【小説】『筺底のエルピス -絶滅前線-』を読みました。やっぱ異能力SFはこうでなくちゃ!
2022年6月11日
前回と前々回と同じく、今回も電子書籍サイト「BOOK☆WALKER」のセールでまとめ買いしたガガガ文庫作品。タイトルは『筺底のエルピス -絶滅前線-』。
書籍情報
著者:オキシ タケヒコ
『筺底のエルピス -絶滅前線-』
小学館 ガガガ文庫より出版
刊行日:2014/12/18
あらすじ(Amazonより転載)
殺戮因果連鎖憑依体―。それは古来より『鬼』や『悪魔』と呼ばれてきた。鬼狩りの組織“門部”は、古来より改造眼球『天眼』と、時を止める柩『停時フィールド』を武器として鬼を狩り続けてきた。百刈圭と、乾叶―心に傷を抱えながら戦う二人が遭遇したのは、歴史上たった六体しか現れていない“白鬼”だった。叶の親友に憑依したその鬼を巡り組織が揺れる中、もう一つの組織“ゲオルギウス会”が動き出す。“白鬼”とは何か?二つの組織の衝突の行方は?人類の存亡をかけた、影なる戦士たちの一大叙事詩が、いま語られる。
よくライトノベルとかである異能力ものだと、能力だけを設定してあとはあたかも魔法であるかのように扱うといった、ある種のファンタジーとして描かれがちではあります。
一方今回読んだ『筺底のエルピス -絶滅前線-』は広義的に異能力ものと言えますが、その描き方はファンタジーではなくむしろ本格的なSFでした。
この作品における異能力「停時フィールド」は、つまりは一定の空間の時間を停止させるものであり、簡潔に説明すると地球外の科学力を利用した人類にとってオーバーテクノロジーが元になっている。能力には個人差が出てバリエーション豊富だが、基本的な部分としては「空間の時間を停止する」から派生したもの。またそれらの能力も科学的解釈がされており、戦闘シーンにおいても物理法則に則った展開がされているのが特徴。
そこに加えて、あらすじにもある通り鬼や悪魔の正体である殺戮因果連鎖憑依体を認識するための改造眼球といったSFガジェットなどもあって、想像以上にSFしていましたね。
あとSFの観点から読み解くと、まず地球外生命体が関与していることからある意味ではファーストコンタクトものでもあり、敵である殺戮因果連鎖憑依体の行動原理をコンピュータープログラムで解釈するという面白いアイディアもサイバーパンク的とも言えるかもしれない。さらにはその鬼(殺戮因果連鎖憑依体)を消滅させる方法にワームホールを活用したタイムトラベルや、それに付随するポストアポカリプス要素もあって、SF好きにはたまらない内容になっていました。
……というか、これ別にライトノベルじゃなくても、なんだか早川書房あたりからSF作品として売り出しても違和感がないくらいにガチのSFだったと思います。
個人的な感覚ですけど、昔『とある魔術の禁書目録』あたりから流行り出した異能力ブーム作品って、『とある魔術の禁書目録』はまだSF的ではあったのですけど、その影響を受けたフォロワー作品は表面だけなぞったのかSF要素が消えてしまって、ほぼほぼファンタジーになってしまっているものが多かった気がします。
でも異能力も超能力も元々はSFの領分だったわけですから、今回読んだ『筺底のエルピス -絶滅前線-』みたいにSFとしてガッツリ異能力をやっている作品に触れると、「やっぱ異能力SFってこういうものだよね」と腑に落ちる感覚がありますね。というか流行った異能力ものがあまりにもSF離れし過ぎてそこが違和感の正体だったのかも。
とはいえ、本編であれだけ硬派なSFをしていたこの作品ですけど、ラストはまさにライトノベルらしいまとめ方をしている。というかオチが完全にラブコメになっていたのが予想外過ぎましたね。
若干登場人物たちのキャラクター性が崩れてしまっているくらい様変わり。まあ出来事を経て登場人物たちの価値観や心境に変化が生じた故の変わりようなのですが、正直読んでて面喰った。
本編の硬派なSFはどこ行ったってくらいにノリがラノベ。まあいい着地の仕方なのでいいのですけどね。ただギャップがあり過ぎて驚いただけです。
オチといえば一応一つのエピソードとしてまとめてはいますけど、未回収の伏線などもあり、また結末としては所謂俺たたエンド(「俺たちの戦いはこれからだ!」エンド)でもありますが、そのあたりはシリーズものライトノベル第一巻特有のものですので、読んで気になったら続巻を読めばいい。確か数巻くらい出ていたはずです。
という感じで、ガガガ文庫セールでまとめ買いしたうちの一冊、思ったよりもガッツリSFしている『筺底のエルピス -絶滅前線-』でした。
セールで購入したガガガ文庫がまだまだありますので、次もガガガ文庫作品です。
……前々から薄々思ったのですけど、ガガガ文庫って意外とSFの穴場レーベルなんですよね。ライトノベルらしい青春ラブコメやファンタジー作品の陰に隠れがちですが、探せば良作SFがあっていちSFファンとしてもありがたいです。
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