一人っ子の散文

*フィクション含



 アメリカのある心理学者は言った。

「一人っ子はそれ自体で病気だ」と。


 私は一人っ子だ。

「ひとりだとかわいそうね」

「もうひとりいたほうがいいんじゃない?」

「大変ね」

「一人っ子って我侭っていうじゃない」

 などの言葉を聞いて育ってきた。

 だけど私自身は私のことをかわいそうなんて思ったことはない。

 ここに今存在する私は兄弟がいないからこそ出来上がった人格の私なわけで、兄弟がいたら私は私でなくなってしまう。


「妹がウザいんだよー」

 また始まった、兄弟の話。正直なところ単なる兄弟自慢に聞こえるのはおそらく私が一人っ子だからだろう。兄弟に関する悩みがよっぽど深刻なケースでない限り。

 こういう話をする子には、必ずこう返すことにしている。

「じゃあ妹死んだらどうする?」

 すると、それまで声高に兄弟の話をしていた彼女は答えに詰まる。

「え、それはちょっと……困るかなぁ」

 と彼女は苦笑いし、それで兄弟の話題は終わる。


 兄弟なんかいないほうがいい。

 年上の兄弟がいる人は我侭で甘えん坊だし(それは寧ろ一人っ子かもしれないが)、年下の兄弟がいる人は趣味が子供っぽい。

 人に影響されない一人っ子が一番いい。

 休日兄弟と遊びに行ったりして時間を浪費することがない。

 私は一人で部屋にこもり続ける。


 一人っ子同士は親友になりやすいと言われている。

 もともと人はどこかしら欠落間があって、それが特に強い一人っ子同士はそれだけで仲良くなれるのだと。

 確かにそれは合っているかもしれない。


「本当は兄弟欲しいんじゃないの?」

 誰かが問いかけてきた。

「そんなことない」

 私は否定する。

「本当に? 本当に?」

「本当」

「本当は欲しいんじゃないの?」

 顔が迫ってきた。大きな瞳に飲み込まれそうになって飲み込まれて……

「本当はさびしいよね?」

 と言われたところで目が覚めた。

 どうやら夢を見ていたらしい。



 そもそもこうやって「兄弟のいる人」と「一人っ子」と区別するのが何か少しずれているのだろうか。

 一人っ子は決して特別ではない。

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