【漫画】『笑顔の世界』を読みました。何もかもが衝撃的だよコレ

2021年8月22日






 ツイッターを眺めていてたまたま見かけた漫画。えらく拡散されているようで「そんなに拡散されているなら読んでみるかー」と軽い気持ちで読んでみたのですが、読み終わってからいい意味で読んだことを後悔しました。これはヤベェ……。



 該当ツイート

 https://twitter.com/ciao_manga/status/1427849070396121090



 掲載サイト

 https://ciaocomi.shogakukan.co.jp/



 読み切り漫画『笑顔の世界』

 https://ciaocomi.tameshiyo.me/D210004X001X01




 こちらのツイートはちゃお編集部公式アカウントから発信されたもの。そう、「ちゃお」です。「ちゃお」といえば小学館の少女漫画レーベル。一応Wikipediaで調べたのですが、対象年齢は時代によって変動はあるものの、現在では主に小学生向けの漫画雑誌ということです。


 まあ元々少女漫画は過激な内容の作品が多い印象ですが(偏見あり)、今回読んだ読み切り漫画『笑顔の世界』は過激とかそういうレベルではなく、どちらかといえば狂っている系のサイコホラーな作品でした。



 というのもこの『笑顔の世界』の最初のページで注意書きがされるほど。わざわざ「作品の意図をご理解の上で、お読みいただけたらと思います。」と書かれているあたり、小学生向けの作品としては刺激が強すぎるため配慮がされているのかと。あとは親御さんとか、その他一般の人からの非難に対する予防線という面もあるでしょう。それくらいの衝撃作。





 内容としては虐めを題材にした漫画になります。女子小学生の主人公の日常的なシーンから始まり、学校に登校すると虐めの現場に鉢合わせるという、無駄に目が大きい少女漫画独特の作画も相まって冒頭から実に少女漫画らしい作品。


 その後は先生に虐めの報告をして対処してもらおうとする流れになるのですが、そこからまさかの斜め上の展開へとなっていきます。あんまり詳しく語ってしまうとネタバレになってしまうので控えますが(見開き8ページしかない読み切りのため)、先生に虐めの報告をしてからはジャンル的にSFに該当する展開になるかと。


 そしてそのSF設定を活かしたラストが意外過ぎて、公開している漫画サイトでも「ここは皆が笑顔の世界。衝撃のラストに息を呑む…」と紹介されていますが、確かに衝撃のラストでした。



 コレ……小学生向けの少女漫画だよな? こんなマジ〇チ作品を発表していいのか? ちゃおヤベェな……最近の少女漫画は尖ってるなー。






 とはいえ、自分みたいなSFファンからすると、実によくできたSF作品だと感じ、素直に感心しました。まさか少女漫画でここまで読み応えのあるSF作品を読むことができるなんて思ってもみませんでした。


 SFとかでもディストピアな世界を描き「こういう世界は嫌でしょ?」といった描写をすることで、反面教師として「じゃあこうならないように生きましょう!」といった具合に、フィクションから感じた思いを我々が生活している現実世界に活かしていこうという、ある種の啓蒙の要素がSFにはあるかと個人的に思っています。


 たとえるならば、ジョージ・オーウェルの『1984年』は全体主義による徹底した管理社会を描いたディストピア作品の名作ですし、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』は書籍の所有が禁じられた社会においてメディアのあり方受け取り方を問うた作品でもあります。マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』とかは女性が子を産むためだけの所有物となった社会を描いたフェミニストSFの代表作でもあります。自分が好きな作品ですと伊藤計劃の『ハーモニー』では「慈母によるファシズム」という言葉が作中に登場する通り、過剰な健康主義や博愛主義から人間や社会について問うた作品でもあります。


 こういったSF作品、とくにディストピア作品では、過剰な世界から覚える不快感や嫌悪感の反動として得られるものが大きく、そういったものが読後の文学的なカタルシスを得られるものだと思います。またこういった作品はある種の哲学の要素も含まれており、作品を通じて自分自身のあり方を見つめ直すこともあるかと。



 そういった観点からこの読み切り漫画『笑顔の世界』を読み解くと、虐めを題材にした作品の世界はディストピア的でもあり、また設定の類も科学的で、さらには秀逸なオチまで用意している、しかもそれらをたった8ページの中で簡略化しつつすべて表現している点は、サイエンス・フィクションとして実に優れた作品であると感じました。


 とくに本来の読者層である小学生の子たちには、この作品を通して虐めというディストピアを捉え直してもらいたいですね。








 幼いころからこういった優れたディストピア作品に触れられるとは、SFとしの英才教育ではなかろうか。正直「ちゃお」読者が羨ましい。他の作品がどういった内容なのかはわかりませんが、この『笑顔の世界』のような良作SFが掲載しているならば、自分も「ちゃお」を愛読しようかと本気で考えたくらいです。




 先月記事にしました読み切り漫画『ルックバック』もそうでしたけど、読み切り漫画って時々とんでもない傑作が出てきますね。とてもいいものを読ませていただき満足した週末になりました。いやいいSFだった。





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