【小説】『君死にたもう流星群』を読みました。そうか、MF文庫J流のSFとはこういうものか
2019年9月20日
最近ラノベはご無沙汰だったので一本読んでみようと思い、けど自分ファンタジー系が苦手なのでファンタジー以外を求め、どうせならSFにしようよ探して行きついたのがこちら。『君死にたもう流星群』。
書籍情報
著者:松山 剛
『君死にたもう流星群』
KADOKAWA MF文庫Jより出版
刊行日:2018/5/25
あらすじ(Amazonより転載)
発売前から大反響 「宇宙」と「夢」がテーマの感動巨編スタート!
二〇二二年十二月十一日。それは僕が決して忘れられぬ日。
その日、軌道上の全ての人工衛星が落下し、大気圏で光の粒となり消えていった。『世界一美しいテロ』と呼ばれたこの現象にはたった一人、犠牲者がいて……! 引きこもりの少女・天野河星乃を救うため、高校生の平野大地は運命に抗う。「まさか読み終わる頃に自分が泣いているなんて考えもしませんでした」「切なさ、絶望、一縷の望みと試行錯誤の日々、さわりだけ読むはずが先が気になってもう止まりませんでした」「この作品を読んで僕も夢を諦めたくなくなりました」発売前から多くの人を感動に巻き込んだ『宇宙』と『夢』がテーマの感動巨編スタート!
作者は松山剛という方。代表作としては、ライトノベル『雨の日のアイリス』や、他にもここでも取り上げました『氷の国のアマリリス』などがあります。『雨の日のアイリス』も『氷の国のアマリリス』もジュブナイルSFとして傑作でして、今回の『君死にたもう流星群』でもSF作品としてアプローチしています。
『雨の日のアイリス』や『氷の国のアマリリス』といった作品はどことなく童話風な内容になっていまして、一般的なライトノベルとは違った作風であることが一つの特徴でもありました。少し児童文学寄り(?)な感じがあるかもしれません。
しかし今回の『君死にたもう流星群』ではその童話のような作風は封印されています。『君死にたもう流星群』はあくまでライトノベルの作風でSFを描いています。
というのも、『君死にたもう流星群』が出ているのはあのMF文庫Jなのです。『雨の日のアイリス』や『氷の国のアマリリス』のように、ある意味なんでもありな電撃文庫ではありません。あのMF文庫Jです(二度目!)
これは自分の偏見かもしれませんが、MF文庫Jって数あるライトノベルレーベルの中でもギャルゲーやエロゲーの要素を含んだ作品が多いような気がします。ファンタジーであったり学園ものであったり異能力ものであったりしますが、基本としてはギャルゲーエロゲを彷彿とさせる美少女たちとイチャイチャするラブコメがMF文庫Jのレーベルカラーと認識しています。たまにビックリするぐらい頭の悪い作品が出てくるのもMF文庫Jかと思います(一応誉め言葉のつもりです)。
一方でMF文庫JでSF作品は珍しいような気がします。ライトノベルでSFというとどうしても電撃文庫やガガガ文庫といった割と自由なカラーのレーベルから出版されている印象があります。まあそれもわからなくもなく、昨今エンタメとしてのSFって商業的に消極的であると思いますし。
とくにこの記事を書いている今このときは、まさに某SF漫画のレビューがネット上で騒動となっていまして、無粋なSF警察によってSFというジャンルに対して萎縮してしまうということがはっきりとしたかたちで表に出てきてしまった感がありますね。あの漫画はハードSFじゃなくて少年漫画のエンタメSF作品だし。正確な科学を求めているなら論文なり科学雑誌なり読んでろ! エンタメに何を求めてるんだ!
と、少々話が脱線しましたが、つまりはデリケートになりやすいSFというジャンルを、まさかのラブコメ大手のMF文庫Jが出しているとは思ってもいなく、軽く衝撃を受けています。しかも『雨の日のアイリス』『氷の国のアマリリス』の作者である松山氏を引っ張ってくるとは……。MF文庫Jにしては実に挑戦的であると感じました。
……とは言ったものの、ではMF文庫Jが本格的にSFに挑戦したのかといえば、そうでもないんです。この『君死にたもう流星群』はMF文庫Jのカラーに合わせた仕上がりになっているのです。そう、つまりは青春ラブコメです。
『君死にたもう流星群』には、滑り台系の女友達に親友悪友ポジションの野郎も出てきて、さらには妹系幼馴染ポジションのロリ担当も登場し、ニヒルに拗れた主人公が絵に描いたような美少女のメインヒロインのために奔走するといった、これでもかというほどのギャルゲーエロゲ的な青春ラブコメをベースにしています。
こういった登場人物は最早ライトノベルのテンプレートと言っても過言ではないくらい、様々なラノベ作品で見かけるフォーマットのように思えます。ある種ラノベの基本とでも言うべきかと。
この『君死にたもう流星群』はSFではあるものの、こうしたライトノベルらしさをしっかり押し出している作品です。近い傾向だと、『涼宮ハルヒの憂鬱』(スニーカー文庫)とか、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(電撃文庫)などといった、すこしふしぎ系青春SFの系統だと思います(ここでの「すこしふしぎ」は言葉通りの意味ではなく、SFジャンルとしての意味)。
言ってしまえば、ついにMF文庫Jもハルヒや青ブタのような青春SFに手を出したかー、といった具合でしょうか。ファンタジー一辺倒のラノベシーンの流れを変えようよしているのか!? ……まああくまで青春ラブコメであり、ラブコメものであれば今も昔も変わらず刊行されていますから、流れとしてはその一環だと思いますけどね。気まぐれで変わり種を出してみたのかも?
と、ここまで記事を書いたところで『君死にたもう流星群』という作品の内容について一切語っていないことにようやく気がついた次第。自分でも何を書いているのかサッパリわからん。駄文で二千字に達しているし……。そろそろ内容について触れなければ。
『君死にたもう流星群』のストーリーを簡潔にまとめるとしたらこうなります。
全ての人工衛星が墜落して大気圏で燃え尽き「世界一美しいテロ」と評されのちに「大流星群」と呼ばれた事件の際、最年少宇宙飛行士であるヒロインは国際宇宙ステーションにいて、国際宇宙ステーションの落下に伴いヒロインも大気圏で塵になった、という前置きのもと、事件のショックで腐った大人主人公が堕落した生活をしているという冒頭で物語は始まります。で、物語は「大流星群」直前の過去のヒロインから時空を超えて連絡が来て、「スペースライター」なる過去に情報を送るタイムマシンの存在が天才ヒロインから明かされます。そして主人公はヒロインを救うため「スペースライター」で自分の記憶を過去の自分に上書きすることでタイムリープをし、ヒロインと出会う前に戻ってきて二周目の時間を過ごすも過去改変によって事態は思わぬ方向へ行ってしまう、という具合。
言ってしまえば某君の名は。や某シュタインズゲートのようなノリです。作品の概要としては、最早手垢がつくほどやりつくされた感のあるタイムリープものですが、一方で「スペースライター」の設定等が
刊行の時期的に、『君の名は。』以降に便乗したように出てきた時間系青春作品にカテゴライズされるかと思いますが、しかしそれら時間系青春作品群の中でもこの『君死にたもう流星群』はよりSF感を意識したものになっているというか、事実ちゃんとしたSFになっています。(というか『君の名は。』便乗青春作品が不思議パワーでタイムリープするファンタジー作品ばかりだったのですがね)なかなかいい感じのラノベSFでしたね。
ただあえて不満があるとしたら、シリアスに風呂敷を広げて話を大きくした割には、オチは結構こぢんまりしている印象を受けました。結局「大流星群」解決してないしヒロインの運命も救ってないし。しかしこの『君死にたもう流星群』はシリーズもののようであり現在4巻まで刊行されていて今後も続巻が出てくるようなので、シリーズものの1巻目としてはこんなものかと思います。シリーズの序章的なエピソードとして一応主人公とヒロインの関係に一区切りついていますしね。今後の展開次第では名作ラノベに化ける予感かする、というのが素直な感想でした。
といった具合で、今回は『君死にたもう流星群』についてでした。「MF文庫J流のSFとはこういうものなのだ!」といった感じで納得させられたタイトルでしたので、SFだけど青春ラブコメ好きに刺さると思います。ラノベファンであればチェックして損はないと思いますので気になった方はどうぞ。
あとこれは個人的に感じたことですけど、今作の主人公は残念なリアリストであり夢を抱くことに否定的でして、物語を通じて主人公の考えに変化が生じるといった、ある種「夢」が作品のテーマでもありますが、自分はどちらかというと学生時代の夢をかなえてしまったタイプの大人のため、作品のテーマ性というか主人公の主張がイマイチ刺さらなかったです。ただまあ共感できなくとも主人公の言いたいことはわかりますし、そもそもライトノベルのメインターゲットは自分みたいな大人ではなくリアルな中高生ですので、現在進行形で夢を追いかけている若者には思いっきり刺さると思いました。以上!
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19年2月1日公開
【小説】『氷の国のアマリリス』を読みました。こりゃあたまらねぇ! 女性受けもしそうな感動系SF!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054888376324
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