■つまずき
〈スターメゾン中目黒〉の外に出た薄井は、歩いて中目黒警察署へ向かうことにした。寒空の下を歩くことで、頭を冷やそうと考えたのである。
歩くことしばし。あと少しで署に到着しようかという頃に、突然、着信が入った。ポケットから携帯電話を取り出すと、鷹野の電話番号が表示されていた。
「はい、薄井です」
「……おい、てめぇ何やらかした」
静かだが、ドスの効いた声だ。鷹野が本気で怒っている。
「さっき苦情の電話が本部に直接かかってきたそうだ。一課の刑事が住人を恫喝してただってよ」
すぐに自分のことだと分かった。
「お前のことだ、何か許せないことでも言われたんだろ。けどな、一般市民を怒鳴り付けるってぇのはどうだ」
鷹野は薄井の心情を察してくれたらしい。だが、言動に問題があったと言っているのだ。
「はい……軽率でした。申し訳ありません」
薄井は電話越しに頭を下げた。
「あのな。警察は一人で動いてるんじゃない、チームで動いてるんだ。一人が足を引っ張れば、他の奴にも迷惑がかかる。お前、自分で体験しただろうが」
一部の不心得な警察官が問題を起こしたせいで、自分が非難の的にされた。今度は、自分の過ちが他の捜査員に悪影響を及ぼすかもしれない。
「はい……そうでした」
返す言葉もない。冷静でいられる時は理解できるが、あの時はそこまで考えが及ばなかった。
「あの……もう自分は」
捜査から外されるんですか。その可能性を考えながらも、肯定されたときのことを思うと二の句が継げない。こんな状況でさえ、まだ自分はこの事件の捜査に携わりたいと思っている。
「それは無い、安心しろ」
しかし鷹野は否定したのだった。
「ただし、今の担当からは外す。別のことをやって貰うからな。詳しくはお前の上司から聞いてくれ」
「……了解しました」
「じゃあ、今日はもう休め。あと……そうだ、薄井」
「何でしょうか?」
「彼女に感謝しろよ」
そこで通話は切れたのだった。
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