■関係者からの事情聴取5
ここまでの捜査結果を、電話で鷹野に話した。反応はいまいちだったが、取りこぼしは無いようなので、ひとまず安心だ。徳田が要所要所でフォローを入れてくれたからこの結果。大先輩がいなかったらと思うとゾッとする。
「どうした、元気ないな」
電話の向こうで鷹野が言った。薄井の声に張りがなかったらしい。
薄井は、辰見から言われたことをそのまま伝えた。それから正直な思いも。
いくら警察が頑張って数々の事件を解決しようとも、たった一つの不祥事で組織の評価はマイナスになる。それだけではなく、真面目に仕事している警察官までもが非難の対象となり、場合によっては悪意を向けられる。そうなった時、自分が何の為に仕事をしているのか分からなくなってしまう――云々。
さんざん愚痴をこぼした後で、鷹野の苦笑が聞こえた。
「まあそう言うな。俺たちは組織の評価を上げる為に働いてるんじゃないからさ」
いつか二人で酒を飲みに行った時にも聞かされた話だ。刑事は被害者の
「ま、辰見の言うことももっともだ。今回の件は、交番の警察官が一番に現場へ入ってるからな」
第一発見者が疑われるのだから、警察官といえども例外扱いはできない。最初に現場へ立ち入った人物が、最も証拠隠滅しやすいのだ。
「先着警察官からの聴取は、うちの係の者にやらせるよ。お前と徳さんは中目黒署まで来てくれ。捜査会議までに情報を整理しておけよ」
薄井は腕時計を見た。時刻は午後五時を回ろうとしている。鷹野の話では捜査会議が始まるのは午後八時からだそうなので、まだ時間には余裕がある。
「鷹野係長、お願いがあります」
「何だ?」
「先着警察官からの聴取、任せて貰えませんか」
辰見に言われたことが気になっていた。警察は身内に甘いと思われていそうな気がして悔しい。自分が言われたのだから、ここは自分でやっておきたい。身も蓋もないことを言えば、ただの意地である。
「……そうか。じゃあ、地域課長には俺から話を通しておく。身上記録も要るか?」
「お願いします」
薄井は電話越しに頭を下げた。
「了解だ。頼むぞ、薄井」
そう言って、鷹野は電話を切った。
「行きましょう」
まっすぐ前を向き、歩き出す。今はとにかく、やるしかないのだ。
ポン、と徳田が薄井の肩に手を置く。余計なことは何も言わない。その気遣いが、今はとてもありがたかった。
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