電話一本ですぐ下宿先まで駆けつけてくれるような子だった。
みやざき。
独り言。
電話一本ですぐ下宿先まで駆けつけてくれるような子だった。
狭い廊下を通った先の、狭いキッチンで二人で「せまいね」って笑い合いながら色んな料理を作った。冷蔵庫の中身を取り出そうとするだけでお互いに体をちっちゃくしないと動けなくなるくらい狭いキッチンだった。換気扇もあまり新しいものではなかったから、カレーみたいに匂いがしっかりする料理を作ったあとは、いつも服に匂いが付いた、なんて拗ねたふりをしていたね。そんな姿も可愛かったんだ。
食器を洗う人を決めるのはいつもジャンケンだった。君はいつも最初にグーを出す癖があって、だから僕はいつもチョキを出していた。ジャンケンに何度も連続で勝って嬉しそうだった君の姿を思い出す。
お風呂に一緒に入ったことはなかったな。お互い照れ臭かったのは勿論あるし、なにより、ユニットバスの我が家のお風呂は二人で入るには狭すぎた。君の好きなシャンプーと僕の好きなシャンプー、家に一人でいるときもシャンプーが二種類あることにふと気づいて幸せな気持ちになってたんだよ。
僕の家のベッドはシングルベッドだったから、二人で寝るのはなかなか難しかった。初めて一緒に寝た時は、お互いにちょうどいい姿勢を探していて結局あんまり寝れなかったことを思い出す。お互いにもぞもぞと動きながらたまに目が合ってこそばゆくなる。朝が来なければいいのに、そんな風にずっと思っていたよ。
未だに電話帳から、君の名前は消せていない。
だからさっきみたいに間違って電話をかけてしまいそうになる。
その度に思い出す。
君は、電話一本ですぐ下宿先まで駆けつけてくれるような子だった。
電話一本ですぐ下宿先まで駆けつけてくれるような子だった。 みやざき。 @miyashioi
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