【小説】『きみといたい、朽ち果てるまで』を読みました。これなかなか精神的にくるものがあるな……

2020年4月23日





 またしても広大なAmazonを彷徨っているときに見つけた本。表紙のイラストを描いているのが好みのイラストレーターということもあり、完全に表紙買いして読んでみました。タイトルは『きみといたい、朽ち果てるまで』です。








  書籍情報



  著者:坊木 椎哉


 『きみといたい、朽ち果てるまで』


  KADOKAWA 角川ホラー文庫より出版


  刊行日:2018/8/24


  あらすじ(Amazonより転載)

 混沌とした街で懸命に生きる少年と少女の出会いと別れ――究極の恋愛小説。

 第23回日本ホラー小説大賞〈優秀賞〉受賞作。かつてこんなにも凄絶で美しいエンディングがあっただろうか――選考委員も絶賛した、生と死、夢と絶望が同居する混沌とした街で繰り広げられる、壊れたながらも究極に美しいボーイ・ミーツ・ガールの物語。

 疎外された人々が流れ着く街・イタギリの少年・晴史は、ごみ収集で家計を支えながら、似顔絵描きの可憐な少女・シズクと心を通わせ、苛烈な日常の中に居場所と安らぎを見出す。しかし運命は、静かに身を寄せ合うふたりを無情に引き裂き―。「ねぇ、お願いがあるの」薄れゆく意識の中、シズクが最期に望んだこととは?希望なき世界で出会ってしまった少年と少女の、恐ろしくも美しい究極の愛。涙と狂気のラブストーリー。








 作品の舞台となるのがスラム街のイタギリ。漢字で書くと確か「板切」だったと思います。雑居ビルが無尽蔵に無秩序に増改築を繰り返してカオスな様相を呈した街です。イメージとしてはまさに、かつて中国にあった九龍城砦を彷彿とさせます。犯罪殺人売春のオンパレードな街を舞台に、少年と少女のボーイミーツガールを描いた作品となります。


 加えて、街の名前である「板切」をはじめ、登場人物の名前も日本名となっているため、九龍城砦みたいなスラム街がかつて日本に存在していた、もしくはこれからそういったスラム街が誕生するかもしれない、といった、どことなくSFチックな雰囲気もあったように思えます。イタギリの世界観が秀逸であり、情景的にとてもエモいものを感じました。







 本筋は所謂ボーイミーツガールものであっても、物語の舞台が混沌としたスラム街となりますので、ボーイミーツガール特有の爽やかさやピュアな感じは微塵もありません。お相手の女の子もこんな街でお金を稼いで生きていますので、つまりはそういうことです。スラム街で生きる女の子がどういった存在なのかは察してください。ただ主人公の男の子もお相手の女の子も心だけは年相応のあどけなさが残っていますので、その一面は確かにボーイミーツガールらしいボーイミーツガールといえますね。醜く美しい関係、といった具合でしょうか。



 そのため、これ読む側としてはかなり精神的にくるものがありましたね。いや主人公たちはまだいいですけど(それでも少年少女の境遇を踏まえると心が痛いですが)、それ以外、登場する大人たちは基本どうしようもないクズばかりで、まともな人間が誰一人登場しません。終始胸糞悪い話が続いていきます。加えて街では平気で死体が転がっていてグロいし、欲望が渦巻いていて陰鬱だし……という感じ。ダークでグロくて胸糞陰鬱ストーリーは、正直読んでいて楽しいものではありませんでした。どちらかというと鬱々する気持ちを堪能するタイプの物語だと思いましたね。





 あとタイトルがそのまま物語のオチになっていまして、まあそのつまり死ぬんですけどね。そういうことであればこの作品もつまりは「ヒロイン死んじゃう系」に該当すると言えましょう。ですが、近年のヒロイン死んじゃう系作品でいうところの『君の膵臓をたべたい』とか『君は月夜に光り輝く』みたいな、爽やかな悲しみによるいい雰囲気でヒロインが死ぬわけではなく、作品の世界観であるカオスでダークな雰囲気に引っ張られてただただ後ろ向きで気味の悪い読後となる感じです。


 まあこのダークな印象と救いようのない少年少女の物語というポイントが、反動として強烈なカタルシスを得られる仕掛けになっているのも確かなんですけどね。この作品の感想やレビューを検索してみると結構「泣いた」とか「感動した」みたいな絶賛コメントを見かけまして、確かにそういった感想には頷けるのですが、個人的には感動よりもやはりそれまでの胸糞感があとを引いていて素直に感動できない、といった感覚が残りました。いえ別に作品が悪いというわけではなく、いい意味で「なんでこんなお話を読んでしまったんだろう……」といった振れ幅がプラスに作用するタイプの後悔のようなものを抱きましたね。いやホント、自分は一体何を読んだんだろう……。






 といった感じで、この作品を一言で言い表すとしたら「負のボーイミーツガール」といったところでしょうか。まあそのバッドエンドではあるんですけど、少年少女の物語としてはとても素晴らしい落としどころではないかと率直に思いましたね。グロ胸糞耐性がある方は読んで損はないかと思います。というかNTR耐性がある人はイケると思います。







 そんな感じで負のボーイミーツガール『きみといたい、朽ち果てるまで』でした。





 ちなみにですけど、読み終わってからこの記事を書くために一応作品のことを調べてみたら、ここカクヨムで公式公開されていたことを知りました。いやコレ本買わなくてもよかったんじゃね? とは思いつつも、角川書店公式としてカクヨム公開しているページを紹介しておきます。まあ途中までしか公開されていないみたいなので結末は書籍を読むしかないんですけどね。





【角川書店】坊木椎哉『きみといたい、朽ち果てるまで ~絶望の街イタギリにて』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054882097020







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