第24話

第24話

「…………」

 絶句している藤木の後ろから、ふーっというため息が聞こえ、田之上が進み出た。


「別にいいんじゃないか、今更取り繕わなくても。早く寝台に寝かせろ」

 老人とは思えぬ力で透子の肩を掴む。


「やめて、何を……!」


 暴れる透子を押さえつけながら、「オイ、早くしろ!」と藤木に一喝した。


「あ……ああ」


 透子の変貌に驚いて突っ立っていた藤木は、我に返り駆けつけた。必死で抗う透子をベッドに引きずり上げ、ベルトで固定し、身動きできなくした。


「何をするんです!」

「すみません」藤木の目が鈍く光る。「私は、医師(せんせい)に協力しなけりゃならない」

「どういうこと?」

「オイオイ、厭々やっているポーズはやめてくれ」田ノ上は肩をすくめた。「ワシとお前、一蓮托生だろ」

「藤木さん……」


 透子が縋るように呼びかけると、藤木はゆっくりと奥にあるカーテンをそっと開けた。


「――見えないでしょうが、私の妹です」


 一人の少女が寝かされていた。深い眠りについているのか、この騒ぎにもぴくりともしない。


「重い心臓病だと申し上げたでしょう? もう意識もない状態なんです。早く治療しないと死んでしまう。けれど、ほとんどの医者は匙を投げてしまった。田之上医師以外は」


「では……では、田之上医師に治療して頂けばいいではありませんか」

 透子が震えながら言うと、藤木は微笑みながら「ええ」と頷いた。


「そのために、貴女の協力が必要なんです」


 どういうこと?


 そう問う前に、田之上が少女の傍に置いてある金庫のようなものをトントンと叩いた。


「これは私が作った心臓の保存庫だ。あんたの心臓をここに入れさせて貰いたい」

「な……?」

「心臓を移植するんです」藤木はカーテンを閉め、透子に向き直る。「彼はその研究をずっとやってきた医師なんです」


「……私の心臓を……あなたの妹に……?」


 何を言っているのかわからない。できるわけがない。そんな、魔術みたいなこと――。


「できるはずなんだ。私は昔、腎臓を移植したことがある。一度きりの成功だったがね」田之上は誇らしげに唇を曲げた。「欧米では普通に研究されていることなんだ。しかしこの国の人間は頭が固く、私がやったことを信じず、さらに嫌悪感を示した。頭のおかしいヤツだとなかったことにされ、私は医学界から追放された」


 驚きのあまり、震えながら言葉の出ない透子にはお構いなしに、苛立たしげに指を噛む。


「そこからモグリでずっと研究していたんだそうです」藤木が続けた。「私と出会ったのは偶然だった。妹のことを話すと、心臓そのものを変えればいいと言ってくれた。移植すればよくなると」


「しかし、なかなかあの少女に適合する心臓がなくてね、困っていた。――そこで、君だ」


 田之上は一歩ずつ、ゆっくりと透子に近づいて行く。嬉しそうに。


透子は必死でもがいたが、ベルトががっちりと体を締め付けている。逃げられない――。


「血液検査の結果、君は適合する可能性が高い」


 血液検査――その瞬間思い出した。孤児院で採取された血液は目ではなく、心臓移植の検査に使われたのだ。


「貴方なのね。心臓を移植するために、三人もの人間を殺したのは」

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