第19話
第19話
「糸谷です。よかった、庭にいらしたのですね。探しました。てっきり部屋にいるとばかり……」
声をもう一度聞いてがっかりした。――新しい護衛の刑事だ。透子のことを盲目なので部屋に閉じこもってばかりだと思っているせいか、あまり透子の行動を把握しようとしない。
「どうなさったのです?」
「つい先ほど、伯爵令嬢が殺されました」
「えっ……」また一人、殺された――。「殺されたって……どこでです? 近くですか?」
「いえ、遺体が見つかったのは江戸川区のようです。公園に捨てられていたと」
「どちらのご令嬢なんでしょう?」
「ええと、私も今事件の一報を聞いたばかりでこれ以上の詳細を知らんのです。多分一連の殺人事件と関係あるのだろうと……それで、もう一人の刑事は捜査にあたらなくてはいけなくなり、こちらの護衛は私一人になります。ご不安でしょうが、精いっぱいつとめますので」
「あの……捜査は進んでいるのでしょうか。犯人の目星などは……」
「いえ、それは捜査上の秘密となりまして」
「そう、ですか……」
どうなっているのだろう。いつもなら情報を仕入れてくる明とも今話せないので、捜査が進んでいたのかさえわからない。
いつまでこんなことが続くのだろう……。
「ちょっと電話しなきゃないらないので自働電話まで走ってきますね。すぐ戻りますから」
あたふたと門の方へ駆けていく刑事の足音を聞きながら、透子は部屋に戻ろうと踵を返した。ぽつり、と滴が頬にあたる。――雨だ。と思うが早いか、サァァー……、と細かい雨が髪や衣服を濡らしていく。
――――匂い。
「――透子さん」
聞き覚えのある声。どころか、ずっと聞きたかった、声。
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