第16話
第16話
「どこに行っていた?」
家に着くなり鋭い声が響いた。
玄関で待ち構えていたらしく、透子が草履を脱ぐより先に腕を掴まれた。目の前に明の険しい顔があった。
「あ……、ちょっと散歩に……。ご、ごめんね、黙って出てきてしまって……」
「何が狙いだ?」厳しい口調は、透子にではなく、藤木に向けられたもの。「透子が外に出たことがないのは知っているはずだ。どうしてこんな無茶をさせた?」
「申し訳ありません」藤木は頭を下げた。「お嬢様が目の見えないことに劣等感を抱いているようでしたので、外に出れば少しでも気が晴れるかと思い、周辺を散歩しておりました」
「それは仕事の内なのか?」
「いえ……違います」
「では職務放棄ということか」
「違います。外に出ても必ずお守りする覚悟でした」
「けれど危険が増すのはわかりきっていることだ! 何かあったとき一人で守れたと断言できるのか!」
藤木は口をつぐんだ。
あまりの剣幕に、透子も圧倒されていた。こんな明を見たのは初めてだった。
「言え、どういう了見で透子を連れ出した」
「明、待って」透子はたまらず口を挟んだ。「私が悪いの、私が外に出たいと我儘を言ったのよ」
「いえ、透子さんは悪くありません。私が外に出ようと誘いました。透子さんが家の中にいても孤独なのを知ったからです」
「……なんだと?」
掴まれた腕に、力がこもった。
「体は健康のはずなのに外に出られないのが、お可哀相だと思ったのです。同じ年頃の娘さんたちは女学校に行ったり、お友達と遊んだり、そんな普通なことができないなんて……」
「黙れ! そうだとしてもお前には関係のないことだろう!」
大きな声に、女中たちが何事かと姿を現した。透子は焦って、腕を掴んでいる手に、自分の手を重ねてなだめた。
「明。部屋に戻ろう」
はっと我に返ったのか、明は手を緩める。だが目線は変わらず厳しい目つきのまま、「福田警部に連絡させてもらう。処分は彼にお任せする」と言い捨て、透子をひっぱりながら奥に入って行った。
廊下を曲がる寸前振り返ると、藤木はその場から動かず立ったまま、頭を下げていた。
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