■情報の整理と推理4

「もう一つは……やっぱり密室のことですか?」

 薄井が聞いた。彼女にとって最大の謎は、やはりこれだろう。

「そうですね……」

 琴子が天井を仰いだ。彼女も苦戦しているらしい。

 本件の現場は、『二重密室』だと彼女は言う。第一の密室は完全に施錠された五〇三号室、第二の密室はオートロックマンション全体。五〇三号室は閉ざされた部屋なので〈狭義の密室〉、オートロックマンションは犯人が防犯カメラの映像に映っていないため〈広義の密室〉に該当するとのことだった。

「そういえば、あれ何だったんですか? 部屋の鍵の話してましたよね」

 薄井は捜査会議での出来事を思い出した。琴子は場が収まった後に、自分から上級幹部――警部以上の階級にある幹部のことだ――に対して、部屋の鍵に関する捜査の結果を尋ねていたのだ。

「ああ、あれはの為です」

 確認とは、何の確認だろうか。

「密室を作る方法として、合鍵を使うものもありますので、あの部屋の鍵は幾つ存在していて、幾つ発見されているか知りたかったんです」

「で、どうだったんです?」

「正規の鍵は全部で三本。そのうち二本は五〇三号室で発見されているそうです。一本はシューズボックスの上、もう一本は被害者のバッグから見つかっているようですね」

 最後の一本は、管理人の塩崎が緊急時用に預かっているという。

「……じゃあ、合鍵使用の線も消えましたね」

 薄井は萎む風船のように息を吐き出した。これで密室の謎を解く手がかりが一つ減ってしまった。

「そうでもないですよ」

 琴子が優しい声を出す。

「鍵は複製できるわけですから、複製された鍵を使用した可能性も考えられます。ですから鷹野さんには、鍵の複製が依頼された店舗がないか調べるよう、お願いしています」

 それを聞いて、げんなりしてしまった。

 琴子は簡単に言うが、合鍵を作れる店舗など星の数ほどあるに違いない。しらみ潰しに調べるとなると、途方もない時間がかかってしまう。

「……それ、本当にやるんですか?」

 薄井の質問に、琴子は涼しい顔で答える。

「普通のシリンダーキーなら、私もそんな無茶は言いません。五〇三号室の鍵がディンプルキーだったから、やってみる価値があると考えたわけでして」

「どういう意味ですか?」

 薄井に聞かれ、琴子はマグカップを置くと、机に置いていたスマートフォンを手に取った。

「シリンダーキーというのは、鍵穴に差し込む部分の片側、または両側がギザギザになっている鍵のことをいいます」

 と言って、彼女はウェブサイトに載っている鍵の画像を薄井に見せた。説明の通り、家用鍵の中でもポピュラーな形のものだ。

「この形の鍵ですと、あらゆる鍵の専門店で複製できますから、店舗の特定はよほどの偶然がないと無理でしょうね」

 次に琴子は、スマートフォンの画面に、別の形をした鍵の画像を表示させた。鍵穴に差し込む部分に複数の窪みがある、ディンプルキーと呼ばれるものだ。

「一方、五〇三号室の鍵は、これとよく似たものでしたね。ディンプルキーは防犯性が高い分、複製するには高度な技術が必要になります」

「そんじょそこらの店じゃ作れないってことですか?」

 彼女は頷く。

「シリンダーキーに比べて、幾らか限定されるはずです。また、鍵のメーカーによっては、指定された業者に利用者が自分で発注しなければならないところもあるようです。もし五〇三号室の鍵がこの種類のものであれば、複製を依頼した人物まで特定が可能になるかもしれませんね」

 薄井は舌を巻いた。密室の専門家ともなると、鍵に関する知識も豊富らしい。

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