take me out to the library
目が覚めるとバスに中にいた。
からっぽになったバケツの中には洗剤の代わりにびりびりに破れた白いワンピースがあってバスには大きな穴があった。それと知らない女の人が眠っていた。音を立てないようにゆっくりと外に出ると辺りは薄く明るくなっていた。まだ大丈夫だけど昼になったら暑くなりそうな気温だった。
地面には骨だけが残っていた。それを見ても夜に起きたことが現実のことだとは信じられなかった。骨を見たのは初めてだけど近くで見てもやっぱり本物に見えた。
「殺された相手を殺しただけだよ」バスの中から声がした。
起き上がった女の人にバケツを叩きながら「もしかして余計なお世話だった? もう一度やるんなら止めないけど」と訊かれたけど、自然と首を横に振った。あんな苦しいことは二度としたくなかった。それなのに体はもうどこも痛くなかった。
「体の調子は?」と訊かれてそれに気づいた。殴られた頬の痛みも消えていた。
「気まぐれにやってみてもできるもんだね」と、いかにもついでと強調するみたいに女の人が言った。
命の恩人ということになるのだろうか。仕事でのお金も使い道がなかったからいくらか貯まっていた。少しぐらいならお金を払えることを言ったら女の人は面白いジョークでも聞いたみたいな感じで笑い出した。
廃車置場に女の人の笑い声が響く。嫌な感じはしなかった。
「気にしないで。それにもう使い道なんてないしね。あー、一生分笑った気分」
ひとしきり笑った後にそんなことを言ってたけど、それほど変なことだったのかと思っていたら、お腹がなった。まだ開いているお店はなさそうだった。
靴が飛んできた。
「サンドイッチぐらいなら出せるけど?」
少し考えたけどもらうことにした。変な話、たぶん人を殺しているのだろうけど、悪い人には思えなかったから。
女の人の方を見ると手のひらからバスケットボールぐらいのシャボン玉のような膜が出ていて、それが骨に当たった。ぱん、と音がして骨を地面ごと消し飛ばした。
女の人は何も言わずに歩き出したから、何も聞かずに後ろについていった。
家に帰ったら足の爪を切ろうと決めた。
女の人の部屋はベッドと冷蔵庫と小さなテーブルぐらいで、物があまりなかった。ほとんど寝て起きるだけの部屋。他には床にあるお酒の瓶と窓のそばある植木鉢ぐらいだった。
出してもらったサンドイッチはレタスとハムをはさんだだけの簡単な物で、水でゆすいで水滴の残っているグラスにオレンジジュースを入れてくれた。美味しかった。
食べている最中に仕事のことを訊かれたので簡単に答えたら場所を知っているみたいだった。仕事中に野球のラジオが流れていることも知っていたから使ったことがあるのかもしれない。
お腹の中に物が入って体が少し温かくて眠くなってきた。ベッドを使ってもいいと言われたけど、仕事があるからと断ったらまた笑われた。
「自殺しようとした次の日に?」そう言われても仕事を休む理由もなかった。
女の人は何か考えたかと思ったら急に〈take me out to the library〉とラジオから聴いたことのあるメロディで歌った。
ぽかんとしていたら「何か言ってよ」と言われたので歌が上手ですねと褒めたら頭を小突かれた。痛くはなかった。
命を救われたお礼に図書館に連れて行く約束をして、お店にはメールで連絡を入れた。最中に「メール使えるんだ」と言われたけど、今どき使えない人の方が少ない。店主の人は少し苦労してるけど。
そのまま昼まで眠った。ベッドは硬かったけど寝心地は良かった。
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