■情報の整理と推理6


○スターメゾン中目黒1階/5階 見取図

【https://ioriinorikawa.web.fc2.com/map_1F_5F.html】



「他の映像も観てみませんか」

 これといった確証は無く、視点を変えてみてはどうかという程度の考えから、薄井はそう提案した。

「そうですね。じゃあ、被害者が帰宅したところから順に観ていきましょう」

 シークバーを動かし、被害者がマンションに帰ってきた時間帯まで戻す。カメラを切り替えて、エントランスを撮影した映像を表示させた。

 映像が再生される。間もなく、白いジャケットを着た被害者が一人で中に入ってきた。続いて映像をエレベーター内のものに切り替える。エレベーターには、被害者が一人で乗っていた。

 服装などを似せた『替え玉トリック』かもしれないと考えたが、横顔や斜め上から見た顔は被害者本人にしか見えない。まさか双子を使っての替え玉じゃないだろうな、などと極めて稀な場合を想像したりもした。しかし、被害者の両親からは、娘が双子だという話は出ていない。

「……あ、プリン」

 何の前触れもなく、琴子が呟いた。夜食に甘いものでも欲しくなったのだろうか?

「プリンですね、買ってきます」

 薄井が席を立ち、最寄りのコンビニエンスストアを思い浮かべたところで、いきなり琴子に腕を掴まれた。

「違います。これ、見てください」

 琴子は映像を止めて、被害者の後ろ姿を指さした。これがプリンと何の関係があるのだろうか。

「頭がプリンみたいになってません?」

 ますます意味が解らない。薄井が首を傾げていると、更に彼女が聞いてきた。

「薄井さん、被害者の勤務先へ行ったんですよね? 彼女のシフトで、土日が休みになってる日はいつでしたか?」

 それは、事件が発生する前で、という前提での質問だろう。薄井は手持ちの手帳で確認する。店長の八代から事情を聞いた後、被害者の勤務状況もついでに調べて貰ったのだった。

「一番近くなら、十一月十八日と十九日ですね」

「その前日は、何時までの勤務になってますか?」

「ええと……十七日は午後六時までです」

「勤務管理は何でやっていましたか?」

 次々と質問が飛んでくる。琴子の頭の中で、何が起こっているのだろうか。

「タイムカードです」

「退勤時刻は?」

「午後六時十分です」

「わかりました」

 それだけ言うと、琴子は視線を落として黙り込んだ。彼女の頭が高速回転を始めたらしい。

 と、その時。

 電話が鳴った。深夜だというのに、誰が捜査本部に電話を架けてきたのだろうか。不気味に思いながらも、薄井は電話を取った。

「……はい、捜査一課の薄井です」

「ああ……おたくさん、薄井さんかいの。わしゃ塩崎です」

 塩崎といえば〈スターメゾン中目黒〉の管理人だ。彼からマンションの鍵を借りていたので、返却が必要になった時の為に連絡先を教えていたのだった。

「塩崎さんでしたか。先日はどうも」

 捜査に協力してくれたことへの礼を言うと、彼はまったく予想外のことを口走ったのだった。

「じ、実は、ゆ……幽霊が出てのぅ」

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