【小説】『放課後の宇宙ラテ』を読みました。これは頭の悪いSFだ(誉め言葉のつもり)

2020年12月10日






 またAmazonをあてもなく覗いているときにオススメされた小説を読むことに。自分の場合Amazonのレコメンドで表示されるものが、早川書房か創元社か稀に河出書房新社系のSF作品か、もしくはライトノベルとかライト文芸系の小説が多いです。とはいえSFでも海外SFは読まないし、ライトノベルもどちらかといえば文芸よりのものを読みますし、ライト文芸もあからさまな女子向け作品には興味がないので、そこまでオススメがヒットすることはないのですが、たまに大きい当たりをすることもあるので侮れないのがAmazonのレコメンド。


 で、そんなAmazonからのオススメで表示された小説ですが、タイトルで「宇宙」とあり、しかもあらすじで「青春部活系SF大冒険」と書かれているのをみまして、「お! 青春ものとSFの両方好きな自分としてはもしかしたら大好物な作品かも!?」と思いそのまま購入した小説を、今回読みました。タイトルは『放課後の宇宙ラテ』です。









  書籍情報



  著者:中西 鼎


 『放課後の宇宙ラテ』


  新潮社 新潮文庫nexより出版


  刊行日:2020/10/28



  あらすじ(Amazonより転載)

 高校生になった圭太郎は、超常現象なんか信じない平凡な青春を過ごすつもりだった。が、幼なじみの未想が持ってきた数理研(実質オカルト研)の廃部室の鍵が、退屈な日々を一変させる。自称超能力者の転校生曖の「存在しない夏休み」の記憶、その真相は想像を超えた世界の秘密につながっていた。宇宙人なんていない…本当に?すこし不思議でちょっと切ない青春部活系SF大冒険。









 そんなこんなであらすじの「青春部活系SF大冒険」の文言に釣られて読みましたが、まあ確かにその通りではあります。傾向としては『涼宮ハルヒの憂鬱』とか『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』などに見受けられる、主人公の何気ない日常にふとSF的な不思議が起こるという、ライトノベル特有の青春SF(すこしふしぎ)作品といったところ。


 とはいえ『涼宮ハルヒの憂鬱』も『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』も、割と序盤から中盤にかけて明確なSF要素を出してくる作品でして、読み手としてもSF作品としての認識で楽しむことができるものでした。


 一方今回読んだ『放課後の宇宙ラテ』は、その、ラスト三分の一くらいから一気にSF化する内容。それまでの、序盤からの三分の二はいったい何をやっているかといえば、オカルトレベル都市伝説レベルのエセ科学ネタを題材にしたただの青春ラブコメでしかなく、お世辞にもSFとは言い難い内容となっております。


 ただ別に最終的にはSF色の強い内容へ変化していきますから、全体でみると正真正銘のSF作品ではあります。



 ですが……その……、ラスト三分の一のSFパートがですね……、急展開&ご都合展開のオンパレードでして、それSF以前に文芸作品としてどうなのよ?ってレベルのヤバい内容でした。



 あの、序盤の青春ラブコメのノリで読んでいると急展開&ご都合展開に失笑してしまうかと思いますし、SFとしてもそもそも半分以上はSFらしさが薄いので途中で挫折するかもしれません。


 自分もですね、ラストに差し掛かったところであまりにも唐突過ぎる超SF展開に思わず鼻水が出てしまうほど吹き出しました。もうね、「これはギャグかな?」と思わずにはいられないくらいの噴飯もの。やべぇよこの小説。






 ただ個人的にはこの作品は駄作だとは思えません。


 というのもSFというジャンルには「バカSF」と呼ばれるサブジャンルがありまして、簡単に説明すれば、堅苦しい内容になりがちなSFジャンルにおいてあえてコメディ路線で描いた作品、ということです。代表的なバカSFといえば『日本以外全部沈没』(著:筒井康隆)や『最後にして最初のアイドル』(著:草野原々)などでしょうか。


 もちろんそれら先陣の傑作と比べてどうのこうの言うのは野暮かと思いますが、しかしこのトンデモSF作品『放課後の宇宙ラテ』も、バカSFというジャンルでみれば途端に化ける作品であると個人的に思っています。



 おそらく俗に言うSF警察の人が読めば激怒を通り越して呆れ果てしまいには見なかったことにしてスルーを決め込むかと思いますし、ライトノベル的な青春ラブコメとしても純粋なSF作品としても中途半端であり、正直に言ってしまえば文芸作品としてどうかと思ってしまうほどで決して人に勧められる作品ではありませんが、しかしながらバカSFという観点でみれば間違いなく傑作だと思います。



 ほら、『最後にして最初のアイドル』も新人賞の選考会で「文芸作品として最低レベル」とか「最終選考の場にあるのはなにかの間違いではないか」とさんざん言われましたけど受賞しましたし、果てには星雲賞も取っちゃったので、やっぱバカSFって小説の常識を超越したジャンルなんだと思います(たぶん違う)。





 というか最早バカSFではなくクソSFの域に達しているかもしれない。愛すべきクソSF。






 まあそんなこんなで100パーセント読む人を選び、かつ評価も分かれるであろう小説『放課後の宇宙ラテ』でしたが、寛容な心をお持ちのSFファンであれば必読するべきバカSF(クソSF)ですので、是非読んでいただきラストの三分の一の超絶に唐突なトンデモクソ展開で噴飯してもらいたいです。






 ということで、『放課後の宇宙ラテ』の感想でした









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