【小説】『日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族』を読みました。前回も思いましたけど、やっぱりマニアックだよ!

2020年10月31日





 前回は『日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙』を読みレビューしましたが、今回は同時刊行された『日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族』について。まあ書籍のタイトルをご覧になればわかるかと思いますが、前回は恋愛系SF作品を中心に集めたもので、今回はホラーよりのSFを集めたアンソロジーになっています。






  書籍情報



  編者:伴名 練


 『日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族』


  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版


  刊行日:2020/7/16



  あらすじ(Amazonより転載)

「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と称された伴名練が、全身全霊で贈る傑作アンソロジー。日常的に血まみれになってしまう奇妙な家族のドタバタを描いた津原泰水の表題作、中島らもの怪物的なロックノベル「DECO‐CHIN」、幻の第一世代SF作家・光波耀子の「黄金珊瑚」など、幻想・怪奇テーマの隠れた名作11本を精選。全作解題のほか、日本SF短篇史60年を現代の読者へと再接続する渾身の編者解説1万字超を併録。









 怪奇篇収録作品は、


中島らも『DECO-CHIN』

山本弘『怪奇フラクタル男』

田中哲弥『大阪ヌル計画』

岡崎弘明『ぎゅうぎゅう』

中田永一『地球に磔にされた男』

光波耀子『黄金珊瑚』

津原泰水『ちまみれ家族』

中原涼『笑う宇宙』

森岡浩之『A Boy Meets A Girl』

谷口裕貴『貂の女伯爵、万年城を攻略す』

石黒達昌『雪女』


 です。



 ネタバレにならない程度に作品を紹介していきます。






『DECO-CHIN』はバンドもので、主人公がライブハウスで衝撃的なバントと出会うという話。奇形系の作品で実に怪奇らしさにあふれている。作品紹介を読むくらいならさっさと本編を読んでほしいくらいにインパクトのある作品でもあります。そこまでSF要素は強くないです。



『怪奇フラクタル男』は掌編で多くを語ってしまうと即ネタバレになってしまうため割愛しますが、ヤクザの親分がフラクタルする話です。



『大阪ヌル計画』も掌編でバカSF。バカSFというかアホSFというか。『世にも奇妙な物語』系なお話。オチは結構グロい……。



『ぎゅうぎゅう』は一つ前の『大阪ヌル計画』と似たようなアイディアのSF。密集系(?)SFとカテゴライズしてもいいのでしょうか。同じく『世にも奇妙な物語』っぽいとこもある。ただこちらは文字数的には短編で、内容もどちらかと言えばラブストーリー的で読み応えはある。恋愛篇に入れてもよかったのではと思わなくもない。



『地球に磔にされた男』は時間SFみたいな導入のパラレルワールドもの。ダメ男主人公が幾多の時間軸を巡る中で人としての在り方を見つめ直していくもので、ヒューマンドラマのような話。人物をしっかり描いていることもあり、収録作品の中でも一番ドラマ性があって読み応えがありました。個人的には傑作短編SFと感じました。



『黄金珊瑚』はファーストコンタクトとか侵略SFな内容で、SFらしいホラーがある作品。古い作品のせいもあるのか、話や設定はとても面白いものの文体に強い癖がありなんとなく読みにくさを感じた。時代的な日本語の変化みたいなものでしょうか? とにもかくにも、ストレートな侵略SFで話は面白かったです。



『ちまみれ家族』はそのまんま流血が日常茶飯事である家族の話。とにかく家族の奇怪さをメインに描いている作品で、これもある意味『世にも奇妙な物語』系かもしれない。ホラーはホラーですけどどちらかといえばおかしな話系で、コメディっぽさもある具合。SF要素はそこまで強くはない。



『笑う宇宙』は読むと精神がおかしくなりそうなタイプの作品。なんといいますか、統合失調症の脳内を見せられているかのような内容で、語り部である主人公も他の登場人物も認識している世界が全然違くて全く話が噛み合っていない話。怪奇作品であるのですが、同時に読者にも同じような怪奇体験をさせる作品かと。



『A Boy Meets A Girl』はホラーというよりはガッツリSFしている感じがする。宇宙を彷徨う宇宙生命体的な少年(?)ととある惑星にいる少女(?)とのボーイミーツガールではある。……まあ人間でもなければ少女でもないのですがね。SFとして面白かったです。



『貂の女伯爵、万年城を攻略す』は獣人系の話。SFだけど昨今ならむしろファンタジーとしての方がイメージしやすい作品。世界観や設定などはまさに超大作になりそうなポテンシャルはあり、短編にするにはもったいないような感じがしました。というか割とオチが報われなく、打ち切り漫画みたいな感じもしました。



『雪女』は昭和初期、凍傷治療の研究をしていた主人公が超低体温症の女性の診察をする話。医学的なSFかと。本質的には恋愛作品ではないものの、恋愛篇に入ってもおかしくないくらいの男女のストーリーで、これもドラマ性があって面白かったです。









 さて収録作品を簡単に紹介してきましたが、怪奇篇と銘打っているだけあってホラー寄りなラインナップでした。ただこのホラーも結構広義的で、純粋な恐怖を描いているだけではなくグロから不思議系の話、奇形異形ものなどが多かった印象ですかね。SFとしても広義であり、「SFとか興味ないけどホラーは好き」という方にも楽しめる一冊なのではと思いました。


 というか前回もそうでしたけど、この『日本SFの臨界点』というアンソロジーそのものがSF作家(SFマニア?)によって未収録作品を中心に集めたせいか、SFとしてかなりマニアックな作品ばかりが収録されている印象です。


 また前回は巻末に日本SF入門ガイドみたいな解説があったのでまだ初心者向けとして価値のある一冊だったのですが、こちらは日本SFの歴史についての解説となっており、より玄人向けに特化した一冊になった感じです。


 是非ともSF初心者の方は『2010年代SF傑作選』を読んでから、よりディープに楽しみたい方だけ『日本SFの臨界点』を読んでみるのがいいかと思います。それくらい『日本SFの臨界点』はマニアックです。








 という感じで、二回にわたって『日本SFの臨界点』の感想でした。







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