第2話 薫と初対面
今日は自宅に帰ってから食事をするというので、薫の車で大津市内から山科へ向けて走り、国道沿いのイノダコーヒーに入った。
運転中の車の中で薫は自分のことを話し始めた。
名前は牛若薫という。珍しい姓だから、好きじゃなくて旧姓の蟹江のまま仕事をしているとのこと。
病院で保健師をしているけれど、日勤のみで夜勤はしていないこと。今日は日直当番の勤務で、日頃は日祝休みなこと。自分には子どもが2人いて、再婚同士なこと。
店に着いて席に着くと、俺はコーヒーを2つ注文した。
「旦那さんは三交替って言ってたけど、消防士さん?」
「まぁ、そんなもんです。」
「へぇ、三日に1日いない日があるの?子どもはどうしてるの?」
「…懐いていなくて。連れ子同士が懐かなくて、仲が悪くて。」
「薫さんの方は男の子、あっちは女の子なんだ、マンションだと狭いからやりにくいね。」
「それもあって、娘が成人したから、別に部屋を借りてもらって、半分別居してる状態なの。」
色々と家庭が複雑なうえに不満があるようだ。
出逢い系サイトに登録している女性は、夫に不満がある。そして、自分の生活は崩さず、一時のアバンチュールを期待しているのだから、薫が特別というわけでもない。
「中3の息子がいる割には若く見えるよね。でも48歳だったかな?」
「ごめんなさい。実際は44歳なの。歳下が苦手で、少し上にしていたほうが歳上の人からメールがきやすいからそうしてる。」
「珍しいね。普通はみんな逆にサバを読んで若く書いてるよ(笑)。実は俺も実際は歳上やけん。」
「え、幾つ?」
「何歳に見える?」
「うーん、53歳くらい?」
「1960年生まれ。」
「えーっ、一回り上なんだ。でも若いよ。ダンディで素敵な男性ですもん。」
「そんなことないよ、家内からはデブ、デブって言われてるし。」
「がっちりさんで好きですよ。それでデブなら、うちの旦那さんなんてもっとメタボですよ。」
「俺も8年前にタバコをやめてから、メタボ健診で毎年呼び出されてるよ。あれって、毎回運動しろとか、痩せろとか言うけどさ、俺みたいな単身赴任者は、仕事も遅いし夕めしも遅くなるからメタボになるしかないんだよな。」
「私の患者さんも、いつもそんな言い訳してはる(笑)」薫の顔から笑みがこぼれた。
笑うと丸い頬に笑窪ができる。若い頃の妻の笑顔を思い出した。
こんな会話から、薫は病院で俺みたいなメタボ健診の患者に指導をしていると聞いた。
脱メタボを目指す俺との話題には打って付けだったわけだ。
「今日も鴨川沿いを二時間歩いてきたよ。歩くのが一番良いらしいね。」
「沢山歩いてきはりましたね。最近よく言われている、サルコペニアとかフレイルってわかりますか?」
「ごめん、判らんわ。」
「筋肉が減ったり、弱って寝たきりになるのを防ぐためにはしっかり歩くのが大事やと言われてる。プラス10分歩くだけでいいって。痩せすぎも良くないし。」
「そうやけん。俺は家内からデブって言われてるけん、逆にあんたは太りやと言うと、私は食べても太れんのや、腸が悪いから下痢すると言い返される。」
「過敏性腸症候群かな?」
「そんな名前だったかな。だから外食もうどんくらいしか無いけん、焼肉もほとんど行かない。」
薫の知識の引き出しの多さと真面目な話ぶりに、出会い系サイトで知り合った大胆な少し危険な女ハナのイメージは払拭されていった。
すっかりリラックスしていた俺は、普段は意識して使わないようにしている方言を喋っていることに気づいたし、1時間があっという間に過ぎていた。
俺は薫にまた逢いたいなと思った。
それは、あわよくば話が合えばその先も、を期待するような下心ではなく、純粋にこの女性のことをもっと知りたい、話して見たいという、どこか青春時代に感じた道の扉を開ける、そんな気持ちだった。
しかし、店を出て車に向かう薫の後ろ姿を見ると、白いパンツ姿の大きなお尻と、立ち方の良い脚に、俺の股間がじんわり熱くなった。
56歳にして、俺は一回り歳下の薫のことをいつか、後ろから大胆に押し倒して脱がしてやりたいと感じていた。
アラ還で現地妻と純愛です 蟹江 薫 @hoshinokakera
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