【小説】『貘 ―獣の夢と眠り姫―』を読みました。ここまでコテコテなラノベは逆に清々しい
2022年6月18日
引き続き電子書籍サイト「BOOK☆WALKER」のセールでまとめ買いしたガガガ文庫の感想。……まとめ買いしたくせに読むのが遅いので、購入した書籍が渋滞していますが。
しかも今回は、正直読んでいて「これはキツイぞ……」となった小説でしたので、余計に時間と体力を持っていかれた。
そんなこんなで、なるべくオブラートに包みつつも正直な感想を書いていきます。
書籍情報
著者:長月 東葭
『貘 ―獣の夢と眠り姫―』
小学館 ガガガ文庫より出版
刊行日:2021/7/21
あらすじ(Amazonより転載)
悪夢を殺す少年と、悪夢を生きる少女。電子に代わり夢を媒体とする通信技術が発展した現代。“共有された夢”の中の世界で、人々は睡眠時でさえ経済活動に明け暮れていた。人工の夢に侵入し、精神を破壊する悪性因子、〈悪夢(ノイズ)〉……
それらを武力で制圧することを生業とする者たちがいた。彼らは夢を喰らう幻獣になぞらえ、人々から〈貘(バク)〉と呼ばれていた。高校生でありながら〈貘〉としての任務をこなす少年、瑠岬トウヤはある日、車椅子に乗った“魔女”と出会う。呀苑メイアと名乗ったその少女は、何一つ自由にならないその身体をトウヤへ伸ばし、呪文のように囁きかけた――「わたしは、この世の全てに裏切られたの」と。そして悪夢を狩る少年と、儚き少女の願いが交錯するとき、災害とまで呼ばしめる悪夢、〈獣の夢〉が目を覚ます。その意志が世界を歪める、SF異能ダークバトル開幕!
あらすじをそのまま読み解くと本格的なSF作品であり、実際に作中の設定などはSF的でした。とはいえSF特有の科学考証を用いた小難しい内容ではなく、あくまでエンタメ作品としてSFを設定しているので、読むにあたってのハードルは低めです。
ただこの小説は読む人を選ぶ。SFの面ではなく、ライトノベルとして。
まず、ライトノベルのフォーマットを意識し過ぎて非常に読みにくい。
よくライトノベルだと登場人物の名前が中二病的な意味で複雑で読みにくいというものがあり、実際この『貘 ―獣の夢と眠り姫―』でも馴染みのない名前で慣れるまでに時間がかかった。とはいえこれはライトノベルでは有用な技法でもあるので別に構いません。
問題なのは、ノリが寒くて痛々しい。
主人公の人物像が結構ブレていまして、クールっぽい印象のときもあれば感情的に動くときもあり、頭よさそうに察するときもあれば察しの悪いおバカなときもあり、バトルにおいても強キャラ感があるときもあれば最弱なときもある。主人公のキャラクター性が定まっていないのか、結局最後まで主人公の人物像がつかめませんでした。
さらに登場するヒロインたちもどこか都合のよすぎる設定。もちろん男の子のライトノベルものであればそういった設定のヒロインは需要があるのでいいと思いますけど、それにしたって人物のバックボーンが薄い。
そして主人公たちの周りにいる脇役の大人たちも、「それ本当に社会人?」ってくらいに大人らしさを感じさせない人物ばかりで、このあたりも主人公たちにとって都合のいい大人としての設定になっている。人物のキャラクター設定がリアリティがないくらいに濃すぎて癖が強すぎるといった具合。
総じて、この作品において登場する人物は、「人物」としてではなく「キャラクター」として描かれているため、言動に説得力が足りてなく描写において薄っぺらさを感じさせる内容になっていました。フィクションにおいての「リアリティ」は何もリアルに書くことではなく、空想を説得力のあるかたちで描くことだと認識していますが、この小説においてはその「説得力」がゴッソリ抜け落ちている。
それでいてラブコメシーンであったりバトルシーンであったりする部分で、判を押したような過剰なラノベのノリをするので、いやこれライトノベルでもさすがにこのノリはキツイ。
なんでしょうね、これ、まるで中二病ノートをそのまま小説に書き起こしたかのような内容。いやさすがにキツイっス……。
あと細かいところだとSF設定が少々惜しかった。あくまでライトノベルなのでいちいちSF的な指摘は野暮だと思いますが、しかしながら夢を題材にしたSF設定であるのに、描かれていることは仮想世界ものと大差ない。夢に関する用語をそのまま仮想世界ものの用語に差し替えれば、そのまま仮想世界ものとして通用してしまいそう。とくにライトノベルにおいてはVRMMOが一つのジャンルとして確立しているので、設定だけではなく物語の展開としてもそういった仮想世界ものとの差別化が欲しかったですね。夢をテクノロジーとして扱っている以上、仮想世界にはなく夢ならではの考察や描写がもっと欲しかった。
それと文章で気になる点が多い。ライトノベルだと技名とかで漢字表記してからルビでカタカナを振るとかよくありますけど、この小説においてはルビで違う言葉を振る文章があまりにも多過ぎる。たとえば〝
ただここまで酷評っぽい感想を述べましたが、自分がこの小説でいいなと思ったポイントが、熱量。全体的に読みづらい作品ですけど物語における熱量は強く、またストーリー構成としても詰め込み過ぎってくらいにシーンのテンポが速い。グダグダとテンポ遅く描かれるよりはこういった爆速で展開していくお話には好感が持てます。まあ詰め込み過ぎテンポ速いことも描写における説得力の欠如に影響しているといえばそうなんですけどね。
総じて、正直ラノベファンであっても読む人を選ぶ作品かもしれませんが、逆にここまでラノベラノベしたライトノベルは個性的でむしろ清々しいのかもしれませんね。
という感じで、『貘 ―獣の夢と眠り姫―』の感想でした。
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