第59話 last case 探索編 3

「おら小僧、出番だぞ!」

「まったく、何なんですか一体」

「あははは、ごめんね平和通へいわどおり君。ちょっと君に協力してほしい事があるんだ」


 倫太郎と晴彦に拉致された帰宅途中の少年はやれやれと肩をすくめる、少年の名は平和通和孝へいわどおり かずたかとある実験の過程で生み出された人造賢者である(case2)。

 倫太郎は彼を拉致したのち、ある意味では彼の生みの親である天災科学者弥生ケ丘阿賀やよいがおか あがさ博士(case2)の元へ向かう。その道すがら晴彦はこれまでの経緯を彼に説明したのであった。


「へぇ、そんな事が起こってるんですね」

「うん、そうなんだ。それで君の情報収集能力を借りたいって話なんだけどね」

「借りたいじゃねーよ、強制収用だ。今までの付けまとめて返しやがれ」


 倫太郎は感情むき出しの荒っぽい運転をしながら、投げ捨てる様にそう言った。


「まぁまぁ、落ち着いてってば倫太郎。あー、平和通君。ごらんのとおり今彼ちょっとナイーブな事になってるから、大人しく言う事を聞いてくれるとお兄さん助かるなぁ」

「ふぅ、個人的な案件に僕たちの力は使いたくはないのですが、そうは言える状況じゃないですね」

「あははは、そういう事みたいだね。それとどうだい、君だって何時までも本性隠して生きていける訳はないって分かってるだろ? これを機に(一社)日本忍者忍術協議会うちとつながりを持っておくのも悪くない選択だと思うよ?」

「やれやれ、僕はまだ中学生ですよ。就職の斡旋は少しフライング気味だと思いますが」

「おい晴彦、余計な事話してんじゃねぇよ」


 不機嫌な倫太郎に口を挟まれた晴彦は、肩を竦めつつも、和孝に名刺を渡し、よろしくねと念を押したのだった。





「おう博士。さっき連絡したとおりだ。スパコン使わせてもらうぜ」

「んーかまわんぞい。それにしても何やら大変な事になっちょるみたいじゃな」


 ドカドカと押入って来た男三人を阿賀博士は麦茶を差し出しながら受け入れた。彼らの目的は博士が作成した異次元的能力を持ったスパコンである。

 それを用いて、敵の正体を割り出そうというが今回の目的であった。


「おら小僧。とっととやれ」

「全く、仕方のないこととは言え、何時にもまして乱暴だなぁ」


 和孝はそう言いながら、スパコンの前に腰掛ける。


「うるせーぞ小僧。やるのかやらねぇのかどっちなんだ」

「やれやれ。やると言っているでしょう。少しは落ち着いて下さいよ倫太郎さん」


 そう言って和孝は博士からレクチャーを受けた後操作を開始したのであった。





「それじゃあ、お義母かあさんはどうやって洗脳されたかは分からないの?」


 鈴子は、静かに眠る美奈子の手を優しく握りながら、そう洞ノ助に疑問を投げかける。


「いや、その方法は判明している」


 洞ノ助はそう言って鈴子が握っている美奈子の手の袖を捲り上げた。そこには、絆創膏の様にぺたりと張られた護符が一枚、彼女の白い腕に張られてあった。


「お義父とうさんこれは……」


 その異様な光景に発した問いに洞ノ助は美奈子の袖を戻しながらこう答えた。


「小さな、カミソリで切った様な傷があった。その傷自体は大したものではない、秘伝の軟膏を塗ったら、傷跡1つ残さずに消えた程度だった。

 だが、問題は傷の深さではなかった。それには洗脳の呪いが付与されていたんだ」

「それが……」

「ああ、プライズの中には、それで傷を負わせることにより洗脳状態にする物が幾つか確認されている。おそらくはその類の品を使われたと、これを見てくれた専門家が言っておった」

「それで、プライズを破壊することが、洗脳を解く方法だって言ったのね」

「ああ、だがプライズだけを破壊して済ますなんて言う気はさらさらない。これを仕掛けた下種野郎の全てを破壊してやる」


 ミシリと拳を軋ませながら、洞ノ助はそう呟いたのだった。





「にゃっにゃっにゃ! 旨いにゃ! 旨いにゃ!」

「はぁ、姫さんは。何でもお食べになられるんですね」


 姫の眼前にあるのは多種多様なスイーツの盛り合わせだった。その中には犬猫には禁忌とされるチョコレートもあるが。姫には全く関係のない話のようだ。


「当たり前だにゃ、儂は猫では無く化け猫だにゃ。生物としての猫がどうあろうと知ったこっちゃないにゃ」

「お嬢様、お嬢様。もしやこの猫、このままなし崩し的に居座るつもりでは?マスコット枠はそれがしで十分だと思われますが……」

「2重の意味で安心なさいあかなめ。あくまで彼女はこの事件が解決するまでの用心棒、そして貴方は断じてマスコットではありませんわ」


 訳の分からぬ心配をし、ぬめぬめとすり寄ってくるあかなめに、由紀子はぴしゃりとくぎを刺す。


「しかし、姫さん。言われるがままに貴方を接待していますが、私の家に用心棒なんて必要なのですか? 確かに株券はお母様が所持していらっしゃいますが、その管理はデータ上でのやり取りですのよ?」

「にゃ~。そんな事知ったこっちゃないにゃ。儂はただ旨いもんが食えるからって此処に来ただけにゃ」


 不安的中とばかりに由紀子は頭を抱える。家には唯でさえ妖怪を1匹飼っているのだ。これ以上居つかれたら、何かの拍子に雪だるま式に増えてしまうのではないか。そんな悪夢を彼女は幻視してしまったのだった。

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