彼は自分の名前を口にした。

「船木さんもこのマンションに来たことがあるんでしょう。だったら我々がここに集められた理由は明らかだ。お嬢さん、そろそろはっきり言ったらどうです?」

 辰見が挑むような目をする。やはり頭の回転が早い。琴子の言わんとすることを理解したようだ。

「わかりました。では申し上げますが、私は、だと考えています。それに該当するのが、今日お集まり頂いた皆さんなのです」

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