【小説】『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を読みました。王道的だけど、やっぱどこか普通のSFとは違うんだよなー
2021年8月17日
電撃文庫やメディアワークス文庫の登竜門でお馴染みの電撃大賞。毎年受賞作の紹介を見て、気になった作品を読むようにしています(さすがに受賞作全部は読み切れない)。
例年であれば大体11月頃受賞作発表があり、翌年の2月が3月くらいに書籍化され、積読して4月が5月頃に読むのですが、今回に限っては完全に忘れていまして……ツイッターのタイムラインが今年の電撃大賞の選考通過結果で盛り上がっていたのを見て「そういえば去年の電撃大賞の結果見てねぇや」と気付いた次第。
という感じで夏の今ようやく電撃大賞の結果を見て、大賞受賞作がSFだったので読むことに。タイトルは『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』。
書籍情報
著者:菊石 まれほ
『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』
KADOKAWA 電撃文庫より出版
刊行日:2021/3/10
あらすじ(Amazonより転載)
脳の縫い糸〈ユア・フォルマ〉――ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。縫い糸は全てを記録する。見たもの、聴いたこと、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む!第27回電撃大賞 《大賞》受賞のバディクライムドラマ、堂々開幕!!
精巧なロボットや電脳ディバイスなどといったサイバーパンク的な設定の作品。前者ではたとえば『BEATLESS』(長谷敏司)みたいな、人と見分けがつかないくらいのロボットが人間社会に溶け込んでいる設定の作品はもうすでに多くあり、また後者では『攻殻機動隊』(士郎正宗)などといった有名作品もある。というかトータルで見るとフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』とか、あと確かウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』もうそうかな? それらでもうすでに書かれている。
そんなロボット&電脳という、名作SFがゴロゴロと転がっているジャンルで、もはやSFにおいての王道中の王道と言える題材かと。
その王道SFの最新版が、電撃大賞を受賞した『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』になるかと。
この作品はよくも悪くも王道的なSFと言える。「よくも悪くも」と言うが、悪い意味で言うならば目新しさが皆無といったところ。やはりどこかで触れたような設定であることには変わりないという具合。ただよい意味で言うならば最新の感覚でアレンジしたことにより、設定的なアップグレードがされた点は評価に値すると個人的には思う。
いやだって、いくら名作とはいえ『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も『ニューロマンサー』も、重箱の隅をつつくともう今の時代では古臭くて読めたものじゃない。古典SFで発展した近未来が描かれていても、その未来像は現代の我々の感覚とかけ離れ過ぎていて「そうはならんだろ」みたいに思えて冷めてしまうかと。他の方はどうかはわかりませんが、少なくとも自分が古典SF苦手なのは「古臭い未来感」で萎えてしまうからですね。
そういうことを言うならば、いくら既視感の強いSF設定であっても、それを最新版のサイバーパンクとして提示してくれたところは素晴らしいと感じました。古典SFもいいのですけど、やっぱりSFは最新のアイディアが見たい。そういう意味でこういった王道的新作SFは貴重で意義のあるものだと思っています。
まあその他SF的な指摘をするならば、この作品における時代設定はそれでいいのか? と思わなくもなかった。作中の設定描写は実に近未来感があって素晴らしいのですが、でも明かされた設定では近未来というよりは歴史改変したのちのパラレルワールド的でもある。でもそういった設定が活かされてるわけでもなかったので、別に歴史改変とかしなくとも普通にこれから起こる(かもしれない)未来のお話として物語を進めればよかったのでは? と思った。
あと後半になるにつれてダイブしなくなっていくのは残念でした。序盤から中盤まではちゃんとダイブしていたんですけどね。後半のクライマックスとかでもダイブシーンがあればサイバーパンク的に盛り上がってかもしれない。
というのが『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』のSFとしての感想でした。
そうそう、この作品のストーリーラインとなる部分はミステリーというかサスペンスになります。まあ犯罪捜査をサイバーパンク的に捜査するお話ですので、事件が発生して捜査して犯人と対決して事件解決という所謂クライムサスペンスとしての展開になっていきます。こういうのもやっぱりどこか王道的ストーリーでもありますね。
ライトノベルとはいえ新人賞受賞作品でもあるので、ちゃんと一巻で事件解決して一応の完結はします(続刊があるのでシリーズとしては完結していませんが)。解決するのですが……犯人の動機とか捜査の進捗とか「それでいいのか?」と思わなくもなかったです(あんまりこういうことは言いたくないですけど、なんかちょっとお粗末だった)。
と、こういった王道的なSF作品ではあったのですが、しかしながら読んでいてどこか違和感を覚えるというか……王道であるのは間違いないのですが、とはいえなんかどっか普通のSFとは違うものもある感じでした。ましてはこれまでのラノベSFとも違うテイスト。
サイバーパンク的なSFであり、ストーリーラインはクライムサスペンスではあるのですが、しかしながらそれらはあくまで物語の下地に過ぎず、むしろメインで見せたいものは主人公の心理描写のような気がするのです。主人公の内面を繊細に描くドラマがメインの、ある意味では感情的なサスペンスSFのような感触がある感じ。
その違和感を拭えないまま最後まで読み、読後感の後にふと思い至りました。
これ、少 女 漫 画 だ !
いやだって、いくらロボットとはいえ年上イケメン君に振り回されて、主人公も主人公でいろいろなものを一人で抱え込んで悶々となっている不器用さんというのは、実に少女漫画らしいと思うのです(偏見あり)。
それに結局この作品って最終的に「理解ある彼氏君(相棒)できました♡」みたいな話だったし。やっぱこれ少女漫画だったのかもしれない!
SFとしては目新しさはなく、クライムサスペンスとしてもそこまで……な作品ではありましたが、一方で人物の感情を前面に押し出している部分を見ると、この作品はさながら少女漫画風SFということになり、そういうことであればある意味斬新なSFだったのかもしれないと、読後に思いました。
そういえばそうだよね。普通にサスペンスSFやるのであればお互い大人として描くし、ライトノベルであれば少年少女の組み合わせで描くから、若い女性を主人公に年上イケメンの相棒という組み合わせは一般的ではないように思え、でももし少女漫画系であれば納得できる組み合わせでもあるのかも。ホントか?
そんなこんなで、全体的に腑に落ちた感覚がある一方、もしかしたらとんでもない曲解をしているのではと思わなくもない、そんな感想でした。
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