■情報の整理と推理3
SNSについての疑問が一段落したので、次は薄井から問いを投げかけた。
「そちらはどうです?」
琴子は右手でピースサインを作った。
「私は二つあります。一つ目は、被害者が丸刈りにされていた理由です」
そうだった。生前は根元まで綺麗にカラーリングしてあった長髪が、無惨に根こそぎ刈られていたのだった。髪に携わる仕事をしていた被害者にとって、どれだけ屈辱的だったことか。
髪を刈られたタイミングは、薄井の考えが正しければ殺害後。犯人による偽装工作だと思われるが、その目的は未だ明らかになっていない。
しかし薄井には、一つの推測があった。
「犯人は被害者を丸刈りにすることで、被害者の謝罪の気持ちを表現させたかったんじゃないでしょうか?」
薄井がそう考えたのは、自分の経験からだった。自分に限らず、お詫びの
自分の考えを話した薄井は、琴子の表情を伺った。
「うーん、男性的発想ですね……」
彼女は浮かない顔だ。
「お詫びの為に頭を丸めるって行為、女性がやったら逆に不自然じゃありません?」
「え、でも。だいぶ前に丸刈りをしてたアイドルの子、いませんでしたっけ?」
薄井は反論する。確か、恋愛禁止というグループ特有の規則に反旗を翻した女性アイドルが、自分の髪を刈って、謝罪する動画をウェブサイトにアップロードしていた。
「ああー、いましたね。いましたけど、普通の女の子がやらないことをしたから、話題になったんじゃないでしょうか?」
「それは、そうですけど……」
声が尻すぼみになってしまう。
「犯人にしてみれば、自殺に偽装できれば良かったわけですから、第三者が不自然に思うようなことを、敢えてしなくてもいいはずです」
言われてみればそうだ。被害者の謝罪の気持ちを表現するなら、例のツイートで充分である。わざわざ手の込んだ演出をする必要はない。
「しかも、髪はかなり丁寧に刈られていましたね。あそこまでやるには、それなりに時間がかかったはずです。そんなことをしている間に誰かが訪問してきたり、隣人に気付かれたりしたらどうするんでしょう? リスクが高過ぎます」
リスクと期待される効果のバランスが取れていない。確かにその通りだ。
「……とはいえ、私もまだ理由までは分からないままなのですけれど」
琴子にも分からないことはあるらしい。彼女は肩をすくめて、コーヒーをすすった。
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